ふぁーみんぐ通信 07年6月号


伝統みらい素材「ヘンプ麻」研究セミナー〜東京の巻〜




昨年11月25日引続き、「伝統みらい素材を見直す」をテーマにした〜バイオマス資源「ヘンプ麻」
研究セミナー〜を東京で実施した。各講演者の概要はこんな感じでした。

日時:2007 年6 月16 日(土) 13:30〜18:00
場所:日本大学会館第二別館

●日本の伝統と麻 井戸理恵子(民俗情報工学研究家)

伝統材料としての麻を自然科学の物理的物性という尺度だけでなく、
職人が経験や先人の教えとしてもっている「人と素材の最適な関係性」を
民俗的情報を伴った材料研究をしている。
その目的は、生活圏(生態システム)調和的な材料開発のためである。
大麻の民俗情報は、1)植物学的情報、2)歴史的実証的、3)民間伝承樹お方
4)神社における宗教儀礼からの伝統情報、5)地名伝承情報、6)言語情報である。

大麻には、苧麻には見られない信仰性があり、麻の葉模様の魔よけ、
雷が鳴ったら麻畑や蚊帳へなどの雷よけ信仰がある。
また、麻と金属は関係があり、麻の付く地名は鉱山が取れる地域が多く、
、麻の産地にもなっている。また、水銀鉱脈や断層とも関連しており、
神社の立地と麻栽培の関連が見られるという報告であった。

→井戸さんによると民俗情報の研究によると、これらの関係より、麻は重金属を
吸い上げて分解能力があり、雷よけや魔よけの信仰の裏付けになっていると
考えてる。

●ヘンプ繊維強化プラスチックの最新研究
 赤星栄志(日本大学大学院総合科学研究科)


京都工芸繊維大学で実施しているヘンプ繊維の強化材研究について報告。
ヘンプ・プラスチックには、1)100%ヘンプでできたもの、2)生分解性のもの
、3)充填材として混ぜたもの、4)強化材として、の4種類が実用化されている。
天然繊維を強化材として用いる場合の留意点には、機械的特性、耐熱性、吸湿性、
表面処理、価格があり、どのような用途に使うかがもっとも重要である。

ヘンプ繊維は、ガラス繊維に比べて、軽くて、伸びがなく、比弾性が高いが、
吸湿性がある。この吸湿性が衣料や建材では長所になるが、プラスチック加工では
欠点となる。十分な乾燥がないと成形加工できない。

天然繊維と汎用樹脂(PPなど)や生分解性樹脂とを複合するには、水と油をくっつ
けるようなものなので、天然繊維の表面処理が重要。この研究では、かいがら虫の
糞を原料したセラック樹脂を利用。PLA(ポリ乳酸)PBS(ポリブチレンサクシネート)
にヘンプ繊維を5〜15%混ぜて、引張強度や弾性率など物理的特性をみた。

ヘンプ繊維をあらかじめ5mmカットしていなかったために、加工、成形で2回の熱を
加えたため、十分な物性値が得られなかった。今後は、通常の射出成形工程で実施。
ヘンプ繊維のカットは、壁材として使っている日本の伝統技術「麻スサ加工」を利用。
日本の伝統技術がプラスチック成形分野に応用できるかどうかが楽しみ。

→ ヘンプ素材を用いたプラスチックを使いたいという要望は多いが、金型代が
  高いのがネック。既存の金型が使えるとすぐに製品化できる。


●長野県在来の低THC 品種の育成に向けて
 根本和洋(信州大学大学院農学研究科)


長野県在来種「戸隠」と栃木県の無毒大麻「とちぎしろ」のTHC含有量の分析を実施。
麻は、雄株と雌株があるのが大きな特徴。このことは、狙った目的の育種は比較的
しやすいが、それを固定化させるのが難しい。単独ではなく、集団的に管理して、
育種しなければならない。

従来は、在来種のTHCは高いと考えられており、県当局などもそれを根拠に栽培許可
を認めないということであった。実際に在来種を測ったデータはなく、今回がはじめ
ての試み。結果は、驚くことに、在来種0.168%、とちぎしろ0.151%であり、ほとんど
差がなかった。EUの産業用ヘンプの品種登録の上限値が0.2%、カナダが0.3%であり、
その基準を十分に満たすものであった。

