ふぁーみんぐ通信 05年12月号


麻はぎ・麻ひき・麻績み体験教室〜長野県美麻村のやり方の巻〜



美麻フェスの様子 ロバートさん(右)の講演 麻の実食堂「麻の美」


●はじめに〜美麻フェスティバルからの流れ
 
昨年に引き続き、8月13日(土)から8月14日(日)の2日間、道の駅ぽかぽかランド
美麻にて「美麻フェスティバル2005」が開催された。美麻村商工会が主催し、麻の
衣服やアクセサリーなどのお店が21団体参加し、音楽ライブ8組、International
Hemp Association のプロジェクトマネージャーのロバート・クラーク氏による講演会
が実施された。 

ロバート氏の講演では、モン族(タイ・ラオス等の山岳民族)、中国、韓国、日本の
大麻の伝統的な織物についての比較とこれからの展望についてのお話があった。
彼は、この4地域の中で最も日本が大麻に関するオルターナティブな動きがあると
報告し、美麻フェスティバルのようなイベントが開催されていることが賞賛に値する
とコメントした。また、来客として韓国唯一の大麻企業であるHemp Koreaの社長
以下6名も視察に来ており、来年のフェスティバルへの出店を希望しているとのこと
である。

 美麻フェスティバルのような小さなイベントが国際的に注目されている中、長野県
においては、地元の農業試験場と大学の合同による生育・育種研究が今年度から
スタートし、美麻村の動きと連動している。特に美麻商工会では、道の駅に手打ち
の麻そばと麻の実入りすいとんがとてもおいしい麻の実食堂「麻の美」をオープンさ
せ、麻の博物館「麻の館」とあわせて新しい麻の観光拠点を目指している。
 
この一連の動きの中で、美麻村に昔からあった手作業による大麻繊維の採取=
麻挽き(あさひき)作業体験と麻糸づくり=麻績み(おうみ)の作業体験を企画。
予想を超える参加者にこの地域の麻への期待の大きさを実感した。


●精麻と皮麻
 
日本では、麻の繊維原料には精麻(せいま)と皮麻(かわま)の2タイプがあるが、
前者は、麻繊維につくペクチン質、木質、表皮などの夾雑物(きょうざつぶつ)を
除いた繊維質のみのことで、後者は、夾雑物を取り除かずに木質部(オガラ)から
繊維部を分離しただけのものをいう。
 
<精麻と皮麻の用途の違い>
 精麻 : 下駄の鼻緒、綱・ロープ、織物、弓弦、神事用
 皮麻 : 畳縦糸、魚網
 
長野県美麻村では、皮麻の生産よりも精麻の生産がほとんどだったという。その
精麻には、山中麻、小白、大白などの繊維の質によって等級があり、山中麻(さん
ちゅうあさ)が最優良品として位置づけられ、全国的に美しい麻として知られていた
のである。
 
よい繊維を生茎から取り出すには、繊維と木質部(オガラ)をつなげているペクチン
を上手に取り除き、繊維質を腐敗・劣化させないことが重要である。山中麻と小白・
大白の精麻の製造方法の違いが品質の差につながったものと考えられる。
 
※ペクチンは、植物の細胞壁の構成成分としてセルロース等他の成分と結合して、
植物細胞をつなぎ合わせる「セメント」の働きをしている天然の多糖類です。

麻の繊維(下)とオガラ(右) 精麻(文字が透ける!) 皮麻


●山中麻の精麻製造方法(木灰汁煮・苛性ソーダ法)
 
生茎―揺り干し―平乾(黄褐変するまで)=乾燥麻―灰汁煮―晒し(太陽の下で)―
―水浸―剥皮―金扱(麻挽き)―乾燥 =精麻
 
麻を収穫すると「揺り干し」という畑で麻束を広げて3日間ぐらい干す。この間は
雨降っていてもそのままにしている。そのあと、緑色をした生茎が黄褐色に変わ
るまで7日間ぐらい乾燥させる。昔は、干す場所がなくて、道に横倒しにしてなら
べていたという。その後、乾燥した麻は、屋根裏などに保管しておき、冬12月頃
に沸騰させた湯の中に灰汁(麻殻又は麦稈灰)を入れて、その中に入れ約2時
間煮る。
 
麻煮釜は、横置き式でいっぺんに20束いれられた。役場がつくった大きな鉄板
釜。手前の下から火を入れて、奥に煙突がついていた。蓋はしていなかったが、
麻が浮かび上がらないように重しの板をおいていた。麻を釜から出し入れするため
に吊り上げ棒をもちいた。
 
