ふぁーみんぐ通信02年9月号


 1週間の研修生活は楽しい 
〜麻挽き2年目の巻〜


●キャンプ、温泉、麻挽き

2年前の夏、黄金色に輝く麻のカーテン(麻繊維が干してある様子)に感動した。
麻から繊維をとることを「麻挽き(あさひき)」という。これは、群馬県指定の伝統
技術であり、その輝きはおそらく世界一の「麻」といってもよい。

この技術を若者が学ぶために昨年から麻に興味のある人を集めて、麻挽きの
ワークショップを実施している。昨年は、天候不順のために長野県での実施
(ふぁーみんぐ通信01年8月号記載)になったが、今年は元気に、無事に麻が
すくすくと育ったので、いつもどおり群馬県での実施となった。

車で40分行くとすぐに草津温泉という温泉地で、麻挽きの会場である神社で
キャンプイン生活。3度の食事はほどんど自炊で、夕方には毎日、異なる温泉に
入る。あー、なんて幸せな夏休み。。。伝統技術を学ぶというとちょっと堅い感じ
がするが、この場所にキャンプと温泉があるので、とっても楽しい気分になれる。


●岩島麻保存会の伝統技術、復習すると、、、、

播種:種まき、間引き
収穫:麻こぎ、根きり、葉きり、押し切り、麻煮、麻干し
加工:水浸し、ねど、麻はぎ、麻挽き、乾燥

という年間の作業工程があり、今回のレポートは、加工の部分での話である。
写真で見ないとわからないという方はこちらを見てから、以下の文を読むことを
お薦めする。
http://www.hemp-revo.com/hempfarm/kakou/kakou.htm

この技術を習いたいならば、原材料の麻茎は自分たちで調達、道具も自分たちで
用意(新しくつくった)するという条件で実施している。今年は、麻茎(栃木県産)、
道具(10セット新しくつくる)を準備して、いざ群馬県へ!!!


●麻の醗酵=ねど → 2日半前から行う重要な下準備♪


岩島地方では麻の繊維と芯を分離させるための醗酵プロセスを「ねど」という。
栃木県では床臥せ(とこふせ)という。多分、昔は日本各地で麻を栽培していたから、
地域ごとに作業の名称が異なっていたと思われる。

が、岩島麻保存会の会長さんに「今年もよろしくお願いします」の挨拶電話で
「明日の朝8時に来てもらわないと困る!」と急に言われて、なんだか行かないと
話にならないような感じを電話の向こうから察知した。仕事がたまっていたので、
突然、ピンチ!!の状態。結局、夜2時半に寝て、朝4時に起きて東京を出発。
肉体的にかなり無理して現場へ急行。

眠い、眠いを我慢して、さわやかに「おはようございます!」と保存会のおじさん、おばさん
に声をかける。そして間もなく、自分たちの身勝手さに気づくことになった。
ねどという醗酵プロセスは、2日半かかるので、麻挽き(繊維をきれいにする作業)
をする下準備を2日半前からしなければならない。原材料の麻茎を3日前までに郵送
して、下準備を保存会任せにしようという私の浅はかな考えは、甘かった。
 
保存会の方に「ねど」をお願いするのは量的に無理があった。私たちが購入した栃木
県の麻だと1束が8kgの束で、人が両手で抱きかかえるぐらいの量であった。これを
「ねど」するには、1束15〜20cmぐらいの束に仕分けする必要があったのだ。
今回の麻挽きの練習用に8kg束を10本も購入していており、これを小さい束に直すと
48束(8kg束の8本分、2本は予備へ回す)できた。

保存会の全部の量が55束、人手は10名、我々は3名+1日だけ体験が13名
どうみても練習用の量にしては多すぎる。新しい「ねど」の場所をつくることも保存会
の方々に検討させてしまうぐらいの量であった。

「ねど」をしてから、2日半後にちょうどよいぐあいに麻の繊維と芯が分離しやすい状態に
なり、そこでやっと麻剥ぎ、麻挽きの作業ができる。2日半後のことを考えて、「ねど」を
入れる量を決める。麻挽きができるまで2日半は、自分たちの作業ができないので、
保存会がやっている麻剥ぎ、麻挽きをじっくり見学することにした。
上手な人の麻挽きをよく観察することも伝統技術を学ぶ第一歩なのだ。
 
