●信州麻復活プロジェクトとは?
長野県はかつて良質な麻の産地として知られてきましたが、第二次世界大戦後の化学繊維の普及に伴い、信州麻の需要がなくなり、現在ではほとんど見ることができなくなっています。
奈良の正倉院には、「信濃国安曇郡前科の真羊」と書かれた麻布が残っており、現在の美麻地域のあたりは、信濃国の安曇郡といわれ、調(納税)として麻布などを献上していたことが伺われます。
県内には、麻の産地であった名残が数多く残っています。代表的なものは、鬼無里の畳表に使った縦糸を麻糸では、全国一の品質と生産量を誇り、美麻では、国の重要文化財にもなっている旧中村家に麻の繊維をとった後のオガラを屋根材に使い、開田には、県の文化財に指定された「木曽の麻衣」、麻糸をつくる工程の地名である麻績村があります。
近年、環境問題と健康問題の高まりから、麻という素材が再び注目されています。私どもは、2005年8月から鬼無里、美麻、開田、麻績村の4地域を核にして信州麻の文化と歴史について多くの人に知ってもらう場をつくり、信州麻の文化や生活技術の継承と世代間交流による地域活性化につなげていこうと考えています。
●プロジェクトの目的
1.長野県内に残る信州麻の文化及び生活技術の伝承と保存
2.信州麻に関する情報の収集と発信
3.信州麻をテーマにした世代間交流と地域活性化の実践
● 本年度の事業内容
1)信州麻の畳糸加工技術の復元
日本では昔から畳表は、横糸はイグサで縦糸に麻糸を使っていました。畳糸の加工技
術は、鬼無里で1960年代まで実施されてきた手作業のやり方を再現する。原料となる麻茎は、長野県内の麻農家から仕入れて加工作業を実施する。
畳糸は、@麻煮、Aオハギ(麻剥ぎ)、Bオカキ(麻掻き)C日陰干し、Dオウミ(麻績み)、Eオヨリ(麻より)、F糸合わせ、G保存、H寒晒し、Iヤジメに掛ける、J結束の11の加工工程がある。加工技術の復元には、技術を知る世代への調査、道具の調査と復元、技術保存ための体験教室の開催を行う。
<畳糸の加工工程>
@麻煮
畳糸の原料となる麻茎は、左図のように靭皮部と木質部があり、この2つを分離しないと繊維が取れない。分離するために高さ2mぐらいの釜に水を入れて沸騰させる。分離しやすいように木灰を加え、背丈4mの麻茎を1度に煮ることができないため、ひっくり返して煮る。

Aオハギ(麻剥ぎ)
煮た麻を繊維(靭皮部)とオガラ(木質部)に分ける。これは当時、男性の仕事であり、指で表皮に傷をつけ、指を入れば簡単に皮が剥がれる。

Bオカキ(麻掻き)
剥ぎ取られた繊維には、表皮などの夾雑物がついているため、「オカキ板」の上に皮をのせて、「オカキノコ」(金べら)で、掻きとる。オカキ板は、ヒノキなのは、節がなく、すべりやすく、適度に板がしなる硬さで使いやすいためである。この仕事は女性で、当時は藁の上に蓆(ムシロ)を敷いて、さらに座布団をのせたところに女衆が並び、お互いに話しながら晩の12時頃まで仕事をしていた。だいたい1日1人で1000本ほど仕上げた。このようにオカキをした繊維を精麻(セイマ)とよび、特に上等な精麻を青金引(アオカナビキ)と呼ばれた。

C日陰干し
オカキをした精麻は、家の中で竹ざおにかけて10〜15本(=1カケ)を一緒に根の方を結んで引っ掛けておく。1週間から10日間ぐらい干す。麻煮から日陰干しの実施時期は9月中旬から9月末である。

Dオウミ(麻績み)
干していた精麻を5〜6本一緒に根の方で結び、それを輪のように丸める(手ガラにする)。次に手ガラを水に入れて精麻に水分を含ませた後、今度は水をよく切る。手ガラを解き、1本ずつ取り出して手で1.5mm程度の幅に裂く。裂いたものの端と端をつないでいく。このようにして績んだものを、次々とオボケ(竹で編んだ籠)に溜めていく。ある程度溜まったら、績んだ精麻を煮えた湯に浸す。

