ふぁーみんぐ通信06年9月号
     フランス・ヘンプ産業視察ツアー〜美味しいワインと麻の旅〜


自給率130%の農業国フランスの広大な農地

●知られざるヘンプ産業の先進地フランスへ!


2005年10月にヘンプ加工会社のLCDAのピエール・ボロック氏を日本に招いて
東京、北海道、京都の3箇所でEUのヘンプ産業についての講演ツアーを実施
したのが縁で、今回のフランスの旅となった。
日本からの参加者14名で、北海道の麻プロジェクトの6名を中心に、長野、
岐阜、福岡などからも参加があり、多彩なメンバーで行ってきた。これに
現地コーディネーターのピエール氏と通訳者と現地運転手を加えて17名。

前回のドイツツアーに行った人は8名もいて、かなりヘンプについては専門
性の高い(マニア!!)な人々であった。個人的には海外に学び、日本の
ヘンプ産業をどうするのか?について議論できる環境になったことがとても
素敵な世界であった。

フランスは、第二次世界大戦後、ヨーロッパ諸国で唯一、栽培を禁止しなか
った国で、主に葉巻たばこの巻紙の用途として栽培を続けてきた国なのである。
その紙の需要をベースにして、建材やプラスチックなどの新しい用途の開発を世
界に先駆けて実施しているのだ。それを今回はたっぷりと堪能した。
堪能したのはワインだけだという噂も(笑)。

 栽培用種子を乾燥している様子

●育種の歴史は世界一!


フランス唯一の産業用麻種子育種・販売会社のCCPSCというところを訪問した。
常勤14名、パート4名で年間の売上高が250万ユーロ(3億7500万円)600トンの
栽培用の種子販売する。ここの事業内容は、

1)種子選抜・育種  FNPCが統括
2)種子の製造と販売 協同組合方式で100名の種子生産農家
3)ロビー活動 EU及びフランスの国レベルで実施
4)THCの管理

の4つを行い、ヘンプは、京都議定書に合致した自然素材であり、
ヘンプ産業を育てていくのは長期的な展開として捉えている会社であった。
1965年から活動を開始し、THC成分の低い産業用麻の品種の開発に力を入れ、
ここからフランスの麻農家のための栽培用の種子も販売している。
フランスの麻農家は、翌年に自分たちの畑で取れた種子を蒔くことは
禁止されており、このCCPSCから購入しなければならない。

フランス政府がこのCCPSCにヘンプの種子管理の権限を委託しており、
ここの種子なら栽培してよいことになっている。またここの栽培品種の発芽率が
93%以上という高品質であり、農家も用途や栽培地によって9種類の品種が選べる
ようにしているという。

 ヘンプの栽培用種子を生産農家(左)

●EUのヘンプの栽培状況 

EUには、ヘンプという繊維作物に対する規定があり、基本的にEU加盟国
はその規定に従わなければならない。最近は2004年に改定。昔からある
規定も有効だが、次の大きく3つの規定がある。

1)種子は、フランスと欧州で認可された品種の種子を使わなければならない
  40種類ぐらいの品種リストがあり、毎年更新される。
2)許可される栽培地でしか栽培できない
  許可といっても地方農政局への届出制である。
  →日本は、都道府県の医務・薬務課での許可制で管轄が農業関連ではない!
3)EUの農業政策に従うこと
  例えば加工工場が、欧州委員会から認可された工場でなければならないこと
   LCDAは、欧州委員会から認可されている。

EUで見られるTHC濃度の違い
 EUで産業用に栽培されている品種は、0.2%以下。
 マリファナ用でモロッコから来ているものは、3%
 インド・ネパール産のものは、3〜7%
 オランダで品種改良されたものは、15〜16%

かつて、フランスでは帆船のロープや帆のために1800年代は農業機械が発達していな
かったにもかかわらず18万haの栽培面積を誇っていたが、その需要の減少とともにヘ
ンプ栽培は細々としたものになっている。

