ふぁーみんぐ通信06年3月号
            ヘンプオイルで自転車が調子いい 〜ヘンプ潤滑油の巻〜



●自転車屋さんからの依頼

競技用モトクロスバイク(BMX)を制作するメーカーFAMILY PRODUCTS(東京・立川市)
から私にヘンプでグリースができないだろうか?という相談をしてきた。2002年に
ヘンプの種子油(ヘンプオイル)で北海道から沖縄まで12500kmを走ったヘンプカー
の経験があったので、面白い話だ!と思って、早速打ち合わせることになった。

FAMILY PRODUCTSの代表の丸屋さん自身がプロのBMXライダーであり、アウトドアの
スポーツをする一員として環境によい商品を提供したいということであった。
ヘンプオイルを固形グリースのようなものに加工するよりも、自転車のチェーン油
のように液体の潤滑油の方が商品化しやすいということになり、その方向で話を進め
ることになった。


●ヘンプオイルと潤滑油

潤滑油とは、機械の接触部の摩擦を低減するために用いる油で、ベースとなる油剤
に酸化防止剤、清浄分散剤、油性向上剤、粘土指数向上剤、流動点降下剤、さび止
め剤、腐食防止剤、あわ消し剤、乳化剤、防腐剤のような添加剤を加えて、目的に
あった機能を発揮できるようにしている。
 下記のように様々な用途に使用されており、今日の工業社会において不可欠な存在
となっている。

車両用潤滑油:ガソリンエンジン油、ディーゼルエンジン油、2サイクルエンジン油、
       車両用ギヤー油
工業用潤滑油:軸受油、タービン油、圧縮機油、冷凍機油、油圧作動油、
       工業用ギヤー油
金属加工油:切削油剤(不水、水溶性)、熱処理油、
      塑性加工油(圧延油、プレス油、引抜き油、鍛造油、放電加工油)
グリース:潤滑油中に増ちょう剤を分散させて半固体または固体状にしたもの
その他:電気絶縁油、防錆油、ゴム配合油・プロセス油、流動パラフィン
    印刷インキ油、離型剤

実は、ヘンプオイルは昔から乾性系の油として知られており、石油からできた合成
潤滑油がでてくる前は、工業用潤滑油、塗料、油絵の溶き油などの用途に使われてい
たのである。ヘンプオイルは、潤滑油として使った場合、不飽和脂肪酸が多いため
酸素を吸収して粘りけを増やし、乾燥固化して、表面に塗膜が出来やすい性質を持つ。

   種類  ヨウ素価            例
 不乾性油   100以下  オリーブ油、椿油、ヒマシ油
 半乾性油  100〜130  大豆油、ナタネ油、綿実油、サフラワー油
 乾 性 油  130以上  クルミ油、アマニ油、荏油、桐油、ヘンプ油

※乾性油はヨウ素価の値で判断される

ヘンプオイルの性質のことを考えると食用オイルでも十分ではないかと思い、
まずは自転車チェーン油として試しに使ってもらうことにした。


●食用ヘンプオイルとエステル加工油

複数のプロのBMXライダーに使用してもらうこと2週間。クレームが来た。
「ブレーキの利きやチェーンの滑りが今ひとつになった!」

最近の環境問題の高まりから、潤滑油業界でも菜種油をベースとした生分解性潤滑油
が市販されており、その製造方法を調べて見ると、菜種油は、そのまま食用加工した
ものではなく、潤滑油用にエステル加工したものであった。ヘンプオイルもエステル
加工すれば、潤滑油に使えるだろうということになった。

エステル加工したヘンプオイルでお試しすること2ヶ月。特にクレームがない。。。
逆になんか調子いいです!自転車が軽くなった感じです!という評価を受けた。

<ヘンプオイルの潤滑性状>
 
食用ヘンプオイル エステル加工
密度(15℃)g/cm3 0.9278 0.8899
引火点(C.O.C) ℃  270 184
動粘度 mu/s 40℃ 26.98 3.789
動粘度 mu/s 100℃   6.909 1.612
粘度指数 235  測定不能
流動点  ℃ -22.5  -5.0
※粘度指数は、100℃の粘度が2mu/s以下であったため計算不能
センチストークス[cSt (mm2/s)]:世界で最も一般的に使用されている粘度の単位。
(社)潤滑油協会技術センター調べ
依頼者:FAMILY PRODUCTS


