ふぁーみんぐ通信 08年3月号
●リスク・コミュニケーション?
この世に流通している化学物質は、10万種類ぐらいあるという。その化学物質の
うち毒性データなどで評価されているものが数百種類しかない。1つ1つ試験を
していたのではキリがなく、全世界で壮大な人体実験中&生態系実験中ともいえ
る状態である。当然、被害も各地で勃発中である。
従来の化学物質に対する考え方は、「安全なもの」「危険なもの」という2者択一
的であったが、今の化学物質への考え方は、「すべての化学物質には、リスクがあり、
触れる機会や適量を超えたら、よくない影響がある」としている。
ここ50年で工業化社会がいっぱい化学物質を作ってきて、豊かで便利な社会にな
ったのだから、そのリスク(危険性)と上手に付き合うのが文明人だ!と言っている。
よって、そのリスクを製造会社、行政、市民、専門家で情報共有、対話しましょう
としているのがリスク・コミュニケーションである。極めてリスクの高い有害な
化学物質を減らす動きにはつながっているが、人工的な化学物質を根本的に減らして
みようという話にはならない。
●REACH(リーチ)の理念では?
この状況を打開しそうな規制は、各種製造業界では有名な「REACH規制」。2007年6月
に施行されたEUの新しい化学物質の統合的な規制制度である。Registration ,
Evaluation and Authorisation of Chemicalsの略である。既存化学物質を含めて
年間1トン以上取り扱う化学物質約3万4千種について、登録、評価などを行うも
のである。
2008年にフィンランドに欧州化学品庁という新しい庁を新設して、メーカーや輸入業
者は、原則的に化学物質を欧州化学庁に登録や安全性の評価を行うということになる。
2009年6月には、この制度が開始され、消費者からの問い合わせがあったら、企業は
45日以内に情報開示義務が生じるようになる。
この制度は、EU域内のものであるが、経済活動がグローバルである今では米国、中国、
日本などを巻き込んで、その対応が急ピッチに進められている。リーチの大掛かりな
制度を見ると、人工的な化学物質は極力減らそう!という理念は明文化されていない
が、先取りな企業にとっては、化学物質に頼らないものづくりをはじめるのに十分な
動機づけになっている。
●天然物は、規制対象外ですが、、、
天然物には、鉱物、鉱石濃縮物、天然ガス、液化石油ガスや原油、石炭、コークスが
あげられ、化学的な変性をしたものでなければ、登録免除となる。一方で、天然物と
同じ化合物である合成物をつくれば、それは登録対象となる。
ヘンプ麻の化学的な主成分は、セルロースとリグニンという天然高分子である。
リーチの附属書IVには、EU規則793/93で登録義務を免除された物質に加えセルロース類
が追加されてリストされており、2008年6月1日までに再審査されるようである。
一般にセルロース類は、木材パルプからつくった誘導体物質なので、天然セルロース
はおそらく規制対象外になるはずである。しかし、ヘンプ麻を扱っていると、多くの
製造メーカーは、MSDS(製品安全データシート)というフォーマットで、自社で取引
している全ての化学物質を管理しているので、たとえ規制対象外でも「MSDSのようなもの
はないですか?」と聞いてくる。
●新宿OZONEリビングセンターへの商品登録でMSDSを実践
シックハウス症候群、化学物質過敏症、電磁波障害など住環境を巡る人体トラブル
は多くの人に知られている。ヘンプ麻建材の開発会社はもともと危険性のある化学物質
と縁のないものづくりをしているが、世間一般の建築材・リビング用品は、化学物質を
利用した製品が基本なので、MSDSが標準となっている業界である。
①大麻断熱材(エルデ)断熱材 ずっと前に登録済み
②ヘンプ麻布団とシーツ一式(ジンノ)寝具
③古代ヘンプ蚊帳(菊屋)寝具 2タイプ(吊り下げ型とワンタッチ型)
④麻畳(健康畳植田)インテリア
⑤麻和紙ハレハレ、麻和紙障子紙(ハレハレ本舗)壁紙 手漉きバージョン
