ふぁーみんぐ通信03年10月号
           天然繊維活用先進国ドイツ視察 〜畑からベンツまでの巻〜



●なんとなくヨーロッパに行きたかった

ドイツ最大の環境NGO「BUND」は40万人の会員がいる。。。
環境保護重視の緑の党が政権の1翼を担っている。。。
原子力発電は、2020年で運転停止の政策。。。
デポジット制度、自然エネルギー推進。。。
フライブルグは、環境首都。。。
これらの発信源は、今泉みね子という一人の環境ジャーナリストによって
成し遂げられた?!ドイツのイメージがある。しかし、行ってもいないものが
あーだこーだと推測してもしかたがない。

私の関心事である「天然繊維」の活用に関してもインターネット上で調べれば
調べるほど、先進的な国だという確信をもつようになる。ちょうど、そのときに
断熱材のおねえさんとドイツに旅行行こうよ!と今年4月ごろに雑談で話して
いたことが現実になった。

今回は、ヘンプ(麻)断熱材「テルモハンフ」の日本代理店であるエルデフェア
バンドさんのツテとコネによって、10月6日〜12日までのヘンプツアーinドイツ
を行うことになった。


●ドイツとハンフの歴史

hanf(ハンフ)というのがドイツ語でいう麻(英語:hemp)のことである。ハンフと
いえば言葉の語呂合わせで「帆布」を思いつくが、歴史的に15〜16世紀の
大航海時代の帆船には1隻当たり60トンも麻が使用されたという。
帆、ロープ、船員服に使われたのはもちろんのこと、航海日誌に麻紙を使い、
夜になったら、麻油で灯りを確保したのだ。マゼランの世界一周も大麻なし
には語れない!!

1450年にグーテンベルグが活版印刷術を発明した当時の紙の原料には麻の
衣服のボロ切れが使われていたことが明らかになっている。この印刷術で製
作されたものはほとんど聖書であり、それまで一部の僧侶たちしか知らなかった
知識が普及することによって宗教改革(プロテスタント)へと発展していったの
である。直接的にはルターさんがお題目を唱えていたが、ハンフの紙なしには、
宗教改革もあり得なかったのだ。

また、1800年初頭にドイツを支配していたナポレオンがロシアへ戦争をしかけ
た理由の一つとして、ロシア製の良質なハンフ繊維の確保が目的だったといわ
れている。石油製品が登場する前、ハンフは、国(支配者)にとって重要な軍事
資源だったのだ。

それから、スペインやポルトガルやイギリスやフランスなどが世界各地で植民地
を拡大すると、ハンフより安いサイザル麻、ジュート麻がアフリカやアジアから
供給されると一気に市場縮小となってしまった。20世紀の2つの大戦によって、
艦船用ロープ、軍服、パラシュートなどで必須品となったハンフは、再び栽培拡大と
なったものの、大戦後は、石油製品との競合で再び市場激減。

大戦後は、麻薬に関する単一条約(1961年採択・1964年発効)及び向精神薬に
関する条約(向精神薬条約)1971年採択・1976年発効 の影響により、それまで
細々と栽培されていたハンフは、鳥の餌としての栽培を除いて、1982年に全面
禁止となったのだ。

ところが、1993年に「hanf」マティアス・ブレッカース(Mathias Broeckers)著が
ドイツ国内でベストセラーになり、多くの人に農業的・工業的に有益な作物である
ことが知られるようになった。それから、EU(欧州連合)の前身であるEECの規則
NO1164/89(低THC品種栽培基準)とドイツ国内での栽培禁止法の矛盾、94年当時、
イギリスとオランダで栽培解禁となった状況から、ドイツ連邦を相手に訴訟を起こ
したのだ。

訴訟を起こしたのは、ドイツ屈指のヘンプ会社となったハンフハウス社であった。
hanfの著者も経営者の一人として参画し、それから96年に裁判に勝訴し、直ちに
栽培が解禁されのであった。

※ここでいう栽培解禁は、ハイになる成分THCが0.2%以下の品種に限ってのことである。
  これらの品種は、一般的にIndustrial hemp(産業用ヘンプ)と呼ばれている。


●血のにじむような努力の結晶、BaFa(バーファー)

今回の訪問先は、生産から最終製品までのプロセスがわかるようなところを選んだ。
ハンフの契約農家をネットワークし、収穫機械を開発し、繊維とオガラ(麻幹)に分離
する加工会社を営んでいるのがBaFaである。社長のフランク氏からの貴重なお話を
聞けた。

彼がハンフに注目したきっかけは、hanfという著作からであった。ちょうど1995年に
ハンフ原料に関するシンポジウムがあり、そのシンポジウムの企画スタッフとして
参加したのがきっかけで、96年にバーデン天然繊維加工会社(BaFa)を設立した
のだった。

