ふぁーみんぐ通信05年8月号
             中国・韓国・日本・モン族(ラオス・タイ)の麻文化事情
                 〜ロバートさんの講演の巻〜




●美麻フェスティバル2005より

今年も8月13日、14日のお盆の真っ只中で開催された。長野県自体の観光客
が減っていることもあって、土曜日は人が少ない感じ。人を増やすために
多少、有名なミュージシャンを呼べば?という声もちらほらあるけれど、
あんまり若い人がたくさん来ると、会場の雰囲気が地元の方にとって入り
づらくなってしまう。(今でも十分に入りづらいかもしれない、、、)

ただでさえ、美麻村の「麻」をテーマにしているものの、普通の村人にと
っては、すでに「麻」の接点が遠くなってしまった現状において、いまさら
感は否めない。
 でも村おこしの基本というか王道は、全く新しいことの挑戦よりも、村の
かつての特産品の復活!の方がはるかに物語性が高いし、現実性が高い。

昨年にはじめてイベントをやって、麻の資料館「麻の館」に近代的なヘンプ
製品を納品して展示し、道の駅に手打ち麻そば・麻の実食堂「麻の美」を
今年夏にオープンさせて、ようやく地域興しの拠点ができたところである。

栽培を復活させ、大学との研究体制を整え、という水面下の動きも少しずつ
形になってきた。栽培が途絶えてから苦節12年!!(私がかかわって6年目)


●ご近所の鬼無里(きなさ)の歴史民俗資料館より

ヘンプ55を書いた私が一度も訪問していなかった麻の博物館!。噂では、
美麻村の麻の館という麻の資料館よりも充実していると聞いていた。
日曜日の午前中に美麻村の道の駅ぽかぽかランドから車で25分。山道を抜け
ていくと鬼無里の歴史民俗資料館にたどり着く。

鬼無里では、村の経済を支えてきた麻栽培についての展示がかなり充実して
いた。風水害が少なく、水はけがよい土壌なので、麻栽培に適し、良質の
繊維ができたところであった。

麻は繊維をとって、主に畳糸(畳の横糸はイグサ、縦糸は大麻)として出荷
されたようである。畳糸の中でも白い糸ができるので、高級な畳糸として
重宝され、有名な産地だったようである。

この白い糸ができる秘密は、冬の雪深い中で麻の繊維を晒すからである。
寒晒し(かんざらし)とも呼ばれる作業は、太陽光線(紫外線)をあてて
麻繊維を白くさせるのである。

また、麻が平均して4メートルほど高く成長する地域で、現在の栃木県の
産地と比べて倍近くあるとの解説でした。資料館で私たちに解説された方は
昭和40年(1965年)まで麻栽培に従事していた方で、昨日のような話で麻
栽培について熱心に語ってくれたのが印象的であった。

また、麻の栽培で大いに儲かったおかげで、宮大工の技術をいかして、
祭り屋台(京都の祇園祭にでてくる曳き車)が7台もあり、各集落で祭りを
実施していたこともあったという。その屋台の立派なこと!!!!!
1本の木から昇り龍や獅子を彫刻しているのは見るものを圧倒させる♪

うーん、来年は鬼無里の博物館の人に麻栽培について美麻フェスティバルで
語ってもらおう〜。


●ロバートさんの講演より 8月14日美麻フェスティバルにて

Robert Clarke (ロバート・クラーク)
International Hemp Association PROJECTS MANAGER

ロバートさんは、昨年から中国、韓国、日本、タイ・ラオス(モン族)
の麻の文化や伝統技術についての調査を昨年からされている方です。
オランダ在住。51歳
International Hemp Association は、オランダのアムスデルダムに
事務局を置き、1992年から活動をしています。
主に麻の産業利用の情報提供(The Journal of Industrial Hemp )を
年2回ほど発行している団体です。会員は全世界に250名ほどいて、その
団体を運営している中心人物の一人がロバートさんです。
International Hemp Association のホームページ
http://www.hempreport.com/iha/index.html

本日は、中国、日本、韓国、モン族(タイ・ラオス付近の山岳民族)の4つの
地域の麻(Hemp)の文化や麻織物について私が調べてきたことを述べたいと思います。
現在の栽培量、麻布の価格の比較、人々の麻への捉え方、調査をするうえで困難な点、
オルターナティブな動きについて述べたいと思います。

アジア地域には古くから麻の栽培を行い、人々の生業にしてきた歴史と文化が
あります。それぞれの地域で麻から繊維を取り出し、縄、紐、織物になり、
茎の芯は、建材や燃料(薪)になり、種子は食用、葉は飼料や肥料に、花は
薬になり、植物全体をまるごと活用してきました。

<中国>
中国では現在2万ヘクタール(1ヘクタール=100m×100m=約3000坪=1万平米)
ほど栽培されています。繊維用として1万ヘクタール、種子用として1万ヘクタ
ールあります。繊維はすべて布や糸として輸出されています。また種子はオイル
になったり、鳥の餌として輸出されています。
栽培は基本的に自由です。免許制度は特にありません。

<韓国>
韓国では現在約100ヘクタールほど栽培されています。伝統的にお葬式のときに
使います。中国の孔子の時代にその習慣は生まれ、他界した人に着てもらって、
土葬する習慣があります。死装束と呼ばれるものです。種子のほとんどが来年用に
播く種として収穫され、一部では漢方薬としての利用もあります。
栽培は免許制で無料です。JA(農協)のようなところで免許を取得できます。