また、今回THCの低い同士を掛け合わせて、選抜効果を調べると、親品種の半分以下に
減少しており、選抜効果が見られた。低THC個体選抜と交配を繰り返すことによって、
とちぎしろより低いものが育成可能であると示唆された。

→ こんな素敵な研究しているのに、県の農業試験場は、大麻に農業的価値がないと
  して、研究がストップさせられている。今後、地域興しとしての実績をつくって
  もう一度、研究再開への道を模索しなければならない。


●薬物政策から見た大麻草規制の国際比較 野崎托之助 (薬物政策研究家

アムステルダム大学で薬物政策で社会学博士をとった方からの貴重な国際比較報告。
1976年にオランダでは、30gまでの所持まで大丈夫という非犯罪化政策が実施
された。大きな目的は、コカインやヘロインなどの「ハードドラック」とマリファナ
「ソフトドラッグ」と分けて、ブラックマーケットからの分離であった。

この政策が実現した背景は、中産階級にマリファナが浸透。サブカルチャー集団
の運動、道徳資本という考え方(多くの政策は道徳的価値を決定する)などであった。
1979年にはAHOJクライテリア規制が実施され、コーヒーショップの規則が定められた。

この政策の影響は、他のヨーロッパ諸国よりオランダの方が薬物使用率の低下を
もたらしていると様々な研究から報告されている。サンフランシスコとアムステル
ダムの比較では、マリファナ使用者は、どちらも同じぐらいであり、非犯罪化政策
は、失敗しているとか、禁止政策より社会的混乱を招いているというアメリカ政府
の見解とは異なるのが実態。

アメリカは、未だにオランダの政策を批判しているのは、観念的イデオロギーが
優先しているにすぎない。薬物政策に重要な考え方の一つに、ハームリダクション
(有害性縮減)がある。ハードドラッグによる犯罪やエイズなどの病気の蔓延を
防ぐために、現実的な政策であり、中高生へのコンドーム配布をして、中高生の
セックス認めるものではないが、妊娠や性病を予防するという例で説明される。

→ 薬物政策を社会学の観点から語れる方は日本でたった3名しかいないらしい。
  そのうちの貴重な報告でした。一番勉強になった?

●岐阜県に残る麻文化と麻炭の特徴と応用
 田口龍治(岐阜県産業用麻協会事務局)


岐阜県には伝統的な麻の利用がたくさん残っている。世界遺産で有名な白川郷の
合掌造りで麻茎のオガラが使われている。飛騨地方にある伊太木曾神社の管粥
神事では、ヘンプの管(オガラ)をお粥に入れ、管も一緒に入れ、その中にお
かゆが詰まった具合によってその年の豊凶を祈るという行事がある。
昨年はトリノ五輪の荒川選手が金メダルをとったことを占ってズバリ当てた(笑)。

日吉神社という格式高い神社があり、ここでは毎年5月3日、4日に行われる
神戸の火祭り、日吉山王祭りでは、松明としてオガラを燃やす。麻が神を迎える
火として重要な存在であるとともに、真夜中に祭りが行われるので長く持つ明か
りが必要で、その条件に合致したのが麻のオガラであった。

伝統文化である長良川の鵜飼いで昔の縄、鵜を操る紐も麻。長良川の方では
鵜飼の着る装束もヘンプの繊維から出来た装束で身を包むことが受け継がれている。

麻炭は、備長炭、竹炭など比べて、もっと表面積が多く、多孔質であることが
判明した。このことは匂いを吸収する力になっている。この炭を製造して、
書道の墨の麻墨を商品化したり、麻炭入りの天然酵母パン(飲食ケータリング
サービス事業者「麻こころ茶屋」が利用)など、炭を用いた商品開発をしている。
また、美濃和紙と連携して、麻和紙をつくったりなど地域産業と今後連携して
様々な商品開発をしていく予定。

