ふぁーみんぐ通信02年6月号
                    麻の産地を巡って  〜ヘンプカーの旅の巻〜



●岩手県久慈市の山根六郷研究会

私がお世話になっている国際雑穀食フォーラムのつながりから、この
研究会が麻栽培の記録映画をつくったことを知っていた。しかし、16
ミリフィルムのテープが1本しかない貴重なものなので、貸し出し不可
であり、現地に行かないと見れないものだった。

60分の記録映画「麻(いど)と暮らし」はすごい!戦後GHQの指令で
大麻栽培に規制がかかってから栽培が途絶えていたのを40年ぶりに
復活させ、収穫し、糸を績み、麻布をつくる様子はお見事!、拍手喝采
ものであった。段取り、仕事の手順が40年ぶりの作業とは思えなかった。

この麻布で豆腐袋をつくり、この袋で絞った豆腐がとても食べたくなった。
豆腐づくりでご汁を絞るときに袋が何でできているかによってコクが違う
という。この地域の人は、麻袋で絞った豆腐が一番うまいと皆が断言し
ている。(う〜ん、食べたい!)

このフクさんは、栗駒麻布で有名な千葉家(先代の千葉あやのさんは国
の無形文化財)から藍の苗をもらって麻布の藍染めを再現した。この作業
は、子どもの頃にお年寄りが藍染めをしていたのを見たことがある程度で
自分でするのははじめてという。これも40年ぶりの復活させた話。

栽培して、糸績んで、機織りをして、藍染めをする。。。この一連の作業が
できると今や国の無形文化財にすぐ指定される。昔ながらの生活がいかに
貴重な技術になっているかが身にしみてわかった出会い(映画の中ですが)
だった。

この記録映画はもうすぐVHS、DVDで発売を予定されており、多くの方が
見るチャンスがぐっと増えるでしょう〜。


●福島県昭和村のからむし工芸博物館


昭和村では、大麻のことを麻(アサ)、苧麻(チョマ)のことを「からむし」(虫の
名前ではない!)という。このからむしからできる麻布の保存と活用に昭和村
が村の全予算?と国の補助金をつぎ込んでできた施設が「からむし工芸博物
館」と「織姫交流館」。村の人口が2000名のところにこんな立派な建物が!!
とびっくりするようなきれいな建物。

昨年7月にこの博物館ができる8年前からこの村には織姫制度というすばらしい
事業を行っている。1年間、村に住むとからむしの栽培から糸績みから機織
まで一貫した技術を村のおばあちゃんから教えてもらえるのだ。この間の食事
や住居は村が負担。年間5名〜9名の織姫希望者を受け入れており、今年は
9期生がきていた。中には、昭和村が気に入って住み着いた人もいるし、村の
青年と結婚した人も多数いる。織姫さんと結婚するなんてなんて素敵なこと
なんでしょう〜。(赤星の願望?!)

ここでも記録映画を見た。「からむしと麻」というタイトルだ。昭和村では、換金
作物として、越後上布に使われるからむしを育て、自分たちの着る服は、麻だ
ったという。からむしと麻を比較して、栽培〜麻布づくりまでを解説した映画は
わかりやすかった。

村に来て間もない織姫さんがおばあちゃんに「昔もからむしをこのように織っていた
のですか?」と質問すると「麻がほとんどだった」といわれるらしい。織姫さん
たちが習っている技術は、おばあちゃんが自ら着る服の麻のほうだったのだ。
昭和村の政策上、「からむし織りの里」と表向き宣伝しているのに、教えている
技術は麻。なんだか不思議な世界である。

それからこの昭和村は秘境である。冬は雪で埋まって陸の孤島となる。そん
な地域だからこそ、からむしや麻の生産技術が続いてきたといえる。ヘンプカー
は4トントラック改造車だったので、細くてカーブの多い山道は厳しい道のりで
あった。


●栃木県那須高原に大麻博物館が登場

那須高原といえば、軽井沢に次ぐ東京近郊のリゾートスポット。東北道の那須
インター下車し、那須山方向へ街道沿いの最初の信号を右折すると大麻のリーフ
マークの看板が目印の建物が現れる。その名も大麻博物館。

国内外の大麻商品が所狭しと並べられ、地元の大麻農家の商品から喫煙グッズ
まで揃えているのはここだけだ。ガンジャハイ、ヘンプハイ、麻物語の大麻ビール
が飲めるのもここの店の特徴。近くに天皇家の別荘がある関係で、天皇家愛飲
の川根茶麻の実入りが売れ筋という。