<日本>
日本では現在約10ヘクタールほど栽培されています。ほとんどが神事用として神社
の鈴縄や幣に使われています。繊維のとったあとのオガラは、お盆の迎え火や送り火
に使っている地域もあります。栽培は免許制であり、免許を取得するのが極めて
難しい国です。

<モン族>
モン族は、伝統的に人々の生活の一部として麻から手織り布をつくって、衣服として
使っています。栽培面積は不明です。栽培には基本的に自由にできます。但し、高速
道路からみえるところにはNGですが。

これらの4つの地域の麻布の製造価格を比較してみたいと思います。
布は、地域によって長さの単位が違うので、ここではわかりやすいように
1平米(u)にして換算してみました。およその数字です。

モン族 手織り布            400円/u
中国 100%麻布 工場出し価格 2000円/u
中国 手織り布(韓国向け)    4000円/u
韓国 手織り布 韓国人向け   20000円/u
日本 奈良晒(手織り麻織物)  40000円/u

手織りの技術の工程はどの地域でもだいたい一緒です。なぜこんなに価格差があるの
でしょうか?
これは、「時間=お金」という価値がこの価格差になっているからです。

モン族にとって麻布は、自らが生きていくのに必要なもの、必須なもの、自給的な
ものなのです。それに比べて、日本の時給は世界一高いので、価格的には競争はでき
ません。麻布の普及をさせようと思ったら、時給の低い国、例えばインドやアフリカ
などではじめるしかないのです。

中国のヘンプは、文化革命の前のものとして、見下されています。中国語に大麻布
のことをマーブーといいますが、これは「きたない雑巾のようなもの」という意味
を表す言葉になっています。世界一のヘンプ生産を誇る中国ですが、文化的には
全く残念な状況になっています。

よって、中国でヘンプの調査をしようとしていたら、ヘンプの偏見がかなりあります。
古臭いもの、オールドファッションという捉え方をされます。
モン族での調査では、山の中で道路がなく、地方に行くことが難しい状況です。
韓国の調査では、みなさんオープンで熱心に説明をしてくれます。
日本は大麻に対する偏見や言葉の面でもっとも研究しにくい国です。

一方で中国や韓国では、長野県美麻村で行われている「美麻フェスティバル」の
ようにオルターナティブ(もう一つの、革新的な)動きは全くありません。
私が見ている限りでは、中国や韓国で麻のもつ多様性や可能性を見直すような
動きにつながることは想像ができません。

日本には、麻に関する生きている文化がまだまだたくさんあります。美麻フェスティ
バルに来ている皆さんは、すばらしい活動をされています。その活動の結果、美麻
フェスティバルのようなイベントが開催できるのでしょう。
 生きている文化を土台しているからこそ、このような動きにつながるものだと
思います。
 美麻村で講演できる機会を設けていただきありがとうございました。
 
通訳:アダム・ロベル

お世辞でも美麻フェスティバルのような小さなイベントが未来の革新性を
担っている重要なお祭りだと示唆してくれるととってもうれしいですね。


●麻の文化について語る人が増えてきた!

ここ最近は、麻の産業利用の進展よりも、伝統文化の分野で麻の見直しに熱心
な方が増えてきたような気がする。どんな方がいるかというと、、、

奈良泰秀 にっぽん文明研究所代表 
麻文化研究会 機関紙「にっぽん文明」発刊 - 麻特集 - 会報7号
http://www.nippon-bunmei.jp/
→神社の宮司である奈良さんが主宰する大麻と神社の関係を復活させるグループ。
 麻特集の会報でズバリ「大麻は、様々な媒介としての役割がある」と言っています。

林博章 阿波歴史民族研究会代表 
http://www.nmt.ne.jp/~aska/
→普段は高校の先生だけれど、阿波忌部の歴史とその役割についてかなり調査して
いる方です。阿波忌部は、3世紀ごろ大和政権に大きな貢献し、大嘗祭の折に天照大
神の神衣である麻で作られた「アラタエ」を代々貢進。麻と日本人との精神的結びつ
きをつないでいたのも阿波忌部!その末裔たちよ集え!という勢いです。

井戸理恵子/民俗情報工学研究家
国学院大学出身で、神社に形として遺されている情報から大麻の繊維が生活のなかで
どれだけ重要なものだったか紐解く研究家。名古屋大学大学院COE研究「自然に学
ぶ材料プロセッシング」の中で民俗学的視点からの大麻の伝統材料としての特性を
研究。北海道プロジェクトの中心である北見出身という摩訶不思議なつながり。

中山康直 縄文エネルギー研究所所長
「麻ことのはなし」(評言社)、地球維新シリーズ(明窓出版)と縄文以前の文化
から麻と日本人の関係について、宇宙的な観点から言霊を発しています。ヘンプカ
ープロジェクト2002の実行委員長を務め、全国12500kmの旅を成功に導いた。
ヘンプ(大麻)という単語に興味のある方なら、ほぼ全員が知っている有名人。

この4名の講演会が見たい!聞きたい!と思うのは私だけ?!
テーマ的にはそれぞれ重なっている部分があるけれど、それぞれの視点で語られる
大麻の文化と歴史観は面白いような気がする。

日本に息づく文化や歴史の掘り起こしもまだまだはじまったばかりですが、
これからの展開がとても楽しみな感じ。

来年の美麻フェスティバルもよろしく。
韓国のHemp Koreaも出店するそうです。
ついに国際的なイベントになるのか?!乞うご期待。

以上






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