Eオヨリ(麻縒り)
績まれた精麻は、平均的にヨルために糸より機を掛ける。

F糸合わせ
畳糸にするために合わせ機を用いて、よられた糸2本が一緒によじれて1本の畳糸となる。糸の端を切断するとちょうど畳糸1本の長さ(5尺2寸=約150cm)になる。糸合わせは1回で100本。これを6回やって600本(筋)が1本と呼び、これを24本あわせて、大結束=畳1丸=1万円(昭和30年代)となった。

G保存
乾燥しないうちに、250〜300筋ぐらいをまとめて、穴ぐらに保存しておく。

H寒晒し
糸合わせされた糸を零下10℃ぐらいの天気のよい朝、日の出前(朝5時)から2時間ほど、雪の上で晒す。朝日が出てきたら、今度は、針金や木の棒に1本ずつ引っ掛けて日光に干す。すると今まで青がかった糸が純白になる。この糸を凍糸(コオリイト)という。合計4時間ほど干して、午前9時までにはしまう。

Iヤジメに掛ける
寒晒しされた糸をヤジメに掛けて、糸を引っ張る。1週間ほど引っ張っている。こうしてできたものシロク(白い糸の略名)という。

J結束
シロクの600筋を1本(小結束)、それを24本で1丸(大結束)にまとめる。
07年度に復元した麻は、北京オリンピックを記念した東京オリンピックで使われた柔道畳の縫い糸として採用されました。

2)信州麻の情報発信
県内には、信州麻に関する文化財、資料館や麻の実が食べられる食堂などがあり、それらの情報をまとめたホームページを開設する。インターネットを使っていない層にも認知度を高めるために信州麻に関する小冊子を発行し、信州麻の認知度向上に努める。
・文化財
国重要文化財「旧中村家住宅」(大町市美麻)
屋根材や壁に麻が使われている
国重要無形民俗文化財「野沢温泉の道祖神祭り」(下高井郡野沢温泉村)
火祭りの松明にオガラ
長野県選択無形民俗文化財「開田村の麻織の技法」(木曽町開田)
・資料館
鬼無里ふるさと資料館(長野市鬼無里)
麻の館(大町市美麻)
・食堂・店
手打ち麻そば&麻の実食堂「麻の美」(大町市美麻)
オーガニック「和」カフェ「和みや優麻」(長野市)
さくら茶屋(松本市)
・文献
原静「実験麻類栽培新編」養賢堂、1950年
長野県大麻協会編「大麻のあゆみ」長野県大麻協会、1965年
鬼無里村史編集委員会「鬼無里村史」鬼無里村、1967年
開田村教育委員会「木曽の麻衣」開田村教育委員会、1974年
田中ゼミ生編「鬼無里民俗」成城大学文芸学部文芸学科、1981年
郷津弘文「千国街道からみた日本の古代:塩の道・麻の道・石の道」栂池高原ホテル出版、1986年
長野五郎「織物の原風景」紫紅社、1999年
3)信州麻サミットの開催
信州麻の文化、歴史、地域活性化をテーマにしたサミットを実施する。麻に関しては、70代以上は、その生活必需品と使っていた世代、40〜60代は、化学繊維全盛期のため麻という天然繊維の存在をほとんど知らない世代、10〜30代は、オーガニックでエコロジー素材として知っている世代という世代間の認識ギャップが大きく、これを解消することを目的に開催する。具体的には、麻製品の見本市、麻に関する講演会、ワークショップなど様々な企画を実施する。
● 運営メンバー
◎風間俊宣(鬼無里村前村長)
○松下眞一(美麻商工会)
○赤星栄志(「ヘンプ読本」著者)
○金子貴子(信州麻工房主宰)
沢頭修自(「木曽の麻衣」著者・木祖村文化財保護審議委員)
宮沢久美子(organic 和 cafe「和みや優麻」店長)
中村豊(麻績村商工会)
栗田寧(小谷村役場職員)
吉田清志(長野県中信農業試験場)
根本和洋(信州大学大学院農学研究科)
広田直子(長野県立短期大学助教授)
金子潤一郎(麻衣料ブランド「忠兵衛」代表)
丸山佳範(さくら茶屋)
植田昇(畳職人)
鈴木直子(住工房なお主宰)
◎:代表、○副代表
●連絡先
信州麻プロジェクト協議会
事務局:長野市鬼無里12130
電話:026-256-2152
メール akahoshi@sea.plala.or.jp
取材依頼・参加申込・質問などのお問い合わせは、メールでお願いします。
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