ふぁーみんぐ通信05年10月号

      日本のバイオマス利用促進シンポ 〜農業国フランスから学ぶの巻〜


●ピエールボロックさん来日!

10月18日(火)東京会場、19日(水)北海道北見会場、21日(金)京都会場の
主に3箇所で行った講演ツアー。バイオマス(生物由来資源)の利用という固い
テーマだと土曜日・日曜日にするよりも、企業や行政の方を中心にした方が
よい!という見込みで平日に詰め込んだ日程に決定。

ピエールさんは、フランスのアグリビジネスのエキスパート。ヨーロッパの麻の
工業原料の加工販売会社であるLCDAの元CEO(最高経営責任者)。農作物
である麻から食品、化粧品、紙、建材、断熱材、プラスチック、敷き藁などの
加工技術力があり、その生産量は、ヨーロッパ随一を誇るLCDAにおいて、麻
のバイオマス産業化にもっとも貢献した人物として知られているのだ。
また、現在は南アフリカ、オーストラリア、ウクライナ、セルビアなどで同様の
プロジェクトのコンサルタントを務めているという。

2003年10月のドイツ・ヘンプ産業視察ツアーが終わった後に、ドイツのケルン
で行われたEIHA(ヨーロッパ産業用大麻協会)の国際会議に日本人として唯一、
発表した(有)ジャパンエコロジープロダクションの小池さんのご縁で、ピエール
さんと知り合い、冗談で「お金がなんとかなったら日本に来てね!」と打診して
いたのが実現したものだった。言霊の力はすばらしい(笑)。


●ピエールさんがヘンプに魅せられるまで

1940年生まれ。小麦や羊を飼っていた農家出身のピエールさんは、大学に進み、
経営学を専攻。そのころのテーマがアグリビジネス。卒業は、酒、砂糖、ミルクなど
のフードビジネス&アグリビジネスを扱う会社に入社。38歳でビール会社でマネー
ジャーを経験し、その後、ヘッドハンティングでいくつかのアグリビジネスの会社
経営に携わってきた。

それでヘンプの収穫物(茎と種子)を1次加工する会社であるLCDAが多額の借金
を抱えて困っていた2001年にLCDAのCEO(最高経営責任者)に就任。
それまでは、長い間、農業系にいたが「ヘンプ」は全く知らなかったという。LCDAに
出会って初めて、ヘンプと出会い、会社経営をしていく中で様々なことを学んだのだ。


LCDAは、ピエールさんの指揮のもと、2年間で生産部門と販売部門の経営システム
を改革し、利益のでる経営にした。取り組む中で気づいたヘンプの面白さは、

@いろんな商品ができること、
A他の競争相手がいないこと、
Bまだまだニッチな市場なところ

うーん、これはヘンプを今、日本で取り組んでいる方々とも共通しているかも(驚!)



●なぜフランスは栽培が禁止されなかったのか?

第二次世界大戦後、アメリカ側についた西ヨーロッパ諸国の中で唯一、栽培がずっと
続けてきた国がフランスである。薬理成分が低い産業用大麻の品種が開発されて
からようやく1990年代にイギリス、オランダ、ドイツなどの栽培解禁したのにフランス

は、戦後一貫して大麻繊維の生産国であったのだ。

そのわけを聞いてみると、、、
「インディペンデント!」(独立しているから)との一言。

実際にフランスは、1961年の麻薬の単一条約に加盟しなかった国(他にはソ連、
中国などの共産国)であったため、大麻栽培の規制を受けなかったのである。

しかし、2000年に入るまでは、フランスの大麻繊維の需要は、タバコの巻紙が100%。
安定的な売り先があったといえば、聞こえはよいが、逆の見方をすれば、長年、
製紙用への供給に甘んじていたから、LCDAの経営が傾いていたのである。

どこの企業も絶えず、お客さまの満足する新しい商品やサービスを生み出して
いかないと成り立たない!という経営原則から見るとLCDAも衰退企業状態に
あったのだ。


●ピエールさんの改革とは?

ヘンプから様々な製品ができるのにLCDAは、何もやっていないことに気づいた
ピエールさんは、まずフランスで栽培されていたヘンプの品種の種子は、食品
基準に適合しなかったので、食品基準をクリアできる品種の選択をし、食用として
販売できる道を開いた。食用油の販売からボディケア用の製品を手がける。

ヘンプの収穫し、繊維をとった後にでてくるオガラ(麻幹)を馬の敷藁だけでなく、
小動物用の敷き藁として商品化。それから、それでも余るオガラをヘンプコンク
リートと呼ぶ石灰+オガラ+水でできる建材を開発。
オガラは水分をよく含むものなので、石灰とオガラの配分の工夫や混合時に
圧力をかけることで、商品化することができた。

それから、加工時にでてくるダスト(塵)は、ペレットにしてネコの敷藁、
保湿性が高まる土壌改良材にした。

EUの規制で食品用のパレットには、細菌の繁殖しやすい木ではなく、プラスチック
が用いられているが、このプラスチックパレットにヘンプを混合して比重を軽くした
ヘンププラスチックのパレットを実用化。