⑥京土と日本麻の壁(JEP) 左官材 土壁タイプ
⑦麻炭(岐阜県産業用麻協会) 調湿材
⑧麻壁・左官タイプ(トムクラフト) 左官材 漆喰タイプ
⑨麻壁・版築タイプ(トムクラフト) 左官材 壁材
⑩ヘンプ麻壁紙(トムクラフト)壁紙 機械和紙漉き
⑪なおの麻(住工房なお)塗料
※商品名(会社名)登録分類 の順で記載。
このうち従来から登録されている断熱材と畳を除いて、今回の登録でヘンプ麻建材の
MSDSを整備し、ホルムアルデヒド発散建築材料区分で、F☆☆☆☆(フォースターと呼ぶ)
を取得している⑩の壁紙を除いて、すべて建築基準法に基づく告知対象外であることを
明らかにした。
●事例:ヘンプ麻チップのMSDS(製品安全データシート)
ヘンプの工業用原料には、繊維、麻チップ、種子の3種類があるが、ここでは麻チップを
事例にして取り上げる。天然物で安全なものでも、フォーマットに従って記載するとなる
と面倒で骨の折れる作業である。該当しないものや、知見のないものは正直に書いてよい
ので、データのないものは「ない」と書く。
1 製品及び会社情報
<製品名>ヘンプ麻チップ(読み方:へんぷあさちっぷ)
<氏名、住所と連絡先>
~省略~
→ ここでは製造者や輸入業者を書く。海外製品だと製造会社のMSDSがあって、英語で書かれてある
のでそれを訳して掲載する。
2 組成、成分情報
<含有する化学物質の名称、含有率(有効数字2桁)>
成分名 化学式 官報公示整理番号 CAS No. 含有率
セルロース (C6H10O5)n ― 9004-34-6 62%
リグニン ― ― ― 28%
ペクチン ― ― ― 4%
タンパク質 ― ― ― 3%
脂質 ― ― ― 1%
灰分 ― ― ― 2%
→ 通常の化学物質ならは、CAS No.というChemical Abstract Service の略で、米国化学会が
各化学物質(混合物を含む)につけた番号がある。これと日本政府の整理番号を書いておく。
天然物なので、該当しない成分ばかり。。。
3 危険有害性の要約
PRTR法、労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法に基づくMSDS交付の対象外製品である。
最重要危険有害性及び影響 通常の取り扱いでは危険性はない。
特定の危険有害性 可燃性であり、焼却時には、一酸化炭素、二酸化炭素などが発生する。
→ MSDS交付の対象外製品 法律でMSDSの作成義務のないことをここでアピールする。
4 応急措置
<吸入した場合> 固体なので吸入しない。
<皮膚に付着した場合> 石鹸でよく洗い流してください。
<目に入った場合> きれいな水でよく洗い、医師の診断を受けてください。
<飲み込んだ場合> 医師の診断を受けてください。
→ 急性毒性のあるものなら、ここの項目は重要。
5 火災時の措置
<消火方法、適切な消火剤> 水や消火器にて消火又は対象場所を濡れ布などで覆い消火してください。
<消火を行う者の保護> 手袋、マスク、ゴーグル、ヘルメットなどの保護具を使用してください。
6 漏出時の措置
<除去方法> 手袋などの保護具を着用し、空容器で回収処理してください。
<除去作業に関する注意、二次災害の防止策> 粉塵を吸い込まないようにマスクなどの保護具を着用してください。
7 取扱い及び保管上の注意
【取扱上の注意】
<排気、蒸気・粉じん発生防止など> 保護具(防塵メガネ、防塵マスク、ゴム手袋)を着用が望ましい。
粉塵の発散をできるだけ抑え、換気を行うことが望ましい。
<混合防止、接触防止、転倒防止など> 該当なし
【保管上の注意】
<温度、湿度などの保管環境> 常温・常湿の屋内で保管。水漏れや多湿を避けて保管してください。
<保管場所の構造> 引火の恐れのない場所に保管してください。
→ 麻チップは、調湿機能の高い物質なので、屋内保管が基本。チップ状なので、塵や埃の少ない製品
だけど、量が多くなると注意した方がよい。
8 暴露防止及び保護措置
【設備対策】 換気をよくし、粉塵の飛散を防止する。
