ふぁーみんぐ通信04年5月号
     準絶滅危惧種のアサカミキリは麻畑にいるのか? 〜種の保存の巻〜



●アサカミキリの話を聞く

私の友人であり、大学で教鞭をとっている昆虫博士は、とても面白いやつである。
サッカーマニア、熱帯林保護マニア、切手収集マニア、昆虫マニアという4分野に
精通している。大学時代は、昆虫採集用の5メートルの長い網を振りかざし、
子どものように野原を、山々をかけずり回っていたのである。私も何回か遊んだ
ことがある。。。。

その友人に社会人になってから「最近、何やっているの?」と言われたとき、
「麻という植物に注目していて、これをなんとか日本で広げていきたいんだ」と
いう話をしたときに、
「麻といえば、アサカミキリって知っている?すごい貴重なカミキリなんだよ」と
いった。その後、大麻が日本で栽培面積が激減したという話の後、
「そーかー!、それでアサカミキリが希少種なんだ!」と納得顔をされた。

このときに「アサカミキリ」というキーワードが脳裏の片隅にあったものの、その後、
特に何かをしたわけではなかった。


●アサカミキリって何?

これは、福岡県のレッドデータブックからの抜粋である。アサを食べて生きていた
やつが、アサがなくなって、環境省の準絶滅危惧(NT)にも指定されているのだ。

分類群 昆虫類(甲虫類ほか)
福岡県カテゴリー 絶滅危惧U類
和名 アサカミキリ
科名 コウチュウ目 カミキリムシ科 Cerambycidae
学名 "Thyestilla gebleri (Faldermann, 1835)"
全国カテゴリー 準絶滅危惧(環境省)
生育状況・

危機の状況・
選定理由 アサの害虫として有名で,戦前はアサ畑で普通に見られた。県内でも,
久山町や福岡市の記録がある。戦後,麻薬取締法によってアサの栽培が禁止さ
れて本種も日本全国で激減した。草原に生えるアザミ類を食草にする個体群が
局地的に残されたが,その後の環境悪化で絶滅した産地も多い。県内では,
平尾台で1984年以降も採集されており,全国的にも貴重な産地で,生息環境
の保全が望まれる。

→ 麻薬取締法は、大麻取締法の間違いですね。福岡県庁さん!!

分類・形態 体長10〜15mm。体は黒色,しばしば黄灰色の微毛に覆われる。
        前胸背板正中部と両側,上翅側面上縁辺と会合部に白条が走る。
         触角は白黒のまだら模様。

分布(県内) 平尾台
分布(県外) 本州(新潟,福島以西)〜九州,隠岐(島後)。九州では,
       大分県湯布院町塚原の草原で,近年も採集されている。
分布(国外) 極東地域大陸,朝鮮半島
生活史・
生態生息地 成虫は5〜8月に出現し,アザミ類の新芽をかじる。幼虫はアザミ類の
        生茎の皮下を食べた後,髄に食い入って根際で越冬,翌年羽化脱出する。
        また朝鮮半島では,帰化植物のオオマツヨイグサから成虫が多数得られるという。
執筆者 (藤本)


●生物多様性と種の保存

日本では種の保存=生物環境の保全よりも公共事業=今日の収入が優先されて
きたために、生物多様性が重要だとか、種の保存が必要だといっても、それが自分の
生活とどのようにつながっているのかピンとこない。しかし、世界規模で見ると人間の
経済活動によって、急速に野生種が絶滅に追いやられている。

ある特定の種の保存をするには、生物がたくさんいる環境が必要である。
その生物がたくさんいる環境=人間にとってもよい環境なのである。
こんな単純な自然の法則をちょっと無視してもいいやー!と思ってきたのが最近の
人間の経済活動なのである。それにブレーキをかけ、警報をならし、倫理観を求める
動きがる。
 
IUCN(国際自然保護連合)は、1992年に「生物多様性保全戦略」を発表し、各国
ごとに国家戦略づくりの必要性を強調し、各国は、それに従って国内法を整備して
いるが、日本ではまだ体系的なものはできていない。そのため、自然保護系の
NGOが野生生物基本法(仮)の制定を働きかけている。

日本では、1989年に日本自然保護協会、世界自然保護基金ジャパンからレッドデ
ータブックが民間で発行され、97年に環境庁がレッドデータブックをまとめ、それから
各都道府県で独自のレッドデータブック(絶滅の恐れのある動植物リスト集)を発行
する流れになっている。
 ちなみになぜ「レッド」なのかは、IUCNが発行した本が深紅色だったことに由来して
いる。もちろん、危惧・危険をイメージできる「レッド」という意味もある。


●レッドデータブックのカテゴリー

国際的な基準と照らし合わし、国内の基準を考えた環境省は、以下のように
分類している。
 
絶滅(EX)          我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
野生絶滅(EW)      飼育・栽培下でのみ存続している種
絶滅危惧I類(CR+EN) 絶滅の危機に瀕している種
絶滅危惧IA類(CR)    ごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種
絶滅危惧IB類(EN)    IA類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高い種
絶滅危惧II類(VU)     絶滅の危険が増大している種
準絶滅危惧(NT)      現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては
                「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
情報不足(DD)       評価するだけの情報が不足している種
絶滅のおそれのある地域個体群(LP)   評価するだけの情報が不足している種

この基準をもとに各都道府県の有識者(動植物に精通した人々)が検討会をつくり、
2004年現在では、どの県でもレッドデータリストが作成され、それが本として発行
されている。


●アサカミキリは、もしかして絶滅寸前か?