以下は、「ねど」入れを実施した本数である。

          28日 29日 30日 31日 1日 2日
朝   8時        5本   5本    5本  4本 4本
夕方 17時    5本  6本  4本  4本  3本 3本

※31日に13名が来る体験ワークショップを実施した。

一人で3本できると仮定した。保存会の先生方は、1日に一人で6本が平均だそうである。
これを基準にすると主に3人が常時いたので、3名×3本=9本が1日に「ねど」する量と
なる。
後から考えると、栃木の麻は、岩島の麻より2分の1以下に細かったので、1本当たりの
量が多い、多い、多い!やりきれないことが判明して、醗酵した茎を元に戻すために
干してしまった束(岩島の用語では「抑制」という)が6本ぐらいでてしまった。

「抑制」したものは、水に2〜3時間で再び、繊維と芯(オガラ)が分離しやすくなり、
麻挽きができる。しかし、やや挽きにくく、できた精麻は黄金よりもやや茶色いものに
なり、質が劣ってしまう。


●麻挽き(おひき)=技術も大事だが、道具も大事


2日半ぐらい醗酵させた茎から繊維だけを手で取り出す。これを麻剥ぎ(あさはぎ)という。
保存会では、麻剥ぎは女性の担当、麻挽きは男性の担当となっている。しかし、我々は
自分で剥いで自分で挽くことをモットーにしている。なぜならば、全プロセスを学ばないと
それぞれの作業での意味がわからないからである。

作業での意味。。。この言葉は超重要なキーワードである。すべての作業のやり方には
「意味」があるのである。この伝統技術は少なくとも400年間の試行錯誤とノウハウの積み
重ねがある。頭ではわかっていても、実際にやってみないと意味がわからない。単純に
やってみるだけではなく、自分のやり方と保存会の先生方のやり方の違いに気づかないと
わからない。なぜ自分がうまくできないかを発見しないと「作業での意味」がわからない。

昨年は、1日で数回だけの体験だったので、道具の善し悪しなんて全く気にしなかった。
しかし、1日に何回も麻挽き(麻の繊維から表皮や不純物を取り除く作業)をやると技術
だけでなく、道具のことも考えてしまう。知り合いの麻農家&大工さんがせっかく作って
くれた道具にケチをつけるのは、うまくできない素人の言い訳のような気がした。
でも、わからないことはわからない、先生(保存会の方々)に相談してみた。

指摘された点

麻挽き道具は、2日前から竹棒で麻挽き台についている板を押さえて縛って、水につける
→水を吸うことで、板と台をくっつけて、微妙なカーブをつけると麻挽きがしやすくなるから

板をこすっていると逆目ができる
→板はヒノキをつかっていたが、曲がって生えている売り物にならないヒノキを縦に切って
  麻挽き包丁で挽いてみて逆目ができないところの板を選ばないとダメ。

麻挽きするときに座るための腰掛台が高い
→寸法を間違えた。腰掛台が高いと足を余計に動かさないとダメになる。

担い棒は、繊維つきの麻茎でつくるが、繊維がささくれないようにつくる
→せっかくの精麻が担い棒にひっかかってダメにするのを防ぐため。

麻挽き台の板をメンテナンスするために「板こき」をつくったほうがよい
→何回も麻挽きをしていると板が削れて、よい精麻が取れなくなるから

麻挽き包丁の刃と柄はまっすぐ平らでないといけない
→包丁の刃と柄の部分に麻粕が溜まりやすいから

なんだか、体験していない人にとってはなんの作業プロセスのことを指摘されているのか
さっぱりわからないかもしれないが、とにかく、細かい部分に「意味」があるということ
である。

1週間も作業を連続でしていると先生方も道具のメンテナンスに結構、時間を費やしている。
私は、先生方の道具は古いからメンテナンスが大変なんだなーとしか考えていなかった。
自分たちのは新しいからメンテナンスフリー!!と考えていたら大間違い。道具を完全に
再現してつくったつもりが、細かい部分で先生方の道具とは違ったのだ。


●麻茎=から がもっとも大事!