その後、太陽の下で晒して、一昼夜水浸し、麻はぎ(剥皮)する前にお湯に40分
つけ、麻はぎ(男性の仕事)。それから、麻挽き台で麻挽き包丁をつかって麻挽き
をする(女性の仕事)。その後、乾燥させて、精麻となる。
この方法は、麻殻(オガラ)や麦の灰によって、アルカリ処理することによって、ペク
チン質を取り除くことで品質のよい麻になったと考えられる。
 
 
 
●小白、大白の精麻製造方法(堆積発酵法)
 
生茎―熱湯浸し―平乾 =乾燥麻―水浸し―堆積発酵―麻はぎ―麻挽き―乾燥 =精麻 
  (1〜2分鮮緑色となるまで)
 
収穫時に熱湯で煮る(=麻煮)をしてから乾燥麻とする。その後、水浸しと発酵
(2日半〜3日)を経て、皮を剥ぎ、麻挽き台で麻挽き包丁をつかって麻挽きをす
る。その後、乾燥させて、精麻となる。
 
これは、現在の栃木県や群馬県で実施されているやり方とほぼ同じである。長野県内
では、長野県選択無形民俗文化財「開田村の麻織の技法」の原料となる麻繊維は
この方法で実施されている。
10月8日・9日に実施した麻はぎ・麻ひき体験教室では、堆積発酵法の方式の原料を
使って実施。


  
●美麻式!麻はぎ・麻ひきの作業体験
 
20年ぐらい前まで現役で栽培していた81歳の小林夫妻を先生として、みんなで
作業体験を実施。堆積発酵の部分は県内の麻農家の協力を得て実施。
また、今回のために美麻独自の麻ひき道具も鍛冶屋と大工の協力を得て、
新品を復元。参加体験者が多くても対応できるように15セットも作りました。
 
@水浸し

麻茎を水につける作業、次の「発酵」を行う前に必ずやります。また、「発酵」の
合間の朝と夕方の1日2回この作業を行います
A発酵

「発酵」は、2日半前から準備し、ビニールをかけて発酵を促す。発酵の温度は、
人肌ぐらいで35℃〜40℃ぐらいである。ちょうどよいぐらいに発酵が進むと表面が
ぬるっとした感触になる
B麻はぎ

麻の茎から繊維をはがす作業。麻茎を2〜3本もち、根本から繊維だけを
きれいにはがします。はがした繊維は、絡まないように「の」の字に床に重ねて
いきます。 
C麻ひき

上記の麻はぎしたものから表皮や不純物を取り除ききれいな繊維だけをとる作業、
まずは先生のお手本からです。
見よう見まねで体験者のみなさんが熱心に取り組んでいます。
D乾燥

取れた繊維を日陰で干します。 この繊維のことを精麻(せいま)と呼び、
これが麻糸の原料となります。


美麻式の麻ひきは、とってもやりやすい。女性でもできるように考えられた道具に、
その道具の使い方。これが歴史に裏打ちされた技術の結晶なのでしょうか。
多くの参加者が生活技術=生業の技を楽しめたことでしょう。
 
みんなで体験中! 技術指導:小林夫妻(中央・右) 復元した麻ひき台・麻包丁



 
●奈良晒式!麻績み(おうみ)の作業体験
 
美麻村では、麻は精麻として出荷していたので、麻織物を特産品として生産し
ていた実績はほとんどない。自給用に家族の分の衣服や袋の製作をしていた
と考えられるが、技術的に全く継承されていないのが現状である。残念なこと
であるが、日本全体でも麻織物の伝統技術は、数箇所しか残っていない。
 
そのうちの一つである奈良晒(ならさらし)の技術者を2名ほど招いて、精麻から
麻糸をつくる工程をみんなで体験した。
 
奈良晒は、現在では中国産の紡績された苧麻(ラミー)、大麻(ヘンプ)の糸を
使って、高島屋や伊勢丹などで「中川政七商店」の商品が販売され、好評を
得ているが、もともとは手績みの麻糸で麻織物をつくり、武士の裃(かみしも)
などの高級麻織物として名をはせた特産品であった。
 
さて、ここから麻績みの手順を解説すると、、、

ぬか浸し済みの麻5g 竹でつくったコクバシ 苧桶(左)と手績み麻糸(右)

 
1)精麻された原料(奈良晒では青苧・おうそという)を水に3時間、米のとぎ
汁または、米ぬかを一掴みをいれたぬか水に3時間、合計6時間浸しおき、
そのあとかたく手で絞って、日陰で干す。タオルとともに絞るとよい。
 