繊維強化プラスチックの分野で「天然繊維+石油系汎用樹脂」という試みに挑戦。
そのために別会社をつくり、年生産6000トンの生産工場を設置。
これは現在進行形であり、既存の石油系樹脂マーケットへの大きな挑戦だという。

ヘンプをいろんな形に商品化することによって、昔からヘンプ紙をつくっていて、
保守的になっていたヘンプ栽培農家やその原料を加工するLCDAの価値観と
意識改革を促すことに成功したのである。

LCDAだけでなく、他のヨーロッパのヘンプ原料加工会社によって自動車内装材や
断熱材に製品化されていること自体、一昔前なら誰もが想像できなかったこと
である。

そして、50年間ヘンプの本が出ていなかったフランスの出版社から
ピエールさんがヘンプに関する本を2冊出すという成果にもつながっている。
(フランス語なので読めないなー。。。)


●ヘンプの優位性とは?

LCDAは、1974年にスタートしたときは、169農家で1419ヘクタールであった
が、2005年には、LCDAだけで330農家とネットワークを結び、6500ヘクター
ルに及ぶ。LCDAの年間売上高約18億円。LCDAはヘンプの原料だけを取り扱
っているので、最終製品になったマーケットは、その何倍にもなると推測される。

ヨーロッパでは、ヘンプだけでなく、亜麻(フラックス)や輸入品でのジュートやケナフ
繊維の利用の拡大が進んでいるが、あえて、ヘンプを選択するわけはどこにある
のだろうか?

それは、ヘンプ栽培農家にとって経済的・農業的メリットがあるからだという。
フランスの農家はだいたい一戸農家の作付面積は、80〜100ヘクタール。
ヘンプ専業農家というものは存在せず、各農家が20〜30ヘクタールぐらいである
ヘンプ茎の収入は小麦などの穀類と比べて同等〜20%ほど売上げがよいこと、
それから、ヨーロッパ農業の輪作体系にヘンプを加えることが土壌環境の改善
につながる点をあげた。


実際の講演は???

これまで書いてきたことは、実際の講演ではほとんど触れられていない部分である。
東京、北海道、京都と3会場とも参加者や主催者の意向により、ピエールさんの
講演内容がやや違っている。詳しくは後日作成する報告書を読んでもらうとして、
各会場の印象として次のような感じでした。

東京会場
日本人講師にトヨタ車体の植物繊維内装材の開発、松下電工のケナフボード開発、
NECの携帯電話のカバーやパソコンの筐体にバイオプラスチック採用というテーマ
だったために、ピエールさんの講演内容より日本の事例を聞きたい人が多数参加?!
という状態であった。日本のバイオマスのマテリアル利用の大手御三家が登場した
かなり贅沢な企画であった。130名参加

北海道北見会場
ドイツツアーに行ったグループが受入。北海道の中心地の札幌ではなく、将来の
生産現場になる北見市で開催した意義は大きい。農業試験場から北海道の大麻
栽培実験の話もあって、農業ベースの話が中心に。42名参加

京都会場
講演前半は、「麻」でピエールさんとヘンプ55の赤星が日本の事例を紹介。
講演後半は、「竹」で地元の竹材店5代目の若旦那と京都技術研究所の竹の
研究開発について発表。隣接会場に竹と麻の展示会場になっており、参加者
からは、具体的な製品や技術紹介がパネルであってわかりやすかったと大好評。
日本の伝統素材「麻」「竹」の類似性に一同感動。150名参加


●ピエールさんから学ぶこと

私の中では、ヨーロッパモデルを日本に導入すればなんとかなるという気持ちは
元々あまりない。しかし、ヨーロッパがどのようにして様々な壁を突破してきたか
は大いに参考なる。全く認知されていないビジネスモデルがメジャーデビューす
るには、

1)技術の壁  
2)コストの壁
3)市場の壁
4)社会の壁

この4つを打破することが必要となる。日本において、ヘンプという天然繊維の
加工技術やノウハウがほとんどなく、研究もされていないという大きな壁があり、石油

由来の製品や他の植物素材とのコストの壁があり、ヘンプというマーケットは
まだまだ小さい存在にすぎず、大麻のもつマイナスイメージも根強い壁があり、
なんといっても法律や制度としての壁も大きく立ちはだかる。
各壁を突破することを冷静に考えれば、たぶん世界一困難なビジネスと呼んでも
よいであろう。

なぜ、ヘンプにこだわるのか?
これは、もう私の中の「魂の叫び」であり、「DNAの叫び」としか表現できない世界である。

ピエールさんの講演を通じて、ヘンプに比較的取り組みやすい分野の会社に所属する
多くの方がヘンプのことを知った。これはすごいことである。私としては、
これをきっかけに知り合ったビジネスユーザーの期待に応えられるようしていきたい。

イベント前も忙しいけど、イベント後の方が実は忙しい、、、、

今回のピエールボロックさんの講演ツアーは、
主催;NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク、助成:地球環境基金によって
実施されました。協力していただいた方、参加していただいた方、本当にありとうございました。

ピエールボロックさんの日本窓口
とヘンプ原材料・ヘンププラスチック樹脂の取り扱いはこちらまで
(有)ジャパンエコロジープロダクション
http://www.jep-japan.com/

以上








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