ふぁーみんぐ通信02年5月
             バイオ燃料の未来は? 〜ヘンプカーの巻〜



●ヘンプカーの原理、知っているつもりではすまされない!

4月29日〜8月24日までの約4ヶ月間、北海道から熊本まで全国縦断の
旅がはじまる。大麻草から採れたオイルを染谷商店で軽油化し、バイオデ
ィーゼル燃料で走らせるのがヘンプカー。実際に走っていて、どうして
植物油で車が走るのか自分でもよくわからないので色々と調べてみた。

はじめは、染谷商店で実施しているてんぷら油の廃油から軽油化する技術を
使って、ヘンプカーを走らせています!と胸を張って説明していた。
どんな技術ですか?とつっこまれないように「今回のヘンプカーは、
オイルで走る車だけを主張するのではなく、衣食住に使える麻を。。。」
と話題を変えて切り抜ける日々。(あー、なさけない)

●昔のヘンプカー

1941年にあの自動車メーカーのフォードが土からできたオーガニックカー
として「ヘンプカー」を紹介している。創設者のヘンリー・フォードさんが
ヘンプカーを叩いているシーンは多くの文献に出ている。
こちらのホームページには、そのときのテレビの様子がリアルプレーヤー
で拝見できる。う〜ん、インターネットの技術はすばらしい!
http://www.crrh.org/hemptv/misc_ford.html

●バイオ燃料の歴史


前述のフォードさんが1908年に初めてT型フォードを設計したときにエタノール
を考えていたそうだ。それから、1930年代にコーンから作った「ガソホール」
というエタノールを扱うスタンドが2000以上できたが、石油が安くなって、
石油からできたガソリンが広まり、ガソホールは消えていったという。

約100年前の1898年にルドルフ・ディーゼルがディーゼル・エンジンを設計した
とき、彼はそれをピーナッツ油で動かした。そのエンジンの名前にもなった彼は、
大資本と大がかりな装置が必要で、燃費の悪い蒸気エンジンが企業家に独占
されている状態を懸念していた。小農民や職人たちが地元で生産できる
原料から地域で製造できる燃料を使って無駄なく出力する機関としてディーゼル
エンジンを開発したのだ。ディーゼルエンジンはもともと「適正技術(appropriate technology)」と呼ばれる、地域と
人々の自立のための出力機関として、燃料
には地域で生産でき再生可能な植物油を使うことを念頭に開発されたのだ。


●ヘンプオイルを軽油化(バイオディーゼル燃料)するまで

化学理論的には、学校で化学を習ったときの化学反応の「平衡」っていうやつで
ある。例えば下のような化学反応の場合、反応の方向は逆転することができる。

A+B → C+D
A+B ← C+D

バイオディーゼル燃料を作るときの化学反応を「エステル交換」という。
ヘンプオイルの化学反応を、上の反応式に当てはめてみると、、、

A(ヘンプオイル)+B(メタノール) → C(メチルエステル)+D(グリセリン)

実際には、ヘンプオイル+純度の高いメタノール+触媒(水酸化ナトリウム=苛性ソーダ
・NaOH)を混ぜて、加熱している。メチルエステル=バイオディーゼル燃料となる。
粘度が高く、どろどろしたグリセリンを受け層で沈殿させて取り除き、水洗と脱水(
真空乾燥)させ、冷却、ろ過、貯蔵してできあがり。

●ヘンプオイルで車を走らせるのは非現実的です!

企画している方がこんなことを言うことが非現実的?!だが、必須脂肪酸である
リノール酸と?-リノレン酸が3対1と理想的バランスで含まれ、多価不飽和脂肪酸率
が80%と栄養価の高いオイルを車の燃料にするのはもったいない!と何人かに指摘
されている。この点に関しては、素直に「私ももったいないと思います」と認めざるえない。
今回のヘンプカーはデモンストレーションであり、キャンペーンなので、大目に見て
欲しいと個人的に思っている。

ヘンプオイルの生産量から見ても非現実的で、

              リットル/ha
トウモロコシ(コーン油)    172
綿花 (綿実油)              325
ヘンプ (麻実油)            363
大豆               446
胡麻               696
ヒマワリ                              952
ナタネ(菜種油)           1190
ココナッツ                           2689
ギネアアブラヤシ(ヤシ油)  5950   

日本で栽培してバイオ燃料として使うならば、菜種の方がよい。車1台で全国年間
平均2000リットルが必要であり、菜種だと約2haで車1台を1年間動かせる。
日本の遊休農地100万ha全部を菜種に変えたら、50万台ぐらいは車が動かせそ
うである。しかし、新車が毎年何百万台も発売されているようでは、代替燃料
としての可能性は、公用車、バス、農業用車両ぐらいまでかもしれない。

●ガソリン車とディーゼル車

最近の情勢は、東京都のディーゼル車規制をはじめとしたディーゼル車=悪者と
レッテルを貼られている。
              
ガソリンエンジン   熱効率32% CO2多い  
ディーゼルエンジン  熱効率46% CO2少ない PM/窒素酸化物多い

トラックの90%がディーゼルエンジンであり、日本の、世界中の物流を支えている
ことを考えると燃料が石油由来だから問題が多いのでは?と単純に考えて
しまう。代替燃料のことを考えはじめると、天然ガス車は?電気自動車は?
燃料電池車は?はたまたソーラー車は?と話題が広がる、広がる!!!!!
 