【保護具】 取り扱い時には状況に応じて防塵マスク、防塵メガネ、保護手袋、保護衣を着用する。
【許容濃度】<労働安全衛生法等で許容されている濃度> 設定されていない
参考値 セルロース (C6H10O5)n TWA:10 mg/m3 (ACGIH 2007) 発がん性評価 該当せず
→ ACGIH-作業環境許容濃度・発がん性評価
ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists;米国産業衛生専門家会議)
は、職業上及び環境上の健康について、管理及び技術的な側面から取り組んでいる専門家組織
→TWA(TLVs-TWA)
(Time-weighted Average)労働者が、1日8時間及び週間40時間程度で日常的に暴露しても、
悪影響が現れないであろうと判断される濃度。
ここでは、参考値として麻チップの主成分としてセルロースを掲載しました。
9 物理的及び化学的性質
<形状、色、におい> 木材チップ状、ベージュ色、天然木の匂い
<沸点、融点> 該当しない
<引火点> 240~270℃(木材と同じ)
<発火点> 400~470℃(木材と同じ)
<爆発性> 単独では爆発しない
<蒸気圧> 該当しない
<密度> 0.1g/c㎥
<溶解性(水、溶剤など)> 水に不溶
一般溶媒(アルコール、エーテル、ベンゼン、アセトン、ガソリン等)に不溶
→ 麻チップ独自のデータはないが、成分がほぼ同じ木材を参照とした。
10 安定性及び反応性
<安定性> 極めて安定。
<避けるべき条件> 引火の恐れがある場所での設置や保管は避ける
<避けるべき材料> 引火性が強い物質
<発生する有害性のある物質> 焼却時には、一酸化炭素、二酸化炭素などが発生する。
11 有害性情報
<発がん性、変異原性、経口慢性毒性、吸入慢性毒性、生殖/発生毒性、感作性、急性毒性、刺激性>
現在のところすべて知見なし
12 環境影響情報
<生態毒性> 知見なし
<環境中での分解性・移動性、生物への蓄積性> 知見なし
<環境基準> 該当なし
→ 10~12は、MSDSの胆なところだが、元々MSDS対象外なものなので、研究データが存在しない。
13 廃棄上の注意
<廃棄の方法> 焼却処分か燃えるゴミとして出す
<廃棄する上で遵守すべき法令> 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
<使用済み容器の処理方法> 自治体の焼却基準に合わせて処理してください
<中和、焼却処分などを行う場合の注意> 自治体の焼却基準に合わせて処理してください
14 輸送上の注意
<容器の構造、荷崩れの防止など> 転倒、落下、損傷、水漏れのないよう積み込み、荷崩れ防止を確実に行う。
<輸送に関する国際基準> 国際分類の危険物に該当しない
→ 2003年に国連勧告されたGHS「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:GHS)に基づく国連郵送危険物の分類に該当しないという意味である。もし、該当していたら、定められたドクロマーク等を表記しなければならない。
15 適用法令
<化学物質管理促進法 第一種・第二種指定化学物質> 該当なし
<その他の適用法令(労働安全衛生法、毒物劇物取締法、農薬取締法など)> 該当なし
→ もちろん大麻取締法や薬事法の規制にも該当しません。
16 その他の情報
<引用文献> (独)製品評価技術基盤機構 http://www.safe.nite.go.jp/index.html
本データシートは当社の持つ知見をもとに十分注意を払って作成しております。しかしながら、この記載内容は通常の使用状態におけるものであり、特殊な条件下での安全性・引用文献の内容・全ての生態影響を網羅し、保証するものではありません。使用におかれましては、適用法令に従うと共に、このデータシートを参考に、貴社の使用条件に即した取り扱い上の注意を検討確立し、安全に使用していただきますようお願い申し上げます。
→ 最後に、注意書きを書いて終わり。
●化学物質規制の対象外のヘンプ麻を使おう!