産業用に栽培されているヘンプは、EU全体で18000ha。フランスで9130ha
フランス国内では、 
 SWMグループ    2500ha
 INTEAVALグループ 2200ha
 LCDA     4980ha

ヘンプを加工すると種子を除いた藁束100%(繊維とオガラは分離していない)とすると
繊維    35% タバコの巻紙、断熱材、自動車用不織布マット   
オガラ   45% 競争馬の敷き藁、石灰混合の建材、農業用マルチ
ダスト(粉)20% 猫トイレのペレット、コンポスト資材
 ※%:LCDAでの平均実績値。他の工場では比率が異なる。
種子は、鳥の餌、魚の釣りの餌、食用油、化粧用油。

 LCDAの事務所(ヘンプ建材使用)

●最も大きいヘンプ農業生産・加工会社−LCDA

ヘンプは農業的にエコな作物であり、フランスでは4月に種を蒔き、8月に開花し、
9月に種子と茎(藁束)を収穫する。LCDAでは、繊維とオガラを剥がれやすくする
処理(レッティング)をしていない。まず、種子のついた穂先をカットして収穫し、
そのあとしたの茎をカットして、畑で10日間乾燥させた後にベールにして収穫。
1ベイルで400kgの重さがある。25ベイルを集めてトラックで輸送する。

なぜレッティングしないのか?
 オガラを馬の敷き藁に使うのに品質のよいものを提供するため、 
 レッティングをすると黒カビがでてきて、馬の敷き藁の品質が低下する。
 このやり方をしているのはLCDAだけ。
 他のヘンプ加工会社は、畑で14日〜21日かけて、レッティングをしている。

LCDAの歴史は、1973年から農家の協同組合として設立。株主はヘンプ生産農家
今では、320名の農家を組織している。株主になる期間は、5年契約となっている。
LCDAの運営のために45名の常勤職員がいる。売上高は2005年で約18億円。

ここ5年間の平均で38000トンの収穫量から加工して平均で繊維を13790トン、
オガラを16078トンを生産。その売上高の割合は、繊維42%、オガラ28%、ダスト2% 
種子18%、60%は海外に輸出。40%はフランス国内に販売

繊維は、巻きたばこの需要が少なくなってきているので、ティーパックや再生紙の
強化材として新しいマーケットを開拓中。また強化プラスチック用の繊維や不織布
の市場も開拓中。

オガラは、馬の敷き藁以外には、ヘンプクリートの建材として市場開拓中。
壁材、天井の断熱材、床材、左官材として使う。農業用マルチは、ブドウ畑の機械の
通り道の材料で、5cmの厚さに敷き詰めるものである。従来は樹皮を使っていたが、
ブドウ畑は傾斜があり、雨の浸食を受けやすく、それを防ぐために保水性の高い
オガラが非常に機能がよく、この分野の将来性は高いという。

 LCDAに次々に運ばれてくるヘンプの藁束

●麻農家で収穫機械を見学!

さて、前回のドイツツアーでは見ることができなかった収穫風景をついに見学できた!。
雨だったら作業をしない予定だったので非常にラッキーであった。

見学した畑は、LCDAに加入している農家ルナールさん。
耕地面積290haを誇る大きな農家で、ヘンプの作付けは10数haという。
ヘンプの収益は麦やトウモロコシと同じで、農薬なしで、雑草や虫にも強く栽培管
理に手間がかからないのがよいという。輪作で栽培しており、毎年同じ畑にヘンプ
を植え続けることはない。収穫機械は、小麦などでよく使われるものを使っている。

はじめに、穂先を60cmにカットして種子を収穫し、その後、残りの茎をカットして
地面に10日間ほど干しておく。それから、藁束(ベイル)にして収穫。
品種は種子と藁を同時に収穫できる雌雄同株種を使っている。

今年は日照りと長雨という極端な気候で、栽培がうまくいかなかったという。
たしかに目の前のヘンプは1m50cmしかなくて低かった。通常なら2m50cm以上はあるという。

 ヘンプを収穫する様子


●ヘンプ・プラスチックの会社訪問!