以前の職業は、なんと言語障害の介護士及びメガネ屋さん!!!奥さんがメガネ
のマイスター(職人)で、お店も3軒もっていたという。ちょうど4軒目を出店しようと
したときにハンフで事業を興したのであった。

今では、契約栽培農家100軒。ちょうど日本の麻農家100軒と同じ数。
栽培面積700ha、年間5000トンの生茎を繊維とオガラに加工している。
96年当時、ハンフ栽培が解禁になったものの、それまで栽培したことがないので
農家が積極的に栽培するものではなかったという。補助金が1ヘクタール12万円
(96年時)ほど付くにも関わらず。。。

そこで、フランクさんがまず声をかけたのが彼の隣の家に住むコールさんという農家
だった。コールさんは、150haの農地(牧草70ha 畑80ha)、肉牛65頭、30豚、
鶏多数4家族で住んでいる方であった。この農地での農業従事者は、コール夫婦と
その娘夫婦。

ハンフは20haの栽培 収入の10%を占める。家畜が多いのでハンフはそんなに
大きな割合でないようだ。中にはトウモロコシ50%、ヘンプ50%という農家もいる。
(コールさんだけで日本の栽培面積全部で12haの倍近くあるなー)

ドイツでは、70haぐらいが農家の平均栽培面積であるが、最近はEUからの補助金
も減ってきており、100haぐらいないと経営が厳しいといわれている。

ハンフは、穀類(大麦、小麦、トウモロコシ、ライ麦)との輪作体系の中で営まれており、
ハンフ栽培後の翌年は、穀類が10%収量増加するとのことである。

彼は、事業7年目の今年になってようやく単年度黒字を達成している。売上高は、
2003年度推定で190万ユーロ(約2憶6千万円)になる。
立ち上げからの大きな問題点として次の3つをあげてくれた。

1)ハンフ栽培をしてくれる農家探しとその条件交渉  
2)繊維とオガラを機械的に分離する工場ラインの技術確立(まるまる1年かかった)
3)生産物(繊維、オガラ、種子)のマーケット開拓  売り込み交渉

これらの問題解決には、血のにじむような努力が必要だったという。この「血のにじむ
ような努力」という言葉に感動した。フランクさんの何がそうさせているのか?70年代の
ドイツ国内での公害問題への関心がバックグラウンドにあるという。環境保護に熱
心な緑の党のような政治的活動は一切していないが、その考え方は同じようなもの
だといっていた。また、農業と工業とが一緒になって何かできるものをという発想もあ
ったと語ってくれた。


●ハンフの大きなお母さんのホックさん

BaFaからできた繊維製品(工業用語では半製品と呼ばれる物)は、ホック販売会社
(Hock Vertriebs)で断熱材に加工し、販売される。
96年に栽培解禁されてから2年間、断熱材製造ラインの研究開発をし、98年から
テルモハンフというブランド名で販売を開始。

ドイツでの断熱材市場は、3000万立方メートル。
木質、羊毛、セルロース(古紙)、亜麻、大麻、木綿などのエコ断熱材は、3〜5%
のシェア。エコ断熱材は、フランスが0.5%、日本が1.5%(このうちセルロース
が半分を占める)ということを考えるとまだまだ未発達な市場である。

ドイツでも日本でも断熱材といえば、グラスウール(ガラス繊維)とロックウール
(鉱物繊維)、発泡プラスチック系のウレタンが主流である。

ホック販売会社を設立したホックさんは、旦那さんがやっていた家の内装施工会社
を一緒にしていた頃、グラスウールのチクチクと空気中の塵に悩まされていた従業
員を気の毒に思っていたことが、ハンフで断熱材をつくろうと思ったきっかけだった
という。

たまたま、フランクさんとも知り合いで、ハンフに関してはフランクさんから声を
かけられたとのことである。あー、人のつながりは偉大だ!!!!

そう、ホックさんは、ドイツのビジネス雑誌でも評価されている女性ベンチャー
の社長なのである。日本にも2000年夏に名古屋に来たことがあり、その
ときお土産にもってきたハンフ製品が関西空港の税関ですべて没収された
エピソードを語ってくれた。ホックさんは、日本の取締が厳しいことも知っていた
ので、葉や花からつくった製品はあえて除いていたにも関わらず、没収された
そうだ。

5年目の今年から単年度黒字転換で売上高は300万ユーロ(約4憶2千万円)
になる。しかも、自らのマーケット拡大と環境素材であるハンフの普及のために
ドイツの国会議員にロビーイングとお手紙で2003年度からハンフ断熱材等の
エコ断熱材を購入した家には、1立方メートル当たり40ユーロ(約5600円)の
還付金がある制度をつくってしまったのだ。(すごい!!)

