ふぁーみんぐ通信04年3月号
         日本の医療大麻研究最前線 〜薬理学会に参加するの巻〜



●毒性研究から創薬研究への転換か?

大麻に含まれているTHC(テトラヒドラカンナビノール)という生理活性物質を使った
研究は、従来は、いかにそれが毒であり、そのメカニズムの解明というテーマの研究
がほとんどであった。

大麻の研究は、九州大学薬学部、北陸大学薬学部、福岡大学薬学部が御三家といわれる
ぐらい、この3つの大学から多くのTHCならびに大麻の薬理学的な実験をした学生・大学院生
が卒業している。

日本での医療大麻は、大麻取締法第4条2項と3項で、大麻の医療目的での使用が、
例外なしに罰則をもって禁止されている。研究者は、人を使った臨床試験の手前の動物実験
でしかできないが、その範囲の中での研究が御三家以外の大学にも広がっている。

今回は、この動きを受けて、薬理学会という場所ではじめて、大麻に含まれている61種類の
カンナビノイド(有名なのはTHC)をテーマにしたシンポジウムが開かれた。参加費が一般で
15000円もしたが、滅多にない機会なので思い切って参加してみた。


●第77回日本薬理学会年会 3月8日(月)〜10日(水) 

シンポジウム概要
 植物の活性成分の薬理作用から始まった大麻研究は、主にその特異な精神作用の解明に
焦点が当てられてきた。しかし、1988年脳でのカンナビノイド(CB)受容体の発見とそれに続く
内因性マリファナ様物質の発見により、その方向性は一変した。生体における内因性CB/CB
受容体は、いかなる役割を演じているのか?諸種精神疾患の成因として、脳内CBシステムは、
何らかの関連性を有しているのか?興味のある新しい研究視点である。

内因性CBの存在をヒントに、この領域から医薬品の開発もすでに着手されている。5名の研究者
の大麻・カンナビノイドに関する最新の知見に触れ、新しいstrategyを立案し、さらなる展開を期待
してみたい。

日時 3月9日(火) 14: 00 - 16: 00  F会場  シンポジウム番号:S26
演題 脳内カンナビノイド/大麻の研究動向と新展開(山本経之 藤原道弘)

    1 藤原道弘 福岡大・臨床疾患薬理
     カンナビノイド受容体に関連した異常行動の発現ならびに治療薬への応用
    
    2 杉浦隆之 帝京大学薬学部
     内因性カンナビノイド受容体リガンドの生理的役割
    
    3 狩野方伸 金沢大院・医・シナプス発達機能学
     カンナビノイド受容体の脳シナプス伝達における役割
    
    4 氏家寛 岡山大院・医歯学総合・精神神経病態
     統合失調症とカンナビノイドCB1受容体遺伝子多型
    
    5 山本経之 九州大学大学院薬学研究科薬効解析学分野
     薬物依存/脳内報酬系に関わる脳内カンナビノイドシステム


場所 大阪国際会議場(グランキューブ大阪)
    〒530-0005 大阪市北区中之島5-3-51
   TEL:06-4803-5555(代表)/ FAX:06-4803-5620
参加 (社)日本薬理学会事務局
    〒113-0032 東京都文京区弥生2-4-16 学会センタービル
    TEL:03-3814-4828
    FAX:03-3814-4809
    E-mail:society@pharmacol.or.jp
    http://www.pharmacol.or.jp


今回の発表者の資料などは、こちらのページにほぼそろっているので
ご参照を。
http://www.iryotaimasaiban.org/shiryo/index.html


●日本でカンナビノイドはどうやって手に入れているのか?

大麻の栽培は、免許制なので、わざわざ薬学・医学系の研究者が大麻を育てて、その成分を
抽出しているのか?そんなことはない。便利なことに合成THCを試薬として販売している会社
がある。

和光純薬工業株式会社
カンナビノイド・レセプター作用薬
http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/info/life/article/cannabinoid.htm

カンナビノイドの受容体(レセプター)であるCB1,CB2をターゲットにしているものである。こちらの
ページで書いてあるアゴニスト=作用薬、アンタゴニスト=遮断薬という意味である。これらを使って、
脳内のカンナビノイド受容体(CB1、CB2レセプター)に作用させたり、あるいは受容体の働きを遮断
して、その性質を特定するための研究が行われているのである。


●カンナビノイドが治療薬として有効だと考えられている分野(薬理学会での発表から)

1.消耗症候群
  HIVや癌などで患者においては、極めて重大な病状。エイズ指標疾患の一つにもなっている。
  HIV感染症の場合、病状が進行して、1ヵ月以上発熱や下痢が続いたり、意図しない10kg以上
  の体重減少をきたすもの カンナビノイドは食欲を増進させる作用がある。

2.悪心、嘔吐
  「悪心」とは、嘔吐したくなるような感覚のこと。また「嘔吐」とは、胃の中のものを食道を経由して
  無理に口の外に出すこと。 
  癌に対する化学療法、薬剤使用での緩和に有効である可能性が高い

3.筋痙縮
  多発性硬化症(MS)などの神経性難病。現在、症状を抑える薬はあっても神経の回復にまで
  効果を見せるものはない。カンナビノイドは、神経細胞のミエリンを修復させる作用がある。

4.疼痛(とうつう)
  =痛み。生体組織の損傷あるいは損傷の可能性のある侵害刺激が個体に起こす感覚。
  種類:(1)体性痛(2)内臓痛
  麻酔や薬物投与によって患者の痛みを和らげるのがペインクリニック。主に薬物治療。
  ガンの痛みや頭痛・腰痛・術後の痛みを緩和する医療だが、最近、アレルギー疾患や花粉症などに応用されている

5.頭部損傷
  頭部への急性外傷に際して脳細胞を保護する作用がある。

6.肥満
  脳内のカンナビノイドが食欲を抑制する作用がある。


●参加の感想とこれから

マリファナの科学(築地書館)、大麻の文化と科学(廣川書店)をもう一度読んでいったが、普段から
医療大麻の専門用語に触れていないので、学会発表者の前半ぐらいまでは理解できても、後半部分は、
さっぱりわからなかった。実験の方法や条件などの部分は、実体験がないので、ピンとこなかったという
のが正直なところである。あー、もっと勉強しなければ、、、

最近の医学の領域においては、EBMというキーワードが非常に重要視されている。EBMとは
「エビデンスに基づく医学」という内容の英語の頭文字で、手術、投薬などの医療は「エビデンス」に
基づいて行うことが大切である、ということなのである。「エビデンス」とは、「ある医学的事実に対する
臨床的、学問的な証拠、裏付け」のことである。

カンナビノイドに関しては、十分なエビデンスがないのに昔の法律によって規制されているのである。
医療大麻分野の基礎的研究がすすみ、エビデンスを作成するにあたっては、絶対に臨床試験が不可欠
となる。この臨床試験が法律がネックとなって、何もできないのは、とても不合理なことである。

今回の学会発表をきっかけにカンナビノイドに関する研究者のネットワークが徐々にできていき、
国内でのエビデンスづくりの環境整備(制度改正)の動きにつながっていくことを期待したい。


医療大麻を含め、論文の最新情報は、BIOTODAYというサイトでチェックできます。
http://www.biotoday.com/





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