今の化学物質規制の大きな流れは、有害だと立証された化学物質の排除と予防原則に
基づく情報整備である。リスク・コミュニケーションさえきちんとしていれば、企業
に非はない!とするのはよりよい社会のあり方として相応しいのだろうか?
規制対象外の材料選択こそが、工業原料に求められている潜在的なニーズである。
このニーズに答えられる植物がヘンプ麻である。3か月で3mに成長し、農薬を使わず、
毎年永続的に生え、冷帯、温帯、熱帯の幅広い気候に適応でき、湿地以外の土壌条件
ならどこでも生育できる植物である。
そこからとれるヘンプ麻繊維とヘンプ麻チップ(おがら)は、安定供給が可能で、軽くて、
強くて、機能性のある材料である。あとはコストの問題が最終的に残るが、同じ性能
にするのに化学物質に使って環境と人体へのリスクにかかるコストを「ゼロ」にする
ことができる。
見えないコストへお金を払ってこなかったツケが地球環境問題と健康問題である。
見えないコストが「ゼロ」で、使えば地球と健康がよくなるのが規制対象外物質
ヘンプ麻の大きな特徴である。
この特徴を活かせる企業のみが、人類存続のために必要とされる本物企業になるであろう。
<用語集編>
●MSDS とは?
MSDS制度とは、事業者による化学物質の適切な管理の改善を促進するため、対象
化学物質を含有する製品を他の事業者に譲渡又は提供する際には、その化学物質の
性状及び取扱いに関する情報(MSDS(Material Safety Data Sheet))を事前に提供
することを義務づける制度です。
PRTR 法、労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法に基づいてMSDS の交付が法制化されました。
●化学物質排出把握管理促進(PRTR)法 平成13年1月義務化(所管:経済産業省、環境省)
PRTR とは、Pollutant Release and Transfer Resister の略称で、人の健康及び環境に有害な
物質として政令指定された対象物質が環境中に排出した量や、あるいは廃棄物としてどれだけ
移動したかという情報を把握、公表する制度
対象物質: 環境中に広く存在すると認められる「第1種指定化学物質」354 物質
環境中にそれほどは存在しないと見込まれる「第2種指定化学物質」81 物質
●労働安全衛生法 平成12年4月義務化(所管:厚生労働省)
ACGIH(米国産業衛生専門家会議)、日本産業衛生学会で許容濃度と発がん物質の分類が
勧告されている物質の中から政令指定された対象物質についての情報
対象物質: 638物質・物質群
●毒物及び劇物取締法 平成13年1月義務化(所管:厚生労働省)
●MSDSの様式について
MSDS の様式については、国内規格としてはJIS Z7250 があります。
また国際規格としてはISO11014-1(内容はJIS と同じ)に記載内容が標準化されています。
物質名とその特定、物理化学的性質、ハザードデータ、取扱い上の注意
や緊急時の措置等の16項目について記載する内容が定められています。
これらの情報を日本語で顧客に提供するのが、製造業者及び輸入業者に義務付けられています。
参考ページ
製品評価技術基盤機構 http://www.safe.nite.go.jp/index.html
安全衛生情報センター http://www.jaish.gr.jp/menu2.html
国際化学物質安全性カード http://www.nihs.go.jp/ICSC/
以上
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