アサカミキリの全国的な調査なんて、この世には存在しない。しかし、昆虫マニア業界
では、カミキリ虫というのは、見つけやすく、親しみやすいメジャーな虫である。
うちの友人もカミキリ虫に夢中(超オタク領域)である。

そこで、思い切って各都道府県のレッドデータブックをあさり、アサカミキリの掲載有無を
調べてみた。

絶滅種(EX) に指定
 神奈川、新潟、京都、高知

絶滅危惧I類(CR+EN)に指定
 千葉(A:最重要保護生物)、長野、兵庫(Aランク)、広島
 鳥取(鳥取県希少野生動植物の保護に関する条例による希少野生動植物の種に指定)

絶滅危惧種IA類(CR)
 愛知

絶滅危惧II類(VU) 
 福岡

準絶滅危惧(NT)
 環境省、福島、三重(希少種)、宮崎

記載なし
 北海道、青森、岩手、秋田、山形、茨城、群馬、埼玉
 富山、石川、福井、山梨、岐阜、滋賀、和歌山、島根、岡山
 山口、徳島、香川、愛媛、佐賀、長崎、鹿児島、沖縄

未確認
 宮城、東京、大阪、熊本、大分  

平成16年度にレッドデータブック発行予定
 栃木、奈良、静岡、広島
 
記載がない=生息確認ができていないということである。過去の文献で
アサカミキリがないために、調査対象にもなっていないところもある。
また、北海道、東北、沖縄には、アサカミキリがそもそもいない可能性ある。

だいたい、過去の文献でアサカミキリが掲載されているのに、レッドデータの調査で
ほとんど見つからなかったら、環境省の定める準絶滅ではなく、絶滅危惧もしくは
全くいなかったら、絶滅種となっている。

栃木県立博物館が1984年に発行した「栃木県のカミキリムシ」を見た大麻博物館
によるとアサカミキリの公的な記録は、

1)宇都宮市古賀志山 1958/7/20 1頭
2)宇都宮市古賀志山 1961/7/12 1頭
3)鹿沼市御成橋   1962/7/4  2頭
4)日光市中小来川  不明       3頭

こんな状態、、、、もしかして、恐ろしく貴重なカミキリ虫なのかもしれない。


●アサ茎の輸入には気をつけよう。。。

アサカミキリを調べていたら、植物防疫法の対象の有害動物でもあった。
これには、びっくり。

植物防疫法
第1条この法律は、輸出入植物及び国内植物を検疫し、並びに植物に有害な動
植物を駆除し、及びそのまん延を防止し、もって農業生産の安全及び助長を図る
ことを目的とする。

植物防疫法施行規則(農林水産省令)
第5条の2 法第5条の2第1項の検疫有害動植物は、次に掲げるもの以外の有
害動物又は有害植物とする。
一有害動物
 アオバハゴロモ、アカタテハ、アカハネナガウンカ、アカマダ
  ラカツオブシムシ、アサカミキリ、、、、、

絶滅しそうなのに取り締まるなんて!(大麻取締法もですが、、、)と怒る人が
いるかもしれません。


●アサカミキリを見つけ、自然保護&麻畑の保護活動をしましょう(笑)

私自身、麻畑に3年通っているが、一度もアサカミキリを見ていない。
ネットで調べると、アザミを食べて、生き延びているらしいが、アサの葉の
上で生活しているアサカミキリを見てみたい。農家にとっては、多少の害虫なん
だろうか?私が聞いている中では、アサカミキリの害について聞いたことが
ない。

どうしてもアサカミキリが欲しいという方は、昆虫標本の会社が、アサカミキリ
を1頭:1500円で販売もしている(驚!)

写真で見るときれいな薄いグレーでなんともかわいい感じがする。
下記リンク集で要チェック!

アサカミキリの全国の生態が明らかになると、アサカミキリのために
麻畑を保存しなければならないかもしれない。
やつらは、しぶとく、アサがなくなっても他の草を食って生き延びているらしい。

たぶん、アサが食べたいと望んでいるに違いない。
アサを復活させて、アサを食べさせてあげたい。。。。


アサカミキリ 大分県湯布院町 1500円/頭
http://kawamo.co.jp/roppon-ashi/

アサカミキリがお気に入りの人のページ
http://www001.upp.so-net.ne.jp/ruriboshi/index.html

アサカミキリ観察記 2003年7月21日
http://wakwak21.hp.infoseek.co.jp/Main1_16.htm

アサカミキリが交尾中か?!
http://www.tisitu.co.jp/column_gallery01.html


写真に撮った&我が町で発見したという方は、
「アサカミキリの生育環境を保存する会」(爆笑)
までご報告を。
akahoshi@hemp-revo.net




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