大麻博物館というヘンプショップかもしれないが、今後はパネル類もきちんと
整備し、博物館らしくする予定だ。ヘンプカーは、ここに4日間滞在し、博物館
の展示物となった。


●栃木県粟野町長に表敬訪問

大麻和紙を生産している野州麻紙工房と麻の実パンが爆発的に売れている
パントマイム(パン工房)のある粟野町。今でも30軒ほどの農家で8ヘクタール
の麻栽培がされ、今も昔も日本一の生産地である。ここの町長に会うべく、
ヘンプカーは粟野町役場へ。

町の職員は、ヘンプカーのおどろどろしい姿(笑)にびっくりした様子で、なんの
車か???という状態であった。町長室の前にある立派な椅子のある会議室
で1時間ほど懇談をした。

今の町長さんは、若い頃農業改良普及員時代に大麻を残すために尽力した
功労者である。1970年代にマリファナを吸うカルチャーが広まり、都会の若者
が野菜泥棒のように大麻盗難の被害に悩まされた時期に無毒大麻の品種
改良と普及に携わったのである。

大麻から薬理成分のTHCを低くすると在来の品種よりも繊維の質が下がって
しまったが、栃木から大麻が植えられなくなってしまう最悪の事態を回避するた
めの手段=無毒大麻の普及だったという。
もし、低THC品種がなかったら、栃木県だけでなく日本中から大麻栽培が消え
てしまっていただろうと自負されている方であった。

今度、栃木県の知事にもヘンプカーの話や栃木の新しい産業として大麻を検討
していこうという話をするそうである。特に神社にビニールやナイロンのひもを
使っている現状に「そんな神社は御利益がない!」と一喝。
まだまだ現役の町長。日本で唯一大麻に理解のある町長といっても過言では
ない。行政の中には、粟野町に大麻博物館を建設したい動きもあるようだが、
つくるならば大麻の住宅建材をたくさん使ったものにするようにはたらきかけて
いきたい。(ヘンプの皆さん!提案活動を一緒にしましょう!)


●長野県駒ヶ根市 第6回くらふてぃあ杜の市にて

昨年の夏、岩島の麻づくりの技術伝承のワークショップ来ていた長沢夫妻のご縁
でプロフェッショナルのクラフトマンが一同に集まるイベントに出展できることになった。
このイベントは、200名の出展者に2日間で4万人も来る大イベント。

長沢さゆり:麻の糸績み、機織体験
岩波金太郎:八味唐辛子、大麻のパネル展示
大森芳紀:大麻和紙、ランプシェード、ぞうり等
ヘンプカー:大麻商品全般

このイベントに上記のようなユニットで出展した。長野県だからできる?この企画
の充実度。麻関係では、麻布染色を専門とした京都・宇治の方も入れると5チーム
も出展していたことになる。ヘンプカーは非営利なので今回は特別出展扱いで
あったが、他は皆さんプロとして(職業&職人)、大麻を扱っているのである。

前日に山梨にいた関係で2日間のうち1日だけしかヘンプカーは出展しなかったが、
人々の反応は、とてもよく、できれば毎年このイベントに参加したいと思った。
なんといっても会場の裏に大きな川とつり橋があって、ロケーションが抜群。
川の上流の方に見える南アルプスは、6月2日でも雪が残っているのだ。

他の出展も個性的な織物、工作物、陶芸、ガラス細工・・・・の数々。時間がもっと
あれば、欲しいものがたくさ〜ん見つけてしまったような空間であった。


●考えたこと〜まとめ〜

わずかに残る麻の産地を1ヶ月ぐらいで一気に回ってみると本当に日本の伝統文化
の根底にあるものが無くなる寸前だということが実感される。伝統文化の保存という
名目だけだと職業にならない(お金を稼げない)のが今日の危機的事態を招いて
しまっているのだ。

この状況を打破するため、くらふてぃあ杜の市のようなコンセプトで芸術的な経済
活動で次の時代へ伝えていくのが最もよい方法だと思った。国が伝統工芸の指定
をしたり、補助金を出したりしても限界がある。今の生活様式にあった新しい使い道
や新しいデザインを大胆に取り入れていく。そこには様々な分野の人との協力が
欠かせないと思われる。

そして何よりも大切なのは、当事者のプロ意識と情熱だと思った。「くらふてぃあ」の
イベントを通じてそんなことを感じた。

以上







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