ドイツ国内でもハンフ断熱材は、グラスウールの3倍高い価格であり、この還付
金制度によって、2倍まで抑えられる。つまり、ハンフ断熱材の購入の3分の1
のエコハウス補助金制度なのだ。こんな制度、日本ではどうなんでしょうか????


●哲学のある車メーカーは、ハンフを使う


97年に稼働したメルセデスベンツ製造の最新鋭工場へ行って来た。前述のBaFa
の生産物の半分がベンツの車部品になっている。えー、どこに使っているの?
なぜ、使っているの?という声がすぐにでも聞こえてくるほど、まだまだ有名な
トピックではない。

車の最新技術といえば、トヨタのプリウスに代表される電気とガソリンのハイブリット
システム。それから、東京都のバスでの実験がはじまった酸素と水素を反応させて
エネルギーを取り出す燃料電池車。これらのニュースに比べるとハンフ使用なんて
見劣りするかもしれないが、その認識は甘い。

ベンツでは、90年初頭からブラジルでのココヤシ繊維で車部品をつくるプロジェクト
をしている中で、次世代の車に必要な素材は、天然繊維という明確なビジョンを
もっている。そして、2015年までには、車体ボディの95%以上に天然繊維をつ
かった車を市場投入するという目標までもっているのだ。

実際に自動車に使われるハンフは年々増加している。Nova研究所の資料によると
         
自動車用途に使われる天然繊維 ドイツ&オーストリア
        ハンフ(大麻) フラックス(亜麻)  ジュート麻他    計
1996〜98年     0トン     2000トン      2000トン   4000トン
1999年      300トン     7000トン      2300トン   9600トン
2000年     1200トン     9000トン      2000トン   12200トン
2001年     1600トン     8500トン      5000トン   15100トン
2002年     2200トン     9000トン      6000トン   17200トン

とにかく、自動車用途の天然繊維は、急激に増加しているのである。
自動車にとって、天然繊維を使うメリットは、

1)比重が0.3〜0.4なのでたくさん使えば、車体が軽くなり、燃費がよくなる。
  →自動車にとって車体を軽くするのは至上命題!1台当たり8kg軽量化
2)ガラス繊維の代替としての利用
  →樹脂に混ぜていたガラス繊維は、衝突時に体に刺さり、安全上よくなかった。
3)環境規制をクリアするため、リサイクルの容易さの追求
  →ガラス繊維の入った素材はリサイクルに不向き。天然繊維だとサーマル・
   リサイクルが容易

訪問した工場は、メルセデスベンツのAクラス(小型車)を製造する工場であった。
組立工程と最終工程を見たが、自動化がものすごく進んだ最新鋭工場という
感じで、その規模と作業効率のよさに圧倒されてしまった。

そのAクラスの床の金属部分を覆い隠す内装材としてハンフのマットが使われて
いた。S,Eクラスでは、ドアパネルの内装として、他の自動車メーカーでもオベルの
アストラ、アウディのトランク部 BMW5ニューモデル、BMW3ニューモデルのドア
内装というようにあちこちで使われ始めている。

 
●ゲルマン魂を見習え?!

私は、ドイツに製品開発において、国や州の助成や政策的措置があったのだろう
と考えており、今回の訪問でそういう話を聞けると期待していたのある。
ところが、ところが、BaFaのフランクさんもHockのホックさんもいずれも
なーんの助成も補助も受けず、自らのスピリット(精神)とパッション(情熱)だけで
ここまでやってきたのである。

フランクさんは、事業開始から黒字転換するのに7年、ホックさんは5年。これは、
長いと見るとか短いと見るかは、人によっては様々であろう。いずれにしても
新しい産業の芽を生み出しているのは事実である。

日本じゃ、大麻に対するマイナスイメージが強く、なかなか前に進まないのが現状
である。しかし、地域興しと遊休農地活用の観点から、
「大麻以外の代替案はあるんですか?」ということを声を大にしていいたい!

今回のツアーで得てきたことをまとめて、日本における大麻利用の新しいマーケ
ットに何が適しているのかを見極めつつ、日本オリジナルなモデルをつくっていけ
ればいいなーと思う。


●今回お世話になったところリンク集

ヘンプ(麻)断熱材「テルモハンフ」日本代理店エルデフェアバンド
http://www.erde-vbd.com/

BaFa(バーデン天然繊維加工会社)
http://www.bafa-gmbh.de/

ホック販売会社(Hock Vertriebs)
http://www.thermo-hanf.de/

ダイムラー・クライスラー社 Rastatt工場(メルセデスベンツ製造)
http://www.mercedes-benz.com/

ハンフハウス(ヘンプショップ&通信販売)
http://www.hanfhaus.de/

















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