→ オガラを燃やす祭りの映像があったりして非常に面白かった。
  岐阜も麻がいっぱいということはかなりアピールできたと思われる。


●オホーツク地域の麻栽培における土壌浄化効果
  唐星児(北海道立北見農業試験場生産研究部)


07年3月号 アサを使った土壌浄化の有効性〜ある農業試験場の取り組み〜
http://www.hemp-revo.net/report/0703.htm

こちらに詳しい報告あるのでご参照を。


●ヘンプ繊維の自動車内装材・断熱材製造の基本技術・不織布製造について
    市川郁弘 ((有)ジャパンエコロジープロダクション取締役)


ヨーロッパのヘンプ栽培と利用例から日本に応用するためのポイントを紹介。
フランスがEUの半分ほどのシェアがあり、主に製紙用に栽培。自動車用や
建材は、最近増えてきたマーケット。東欧はもともと長繊維をとって紡績糸
を製造し、テキスタイル用としたが、1990年代に栽培が解禁した西側ヨーロ
ッパでは、手間とコストのかかる長繊維ではなく、短繊維をつくり、断熱材
や自動車用内装材の用途を開発した。

天然繊維複合化の基本工程は、繊維マットをつくって、樹脂を含浸させて、
プレス成形をする。これが自動車、断熱材、グラインダーディスクに共通
する工程。

この用途のキーとなる技術は、繊維マットをつくる不織布の製造技術である。
不織布製造には、空気で繊維を輸送して積み上げるエアレイ方式と一枚の
ウエブをつくって積層させるカード方式がある。
このメリットは、用途開発が容易と織り布に比べて経済性が高いことである。

日本にこの分野の工業化が全くされていないのは、工業用天然繊維を用いて
不織布をつくる中間原料供給者が不在であること、これに伴う技術ノウハウや
情報が不足していることが大きな原因。

→ 麻繊維の工業化に不可欠な製造技術について詳しい解説があった。後半は
  麻スサの話であったが、これは次回のリフォームフェアのレポートで紹介
  するので、ここでは触れない。

●永続可能な住まいー麻と自然素材でつくる家
       森本友広((有)トムクラフト代表)


麻は、茅葺屋根材料、漆喰原料のスサなど日本の気候風土にあった素材である。
麻の茎から繊維をとった残りの心材、オガラを使った内装材「麻壁」を商品化。

麻を使うメリットは、特にオガラでは、
顕微鏡でみるとミクロン単位の穴がたくさんあいていて、多孔質である。
麻は軽い、オガラの密度は0.1g/cm3、繊維1.5g/cm3、コンクリート2.4g/cm3など
麻は断熱性が高い オガラ0.048W/m・K と素材の段階で、断熱材の基準である
0.06を下回っている。

これらの特徴によって、調湿建材であり、また石油や木材に代わる1年草を活用
した1年草住宅を提案。このコンセプトからも麻は非常に評価できる素材である。

麻壁の施工事例では、沖縄どんと院、レストラン麻、NORTH FACE三越名古屋店の
プランターボックス、AWA音楽事務所、世田谷にあるカフェCherir、千葉の鴨川
自然王国などが紹介。

今後は家1軒まるごと、版築(はんちく)工法と呼ばれる石灰と麻チップ(オガラ)
を混ぜて、型枠に入れて付き固めて建築する予定。
坪単価55万円〜で、特別価格で募集中。

→ 家1軒建てて、麻の家の住宅環境のデータを取りたいですね。
  多くの工務店が採用できるぐらいの説得性のあるデータを積み上げていくのが課題。


●まとめ

あー、やっと表舞台にヘンプが出てきた感じがする。苦節7年(私の話)。。。
これまで通り、実践例や研究例の積み重ねがもっとも重要である。その上で、産業利用の
政策に反映されるような動きをしていかなければならない。

次回は、次回の東京イベントは、ちょっと女性向きのイベントにしたい。
衣料(免疫研究の人)、食品(レストラン麻)、ヘンプオイル(グリーンフラスコ)、
インテリア(100%ヘンプ蚊帳)、紙(無薬品パルプ)、アクセサリー(川端商事)、
フェアトレード(ヒマラヤンさん)あたりでやりたいと思います。

次回お楽しみに。


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