ワインの美味しいブルゴーニュ地方のディジョンに拠点を置くAFT社は、世界で
唯一の商業生産し、価格競争力のある天然繊維強化プラスチック樹脂製造メーカー
である。2001年にLCDAなどの農業生産グループや自動車内装会社などの出資を受けて
有限会社として設立。

射出成形、押出成形ができるペレット樹脂を製造と不織布(麻90%、PP10%)を製造
している。これは熱プレスをかけて自動車の内装材に使われている。

繊維のセルロースと合成ポリマーとの相性は悪く、そのまま混ぜるとうまくいかない
が、AFT独自技術である熱加工、機械加工をするとミクロファイバーのひげが出て、
アンカー効果があり、それがセルロースとポリマーを混ざりやすく強度があがるよう
に開発したという。

ヘンプ繊維をプラスチック強化材として使う場合の利点は、
・再生可能な資源
・農薬を使わずや化学肥料が少ないエコロジーな資源
・一般的に使われている強化材であるガラス繊維より3分の1の低コスト
・ヘンプ繊維は低密度のため軽い素材ができる
・燃やしてサーマルリサイクルができる。
・毒性がない
・吸音性があり、音響効果がある
・強化材として使える

ヘンプ繊維を4mmにカットした繊維とプラスチックを混合して樹脂ができる。
プラスチック樹脂に30%のヘンプ繊維を混合したものは、はじめは曲げ弾性率
が低かったが、研究開発によって4倍の向上した。

ヘンプ繊維はセルロースでできており、250度以下で加工できる樹脂、PP、ABS、
PVC、HDPEに限られている。ヘンプ繊維以外にもサイザル麻、ジュート麻、フラックス
(亜麻)、ケナフ、それから木質繊維のものも開発している。

 左がヘンプ繊維強化、右がガラス繊維強化のファン

用途開発
・ダッシュボード
・ギア
・ウイング 蜂の巣状のヘンプ繊維強化プラスチックを採用
・エンジンカバー エンジン部は150度以上に耐えられなければならないのでPPは使わない
         しかし、ヘンプ繊維強化プラスチックではPPとの混合タイプで155℃
         まで耐えられる
・ファン ガラス繊維強化プラスチックが使われているが、成形時に収縮の問題があり、
     ウエイトをつけて、バランスをとって製品化している。
     ヘンプ繊維強化プラスチックだと収縮がなく、余計な加工が省け、今までのもの
     よりも30%のコストダウンにできた。
・ファンの枠・ボディ材 
・運転席の左足のステップ
 ブレーキをかけるときに足を踏ん張るため、それなりの強度が必要となる。
 従来のものは、割れていたが、ヘンプ繊維強化プラスチックものは衝撃テストでも問題なかった。
・サンルーフ部品
・バッテリー枠
・ベルトキャッシュ

→自動車部品に関しては、プジョーというブランドの車に採用されている。

・樹脂サッシ PVCとヘンプ繊維
 これは日本のアインという木粉プラスチック成形会社のものよりも薄くできるのが特徴
・植木鉢、皿は市場開発のためにサンプルで製造
・食用パレット これが一番販売実績がある

製造エネルギーは、1kg当たり麻繊維3.4MJ、ガラス48.3MJ 非常に省エネになる。
重さは、PP+ガラス繊維よりもヘンプ繊維の方が15%軽くなる。

この天然繊維強化プラスチックの分野はまだまだ未発達の分野であり、研究開発を常に
している。年間5〜6のプロジェクトを推進している。2001年にスタートして06年まで
実施している大きなプロジェクトがあり、これは、ヘンプの品種、気候、土壌、栽培方法、
繊維処理方法がどのように強化材としてプラスチックに使った場合の影響を研究したもの
であった。安定した製品をつくるために品種まで選定したほうがよいことがわかった。
また、耐衝撃性をあげるために3%まで添加剤を使う研究もしている。