●ヘンプ・エステル加工油の性状評価

潤滑油の引火点は、消防法によって250℃以下のものが危険物・第四類(引火性液体)
と分類されて規制の対象となる。食用ヘンプオイルの場合、270℃なので消防法の規
制対象外であるが、エステル加工油の場合、「危険物・第四類・動植物油類」に該当
する。

動粘度は、工業用潤滑油ISO粘度グレードによると食用ヘンプオイルは、
ISO VG 2(粘度が低い)〜ISO VG 3,200(粘度が高い)の中では、ISO VG22と32の
間で、エステル加工したヘンプオイルは、ISO VG 3と5の間である。
エステル加工した方が食用と比べて、粘度が低くさらさらとしているのだ。

流動点とは、オイルが流動しなくなる最初の温度より2.5℃高い温度のことで、
潤滑油の場合、一般に粘度の低いオイルは流動点も低く、高いオイルは流動点も
高くなる。エステル加工油の場合は、−5℃以下の環境では流動しにくくなるので
冬の極寒地域では使わない方がよい。


●植物由来の潤滑油の方が本来の性能はよい

石油由来の潤滑油が市場のほとんどを占めているが、ボートレース(競艇)の
エンジンオイルは、植物由来の菜種油が使われている。昔ながらの植物由来のも
のは、長時間使っていると潤滑性能が落ちていくので、第二次世界大戦後からは
石油に代替されていったが、一瞬のレースにおいては、本来性能の高い植物由来
が使われる。
 性能的には、植物由来のオイルは、石油由来のオイルに比べオイルの分子が小さく、
肉眼では確認できない金属面の凸凹への浸透率が高いが、そのオイルをエステル化
することにより、さらに分子を小さくし、低い粘度で強靭な皮膜を作り、高回転す
るベアリングなどの過酷な環境下で、大幅なエネルギーロスの減少を実現する。

通常の潤滑油は流体として金属同士の直接摩擦を防ぐために粘度を高くして
油膜を形成しているが、粘度の高さが浸透率の低減、回転率の低減、エネルギーロス
につながる。さらに、高負荷(高速回転時)の条件下においては流体としての粘度
だけでは油膜を持続する事は出来なくなって、油膜切れを起こし、金属面と金属面が
直接摩擦する。

液体による潤滑と気体による潤滑の”さかいめ”である境界潤滑の領域において、
エステルオイルは、通常のオイルに比べ粘度が低く金属面へ分子レベルで浸透する。
さらに金属面へ電気的に吸着分子膜(薄く強い油膜)
を吸着するので、粘度のみで油膜を形成している通常のオイルが困難とする境界潤滑
領域でも大幅に摩擦を低減させる。
このためエステルオイルを使用している製品は、性能をフルに引き出すことが出来
るのだ。

しかも、製品化されたヘンプ潤滑油は、酸化防止剤を除いて100%ヘンプオイルから
つくられている。植物由来なので微生物によって容易に分解できる生分解性を兼ね
備えており、きわめて環境負荷の低い潤滑油であることがいえる。きちんと生分解
性度の試験をして申請すれば、ヘンプ商品初となる日本環境協会認定のエコマーク
が付けられる商品なのだ。

FAMILY PRODUCTSの開発したヘンプ潤滑油


●釣りのリール、BMX、自転車、スケートボードにヘンプ潤滑油!

FAMILY PRODUCTSの開発したヘンプ潤滑油の商品名「Modeeloil」は、釣りのリール、
BMX、自転車、スケートボードの4つの用途に使う商品として販売されている。
 アウトドア分野に強いところを生かして、釣りのリールオイルにまで用途を広げ
ている。いくつかの釣具店に行けば、この製品を購入することができる。

内容量 : 20ml、価格 : \1,680 で販売され、パッケージには原料のヘンプ種子が
4粒ついているのがとてもクールでかっこいい。

この会社では、今後、ヘンプ潤滑油だけでなく、自転車のパーツやグリースも
ヘンプからつくっていく予定である。ヘンプから採った種子オイルは、食用、化粧用、
バイオディーゼル燃料だけでなく、潤滑油にもなる。
 ヘンプという素材を使って、自分のできることを自分でできる範囲で実践したよい
例である。
 
ヘンプ潤滑油「Modeeloil」のサイト
http://www.modeeloil.com/






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