岩島麻保存会では、麻づくり(栽培、収穫、加工)でのポイントを

一、から : 麻の茎の状態がよいこと まっすぐに、ちょうどよい太さに育っていること
二、ねど : 繊維がちょうどよくはがれ、強靭さが残っている状態での醗酵がすすでいること
三、ひき : 麻の繊維をきれいにとる技術・道具があること

という3つあげている。今回、購入した麻茎(岩島では「から」と呼ぶ)は、栃木県産のもので
ある。栃木県では麻挽きを機械でやっているため、細いほうが都合がよいらしい。
 昨年は、栽培の段階で間引きをしなかったために太い茎ができて、保存会の方に散々、
「こんな太ければいい繊維とれない!」と言われていて、今年は「こんな細いものは、屑麻だ」
と言われる始末。

そこで、栃木と岩島の茎を徹底的に比較してみた。

        背丈         太さ         茎の断面の穴   節間  
栃木   160〜180p   小指の2分の1       小さい      10〜15p
岩島     187p     人差し指ぐらい       大きい      20〜25p

束になって持ったときに栃木の方は、岩島に比べて重かった。これは、麻茎の中空構造
(ストローみたいに茎に穴があいている)に違いがあるからである。茎の断面をみて
びっくり。岩島の方が穴がでかい分だけ軽い。麻挽きをしたあとの麻茎のことを
オガラ(麻幹)といい、昔の萱葺き屋根の原料になる。

機械で麻挽きをやるときと手作業で麻挽きやるときの麻茎の条件が違うなんて思いもし
なかった!!!。「自分の目で太さを確認して、麻茎を買わきゃダメだよ」と保存会の人
に言われて、う〜ん、そこまでやっていないなーと反省。
 電話や電子メールの1本で仕事ができる時代だが、原料の買い付けは、自分の目で
見るのが基本。あー、楽したらあかんなーという感じ。


●日に日に上達?!

うれしいことに、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目と完成した精麻の黄金色の輝き
ぐあいを見るとその違いがわかる。今でも自分の部屋の空いている机の上に飾ってある。
見本として置いてある先生のと比べるとまだまだ技術的に追いついていないが、あと
何年か(何回か)修行すればできそうである。技術伝承の希望が湧いてきた。

それと、今回、80歳代の方々の麻挽きを見ることができた。岩島麻保存会の初期からの
メンバーだという。最高齢86歳の方が手際よく麻挽きをすると汚れた繊維がきれいな
黄金色になっていく。その様子はとても感動する。人間のもっている手業のすばらしさに
心を打たれる。
 
麻挽きの技術は一度、体で覚えたら、死ぬまで身についているという。86歳のおじいさん
自身も久しぶり(10年ぶり?)麻挽きをしたそうだ。「小さい頃(子どもの頃)は、この辺じゃ、
みんなやっていた」というおじいさんの言葉は、何気ない一言だが、私にはズシンと来て
しまう。
 
 昭和初期の話であるが、家1軒たてるのに200円かかった時代、1回の麻収穫で600円
稼げた黄金時代もあったという。繊維とはそれほど貴重で高価な存在だったのかもしれ
ない。戦後、ナイロンやビニールの普及によって、家庭用のヒモや縄を自給するために畑
の脇に栽培していた麻は、すべて駆逐されてしまったのだ。
 

●精麻をどうしよう?

技術を練習して、たくさん精麻をつくったが、これは本来、麻糸になる。すなわち麻布
になる材料である。私は、苧うみ(糸を手でつむぐこと)ができない。。。。
自分自身も将来展望として、糸を紡いで、機織をして、染色するという「染織アルファ」
という月刊誌のようなマニアックな世界(失礼!)に足を突っ込んでいきそうである。

その前に織姫さんを募集しよう!今どき、麻糸を紡いで麻布つくっていますという生活
スタイルを実行するのは容易ではない。染織アルファという雑誌によると

「糸を紡ぐより、お金を紡ぎだす方が難しい」

お金を出せば、服を買えるのが当たり前な世の中において、糸から自分でつくる
のはよほどの道楽もの?しかできないのかもしれない。

滋賀県の新旭町では、町民に一人一芸、一資格&NPOという斬新な生活提案を
しているらしい。流行の言葉でいえば、スロータウン構想となるそうだ。
スローでいえば、麻の栽培、収穫、加工、苧績み、機織、晒し、染色のプロセスは、超スロー。
ちなみに、麻の世界で有名な福島県昭和村は、麻の栽培から機織までの伝統技術の
後継者育成事業として、9年前から織姫制度を実施している。

突然ですが、私と一緒に麻をやってくれる織姫さん募集中!
昭和村で体験した織姫さんなら大歓迎!

以上

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