2)竹でできたコクバシを使って、数回しごいて均等にする。
 
3)それを少しずつ小分けして均等の太さの糸をつくる。
  糸の太さは自分の好み。あまり太いと紡ぎにくく、あまり細いと紡ぐのが難しい
 
4)端っこをわかりやすいように紙で縛っておく。
 
5)適当な細さの糸の先端と根元の両端を合わせ、左人指しゆびと親指を使って、
 (自分からみて)向こう側によりを掛ける。
 
6)さらによりをかけた2本ともう一本の合計3本を(自分からみて)手前側に
  よりを掛ける。
 
7)つながった糸は、苧桶(オボケ)に貯めておく。


先端と根元を合わせ 親指でより掛け 3本あわせてより掛け つながった♪
  
ここでの注意点はつなぐ麻糸の太さが同じだと引っ張っても抜けにくい糸に
なる。何回もやっていると抜けないようなつなぎ方のコツをつかめるということである。
 
ワタワタと麻繊維が毛羽っているとやりにくいので、そこは唾でもつけて、1本
にしてやりながらの作業となる。
コクバシでしごきすぎたり、原料の品質が低いものは、ワタワタとなりやすいという。
 
麻織物1反(幅38cm×11m)で1.5kgぐらい量を麻績みすることを考えると
ものすごい手作業である。昔は、上手な人が1日中やって、10日で500g(1把:140匁)。
これは今回の先生たちから考えても超人技らしい。もう日本でこんなに高速で
麻績みできる人はいないという。
 
今回の作業体験でやった量は3時間で5g。このペースだと1反つくるのに1日8時間
麻績みばかりをやったとしても900時間。113日ほどかかってしまう。
現在、手績みの奈良晒が1反で300万円以上の価値があるのは、この麻績みという
作業の手間賃を含むからである。
 
ときどき「国産のヘンプ布が欲しい!」という問い合わせをいただくが、手績みのもの
なら100万円ならありますと返答すると絶句される。麻績みのプロセスを知らないと
???の世界である。


指導役の岡沼さんと松本さん 手績みの奈良晒(松本作品) より掛けの実演

 
 
●美麻で栽培して、美麻で麻織物までつくる挑戦
 
麻ひき体験に55名、麻績み体験に60名、はじめてやった企画かもしれないが、
とても熱心な方が多かった。来年は、美麻村は大町市と合併して村としては存在
しなくなってしまうが、麻の伝統技術の復元とその継承活動はぜひとも続けていき
たい。
 
そのためには、美麻に定住して、織物作家や染織家などのクリエーター活動を
職業とする方がいないと難しい。はじめのきっかけは、全国各地にわずかに残る
麻の伝統工芸の技術者を招いて、なんとか盛り上げていくことができるが、
そのうちそれらの活動の中心には、プロとして生計を立てていく方の力が不可欠
となる。
 
今は、プロではないかもしれないが、プロを目指しているという「卵」さんでも
オーケー。福島県昭和村の織姫制度で1年間、麻織物をしていた方なら大歓迎!
なにもやったことないけれど、手を使う細かい仕事は向いているかもしれないと
思う方もオーケー。
 
縄文時代から麻を栽培して、紡いできた1万年の営みを未来につなげていきたい
という方、ぜひ美麻という地域で一緒に活動しましょう。
 

 みんなで体験中!

 
●麻の織姫になるには、、、
 
・全国各地にある麻の博物館(ヘンプ55に掲載)にいく。
・福島県昭和村の織姫体験を経験する。1回:6500円
・奈良晒の保存会の教室に通う 毎年9月〜2月・毎週水曜日実施 月謝5000円
・麻繊維の原料をつくっている麻畑サポーター(年会費2万円)になる。
・「織物の原風景」紫紅社、という麻織物本の大辞典を買う(3万円)
・羊毛・絹・綿・麻の糸関連の集まり「スピニングパーティ」に参加する。毎年9月実施。
・美麻で実施する伝統技術の保存活動のイベントに参加する。
・東京農工大学繊維博物館の主催する織物団体の中で新しく「麻織物グループ」を
 立ち上げる。
・福島県昭和村の織姫制度に応募する 
 10ヶ月間ずーと栽培から麻織物までの全工程できます!
 
これ以外にもいろんなアプローチがあるので、興味のある方はぜひ挑戦を!
 
ご連絡をお待ちしております。
 

以上

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