ふぁーみんぐ通信 08年7月号
●鬼無里の麻畳糸復元に向けて
エコロジー畳職人の植田氏の2008年北京オリンピックに向けた柔道畳の復元事業
に参加協力する形で、07年8月からの長野県鬼無里村(現在は長野市)の「畳糸伝承
教室」。
全部で11工程を40年ぶりに実施する壮大なプロジェクトである。その中間報告は
07年11月号でレポートした。今回はその後半の作業と北京オリンピックに向けて
の反響をまとめてみました。
とにかく、文献で載っている工程で、書かれていない部分、細かい部分は
実際に復元作業を一緒に体験しないとわからない。
しかも、村人にとっても40年ぶりなので、作業をしながら、「あーだった、こう
だった、こんな風にした!」と思い出しながらの作業である。
●そもそも何をつくっているのか不明だった!!
普通の畳は、インシュレーションボードにウレタンフォームの畳床に、イ草と
ナイロン糸の畳表が使われている。
今回、復元する柔道畳は、無農薬栽培された稲わらの畳床に、カヤツリグサと
麻糸の畳表を使う。
ここまでは理解できていたが、鬼無里の技術が畳の縫い糸なのか、縦糸なのかあまり
深く考えずに(理解せずに)作業をしていた。
作業が進行するにつれて、鬼無里は縫い糸であることが判明し、08年1月に講道館の
資料室から発見された資料により、畳縦糸は長野県美麻村のものがよいということが
わかった。
さらに、5月に放映されたNHK首都圏放送の柔道畳の映像をみて、初めてどのような
形状を目指していたのかが理解できた。千人針と呼ばれる縫い方が特徴的であり、
「あー、鬼無里の縫い糸、めちゃめちゃ重要だったんだ!」と認識した。
今回の作業は、未知の体験であり、最終製品も畳職人ですら見たことがないため、作業進行し
ながらの試行錯誤であった。この試行錯誤は、完成できなかったらどうしようと
常にかなりドキドキ・ハラハラの連続であった。
オヨリ機に麻績みした糸を通す
●麻撚り(オヨリ)
麻撚り機は、足で踏んで、糸にヨリをかけて、紡錘に巻き取っていく機械である。
麻織物でつかわれる麻糸のヨリの強さと比べて、甘い(ゆるい)感じでした。
麻織物でつかわれるヨリ機にくらべる何倍も高速でヨリがかかっていくものでした。
地元の先生方が麻績みした糸だと調子よく、ヨリが掛かっていくが、
体験生が麻績みしたものは、途中で、ブチっと切れて、ヨリに絡まって、作業が中断。
ホントは、麻撚り機の1巻きにたったの5分で終わるところが50分ぐらいかかってしまった。
ブチっと切れると、絡まりをほどき、もう一度、ヨリ機に糸を通して、セッティングして、
切れたところをつなぎ直すという作業が追加される。絡まりが解けないときは、
ハサミで、適当なところを切って、そこからつなぎ直すというかなり時間のかかる作業が
発生した。
で、40年ぶりの作業だったので、麻撚り機のヨリの掛け方が実は反対であった。
反対だったから、ヨリがほどけて、糸がブチっと切れやすかったと推測された。
これは後から糸あわせをするときになって気づいた。失敗は成功の元ですね!!
巻き取った紡錘1巻分、溜まると麻撚り機から外して、糸合わせ機へ
1巻きを調子にのってたくさんの量を巻いていたので、麻撚り機から糸がなかなか外せない。。。
しかも外し方がいまいち不明。なんせ40年ぶりに機械を動かしたので、
「これどうやって外したかなー」と先生方同士が打合せしながらの思い出しながらの作業でした。
足踏み式でリズムよく糸撚り機をまわして、どんどん糸を撚っていきます。撚った糸はこんな感じになります。ちょっと撚りが甘い目です。
●糸合わせの原理がやっと理解できた!
