●鬼無里の麻
鬼無里村では、いつごろ麻栽培がはじまったかは定かではないが、200年前の古書に登場するのが最も古い。昭和10年頃の麻農家は、専業で800戸、150ヘクタールの作付面積があった。
長野県は、日本有数の麻の産地であり、その中でも美麻村、白馬村、小谷村の北安曇郡と鬼無里村、戸隠村、小川村の上水内郡が主産地であった。
鬼無里で栽培された麻は、畳表の畳縦糸として使われ、昭和43年まで栽培されていた。畳表は、横糸がイグサで、外からは見えない縦糸は、元々、日本麻と呼ばれた麻糸だったのである。今では、たいていポリエステルの糸、高級畳で、マニラ麻となっている。
麻を栽培し、加工し、糸をつくり、畳糸として出荷した。畳そのものは、つくってはいない。今は、鬼無里ふるさと資料館で、当時の様子の展示があり、その記憶をとどめている。
当時の鬼無里の食生活は非常に豊かであった。麻の生産がお金になった。また、養蚕の作業との組み合わせが、うまくいっていた。
●麻が廃れた理由
麻がなくなってしまったのは、どの地域に同じような理由かもしれないが、
@化学繊維に圧された
畳縦糸は、どんどんと化学繊維になり、やがて畳そのものも現在では減ってきている。
A葉が麻薬とされた
これは大麻取締法ができて許可制になってからの話で、麻の収穫作業をしていると頭が痛くなることがあったが、それがその影響なのか!ということになった。
結局、麻がなくなってからは、その畑は葉タバコに変わっていった。
●麻の生産
鬼無里の麻栽培は、4月下旬に播種し、8月中旬までに収穫する。鬼無里は、山間地であるが、その平坦部や緩斜面に麻畑があった。肥沃な土地で、狭くて屈折した地形のおがけで強風がないことにより、背丈は4メートルにもなったという。大麻の葉はとても美しい形と色をしている!!という。
栃木の方では、麻を収穫した直後に麻煮という麻茎を煮る作業をして乾燥させるが、この鬼無里では、「より干し」という葉を落とした後、1〜2日立てて乾燥させ、「麻干し」という地面に1週間ぐらい干す作業をする。これは繊維の質をよくし、繊維とオガラを離れやすくし、茎のままで保存できるようにするためである。
このときに雨が降りそうになると急いで麻をまとめて、「麻にょう」をつくり、「コモがけ」を行う。このコモがけをするのは、麻が雨にあたると腐ってしまうのを防ぐためである。大麦で編んだコモを使う。
麻の栽培のあとは95%の畑で蕎麦を栽培した。戸隠や鬼無里はそば処として、有名であるが、元々は麻の後作としてそばが植えられていたのだ。麻の後作のそばは美味しいらしい。
●麻の加工
干された麻は、一時保管しておき、麻はぎ(繊維をとる作業)、麻ひき(繊維につく表皮や不純物をとる作業)をする9月に麻煮をする。麻を煮るお釜に木灰を入れて、繊維とオガラを離れやすくした。麻はぎ(おはぎ)、麻ひき(おひき)できれいになった繊維を精麻(せいま)とよんだ。
オガラは、麻幹(おがら、おんがら)ともいい、草葺屋根の屋根材の下地につかった。

美麻フェスティバルで行われた麻績み体験教室
●畳糸をつくる
精麻を1.5mmに裂いて、つなげていく=麻績み(おうみ)をした。
麻績みは、コタツを囲んでの作業で、子どももやっていた。
麻績みした糸は、糸撚り機械で撚りをかけられて、糸合わせをされた。
糸合わせとは、畳糸にするために2本を合わせて、1本とした。1本の長さは5尺2寸=約1m50cm。この機械で1回に100本できた。これを6回やって600本(筋)が鬼無里流で1本。これを24本あわせて、大結束=畳1巻=1万円(昭和30年代)
月1回 12巻つくれば、12万円で、当時の1万円は今の30〜40万円ぐらい。このおかげで村は、現金収入を得て、テレビや車がない時代での娯楽といえば、祭りだったので、立派な山車が各集落ごとにあったのである。この山車は、鬼無里ふるさと資料館で見ることができる。
今の50代は、畳糸の現金収入のおかげで育っている。
麻栽培から畳糸の復活させるには、今がチャンスである。
最も心配な点は、麻茎から繊維をうまく剥がすことができるかどうかである。
横糸がイグサ、縦糸が麻(ヘンプ)
●鬼無里で畳糸を復活させたい!
美麻フェスティバル06には、エコロジー畳職人で有名な植田昇さんが出店していた。さっそく、鬼無里の前村長の話を聞いて、畳糸復活のためにアプローチ。
彼は、2008年の北京オリンピックに向けて、柔道日本頑張れ!の意味も込めて、柔道創設者の嘉納治五郎が一番初めにつかっていた柔道畳を復活させるプロジェクトに、この国産畳縦糸を麻でやりたいというアイデアをもっていたのだ。
柔道畳に使われるカヤツリグサの国産栽培については、誰もが不可能と思われたが、様々な出会いに恵まれて、なんとか目処がたったという。次は、畳業界で、麻が使われなくなってから、30年ほどの月日が流れているが、またもや不可能なと思われることに挑戦。
麻の栽培許可を取得し、品質のよい麻を復活させ、麻績みも復活させ、畳糸加工も復活させる。。。すべてが復活作業なのである。
お金にならないから、誰もやっていない分野に、職人魂がウズウズしている植田さん。
こんな彼のために、鬼無里のために、日本の麻の夜明けのために、新しいプロジェクトが動き出します。
<鬼無里ふるさと資料館>
〒381-4301 長野県長野市鬼無里1659
TEL 0262-56-3270
開館時間 9:00〜16:30(入館は16:00まで)
観覧料金
大人300(250)円、小中生150(130)円 ※( )内は20名以上の団体割引料金
休館日 月曜日、祝日の翌日、年末年始(12月29日〜1月3日)
アクセス JR「長野」駅より川中島バス「鬼無里」行き乗車1時間、「鬼無里営業所」下車、徒歩7分
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