●主な国の自動車用のバイオ燃料の取り組み
 
ドイツでは、化石燃料80;菜種20のバイオ燃料が普及しており、1996年の販売量
は、8万トン/年で、道路輸送用ディーゼル消費の0.4%を占めている。原料である
非食用菜種の栽培面積は23万ha。
 
スウエーデンのストックホルムのバス270台全てがイタリアのワイン等の植物
原料から製造されたエタノール車である。
 
デンマークのサムソ島(人口4000人)は、エネルギーアイランドのモデルケース
に指定され、1998〜2007年までに再生可能エネルギー(太陽熱、風力、バイオマス)
による100%自給を目指している。
 
アメリカは、2008年までの連邦エタノール助成金(ガロン当り54セント)により、
1998年にはエタノール混合燃料は、アメリカの自動車用ガソリンの12%を占め
ている。1998年の米国ガソリン消費量1200億ガロンに対して、エタノール生産
量は14億ガロンと1.2%であるが、2020年には2%と見込まれている。
 
ブラジルは、1979年の全国アルコール計画(エタノール10、ガソリン90)の奨励。
1992年のエネルギー政策法によって連邦、州政府は、エタノール85%、エタノール
95%燃料の義務付けにより、現在輸送用燃料需要の41%がエタノールと
なっている。サトウキビ・キャッサバから製造されるエタノール価格は、ガソリンの
2倍程度であるが、今後価格上昇が見込まれる石油を輸入するよりも、長期的
には経済的という政治的判断によってバイオ燃料が奨励されている。
 
日本では、アルコール系燃料など植物をエネルギー源とするガソリン代替自動車
燃料の普及を目指す「バイオエネルギー自動車燃料普及会」が、02年5月9日に設
立されている。代表には、広島市の燃料販売会社、ギルガトレーディングの伊藤
光宏社長が就任した。(2002年5月8日付 日経産業新聞他)
 

●ガソリン車にはエタノールを添加しよう!

1979年、中東の石油危機で、アメリカ市民がガソリンを求めて長蛇の列を作り、国家
の安全保障の問題となったとき、代替エネルギーとして再びバイオ燃料が注目された。
このとき、エタノールとガソリンのブレンドがアメリカの市場に流通しはじめた。

また、1990年の「大気浄化法改正」をきっかけにガソリンへのブレンドとしてエタノ
ールの需要が強くなり、10%のエタノールを含む「E10」は最も出回っている。
E85やE95は、政府の輸送車、フレキシブル燃料乗用車(FFV)や都市バスの数が
急速に増えている。

アメリカのエタノール生産は毎年、約15億ガロンのエタノールが、ほとんどコーンから
生産される。エタノール需要が増えるにしたがい、エネルギー用に栽培された作物、
農産物や木材の屑、都市のゴミなどからエタノールが作られる。

次回のヘンプカーは、ヘンプの種子油ではなく、茎からエタノールを取り出して、
ガソリン車で全国ツアーをしたい。ヘンプの茎の生産量は、1haで乾燥重量にして
8トンある。だいたい今の技術だと4分の1ぐらいエタノール化ができるので、2000
リットルぐらいは確保できそうである。ヘンプ種子油の363リットルに比べて、6倍
も効率がよく、エタノール化する製造プラントは、どんな有機物でもたいていは可能
なので、生ゴミや剪定くずと組み合わせると今の経済価値でも採算ラインがすぐ見
えそうである。

●軽油で動くディーゼル車には植物油を混ぜよう!

染谷商店さんの資料によるとフランスは菜種油のバイオ燃料を5%混ぜたものを
スタンドで販売したり、アメリカでは軽油に20%混ぜたものを販売している。
100%バイオ燃料というのは、量的に難しいので混合からはじめている。
日本でもいくつもの自治体が

菜種栽培→菜の花観光→収穫→食用油→廃食油→バイオ燃料→公用車(ゴミ回収車等)

という取り組みに挑戦している。
私は、車の燃料だとスタンドで気楽に買えないというインフラ面の問題があるので、
漁船やマリンスポーツのさかんな港、船舶用燃料をターゲットとしたほうがよい
かもしれない。ちょうど、昔の日本船舶振興会さんも船舶燃料のオイル漏れに
伴う海洋汚染には困っているようだし。。。。

●ヘンプオイルは、廃食油のバイオ燃料と同じ?

ヘンプオイルを加工した染谷商店の話だと、加工後も動粘度がやや高いが、
他のバイオ燃料と替わらないだろうとのこと。また、軽油化の方法が同じだから、どんな
植物油でもバイオ燃料にしてしまえば、性能は同じなので新しくデータを取らなく
てもよいとのこと。

ヘンプカー(4トントラック改造車)
燃費 軽油:4.3km/リットル  ヘンプオイル:4.8km/リットル
匂い    軽油臭い          てんぷら油
値段     80円             400円以上

資金的な余裕があれば、排ガスの成分(一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物、
二酸化炭素、硫黄酸化物、黒煙)及び性状(密度、引火点、動粘度、流動店、
セタン価、発熱量、硫黄分)のデータを計測するかもしれません。
(どなたか、ご協力していただける方はいないでしょうか?)

まだまだヘンプカーの旅は続く。http://www.hemp.jp/
<参考>
欧米及びアジアにおける石油代替としてのバイオ燃料の導入について
(石油産業活性化センターの資料より)
染谷商店のパンフレット
 

以上






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