ヨリをかけられた糸を48本、糸合わせ機に順々に糸をかけていった。
これを6回繰り返して、300筋。これを2つ合わせて1本という単位にする。
ここでは、1本の糸を2つ合わせて、畳糸にする。
2つをあわせる原理は、文章では説明しにくいが、糸合わせ機の右側についてる
滑車をまわして、48本の糸合わせ機に引っ掛けられた麻糸がそれぞれにぐるぐると回転。
糸合わせ機に撚った糸を掛けていきます。
回転のためのツヅミ(紐)が細かったり、つないで太くなったりして、なかなか
回転がスムーズに行くように成らなかった。1回目は強制的に手で直接回転させた。
ぐるぐると糸が回転すると同時に、左側にある重しの木材が上にあがっていって
、最後にソロバンの玉が落ちて作業終了という見事な仕組みであった。
そのソロバンの玉が6つ落ちると300筋となる。
糸合わせした麻糸は、コスリと呼ばれる稲ワラを木槌でやわらかくなるまで
しごいたもの(叩いたもの)をつかって、きれいに仕上げられた。
このコスリの作業は、次の工程に行くための仕上げであり、この熟練技術が
よい畳糸になるかならないかの分かれ目になるそうだ。
糸合わせ機の左側と右側です。写真の左側が回転して、2本の糸を合わせるのです。
合わせた糸は、藁で擦って、整えます。できた糸は、木箱に保管しておきます。
●−10℃以下で実施する寒晒し作業
朝5時半に起きて、前日つくった畳縫い糸を雪に晒す。この日は、この冬一番の冷え込みで、
−15℃。北海道じゃないのに、こんな寒い思いをしたのは初めてである。防寒対策のため、
着ぶくれした参加者とともに、晒し作業を実施。
翌日の早朝6時ごろに雪の上で少し晒してから、干しざおにかけます。
マイナス10℃以下でないとこの作業はしないそうです。寒い!!この作業のことを「寒晒し」といいます。
朝10時前に気温が上がって、糸についた霜がとけそうなときに引き上げます。寒晒しは、紫外線や水と反応して発生したオゾンで白くて、糸の結合力を高める効果があります。
寒晒しの後は白くなっています(上)。これをヤジメにかけて、1週間ほど伸ばしておいて、畳縫い糸の完成です。
●ここから畳職人の出番
カヤツリグサ:大分県の農家が担当
麻の縫い糸・縦糸:信州麻プロジェクト協議会が担当
畳床の稲わら:相模原の青空教室が担当
縫い糸のつけ油:長野県美麻村の国産菜種油
畳職人たち:これらの原料を畳にする。
概ねこのような役割分担があり、私の担当しているのは、信州麻プロジェクトの
部分であり、柔道畳全体でみるとごく一部にすぎない。しかし、千人針という
やり方を知ってしまった今は、非常に重要な部分に携わっていたことがわかった。
「縫い糸=柔道畳の命」であり、縫い糸が復元できなければ今回の柔道畳の話はすべて
絵にかいたモチで終わっていたのである。
今回の縫い糸は、40年ぶりに復元したもので、北京オリンピックを記念して、東京オリンピックで使われた柔道畳の縫い糸として使われました。
畳を拡大すると、、、
畳表に突き出して縫うというやり方で柔道畳は作っていたようです。これを千人針という縫い方だそうです。
●北京オリンピックに向けて、その後の反響
マスコミにはたくさん掲載されたのが最も大きな影響があった。
取材リストを見るとjapan.taimnes 朝日新聞 読売新聞 毎日新聞 神奈川新聞 タウンニュース
福島民有新聞 信濃毎日 日建新聞 取材を受けた。さらに、
NHKテレビ 首都圏ネットワーク 5月16日(金)6時10分〜7時より柔道畳復元「幻の柔道畳」で放映。
横浜FM放送、テレビ神奈川5月21日ニュース930、TBSラジオ「ラジオなんですけど」 @ 久米宏さん5月31日、
フランス・ニュースダイジェスト新聞社、オリンピック2大会の柔道の制したフランスの英雄とまで
言われたドゥイエ氏の柔道畳のインタビュー、財団法人日本武道館 機関誌「武道」7月500回記念髄筆
「嘉納柔道と柔道畳復元」掲載など。
フランスまで反響があったのは驚いたが、実はフランスでは子どもに人気のあるスポーツは、
1位:サッカー、2位:テニス、3位:柔道というぐらいで、日本よりも柔道人口が多く、80万人ぐらい
いるようである。日本より日本的なものが大好きなフランス人?の一面がここで見ることができる。
8月のオリンピック会場に柔道畳を持っていきたかったが、輸出・輸入検閲の関係で防虫処理される
らしく、せっかく無農薬にこだわってつくった畳がもったいないということで、当日会場にはもって
いっていない。
しかし、この柔道畳で試合をしたいという問い合わせが多く、
今後、何年間かかけて、柔道の試合ができる50畳分を復元することを決定した。
7年かかって2畳しか復元していないのに、50畳(予備含めると60畳)も製作する。
またもや無謀とも呼べる挑戦が始まった。(私の担当は、縫い糸と縦糸だけですが)
今回の日本人のメダリストからの熱くて力強いメッセージは、
「高い目標をもち、強い気持ちをもつこと」が共通点であったように思えた。
我々も東京オリンピックの畳の復元を通じて、メダリストの精神に学び、
柔道畳の復元活動を続けていきたいものである。
4年後のロンドンオリンピックを目指して。。。。
(柔道畳なので、オリンピック毎に目標設定できる!!)
より詳しい柔道畳の話はこちらへ
柔道畳復元プロジェクト http://ansin-t.jp/p7.htm.ryukyu.hatake.munouyaku2005.zudou.htm
以上
home 麻類資源作物研究所