バイオマス由来のプラスチックは、自動車部品に使う場合、物理的な性能が劣るので
ポリ乳酸などのものはまだ実施していない。計画はあるがまだやっていないという。

日本では、この樹脂と技術の代理店が、今回のフランスツアーをコーディネートした
(有)ジャパンエコロジープロダクションとなっている。

 ヘンプクリートを壁・天井・床につかった家

●世界第一の石灰の生産会社がヘンプ建材を開発

今回訪問したところは、ロイストグループの中で建材技術のノウハウを提供している
会社であった。主にモルタル、コンクリートの製造技術に強いという。
ロイストグループは、1889年創業、世界で1440万トンを製造。7200名の社員で15カ国
に拠点を持つ。石灰は、鉄鋼、環境、化学工業、建材、土木、パルプなどの様々な分野
で使われる。

この講義中は、石灰に気硬性と水硬性の2種類があり、気硬性石灰と麻チップ(オガラ)
が相性がよいという話を聞いていたのだが、この気硬性の意味がいまいちつかめず、
消化不良であった。

後で調べてみると、セメントの硬化する雰囲気の状態で分類すると「気硬性」「水硬性」
という定義がでてきた。セメントといえば今日ではポルトランドセメントに代表さ
れる「水硬性」セメントのことであるが、もともとはcementing(固まる、固まるもの)
が語源となっている。この広義のセメントの中で石灰を位置づけてみると、

気硬性:空気中でのみ固まる
    例)石灰、石こう、ドロマイトプラスター
水硬性:空気中でも水中でも硬化する
    例)水硬性石灰、ローマンセメント、ポルトランドセメント、高炉セメント

それで、石灰には、石灰サイクルというのがある。

石灰岩 CaCO3 炭酸カルシウム

  焼成→CO2 ↑揮発

生石灰 CaO 酸化カルシウム

    消化(水和)←H2O 加水

消石灰 Ca(OH)2 水酸化カルシウム

 ←空気中のCO2と反応

CaCO3 石灰石の成分である炭酸カルシウムに戻る
 
消石灰に川砂を混ぜて、石灰モルタルになり、ヨーロッパで伝統的に使われてきた壁材になる。
ちなみに日本の漆喰は、消石灰にスサ(麻や藁)と糊(フノリという海藻の糊)を
混ぜたものである。

ヘンプのオガラを使った接合材の開発
・生石灰
・セメント系
・NHL(天然水硬性石灰)
・消石灰 
の4種類を研究し、その組み合わせも研究した。

そしてこれらの研究を元に開発されたのが、消石灰をベースにしたトラディショ
ナルPF70 という製品である。その特徴は、
NHLに比べて、水に対する反応率が低い
圧力強度が強い
透過性が大きい(空気や湿気がたくさん通る)
凍結実験ではNHLは2回でダメになったが、凍結と氷解を20回繰り返しても
性能になんら影響がない。
熱伝導率0.132

トラディショナルPF70などのヘンプ建材をヘンプとコンクリートを合わせた造語である
ヘンプクリートと呼び、これらは、壁、床、屋根、左官材として使う。

壁材として使っていたヘンプブロックは、断熱性、吸音性、耐震性、軽量性、耐火性に
すぐれた建材になる。これらの性能はオガラの多孔質なところを生かした大きなメリット
となっている。オガラを使った建材の将来性は非常に有望であるとのことである。

 ヘンプ畑(左)、ブドウ畑(左)


●まとめ〜ヘンプ産業の乗り越えるべき壁を学んだ!


フランスでは、ITC(麻技術研究所)を産官学連携でつくり、各分野が連携して市場開発
やロビー活動をスムーズにいくような体制が2004年からできたという。

ITCのネットワーク
・種子選択・栽培 FNPC
・栽培用種子製造 CCPSC
・栽培と収穫と加工 LCDA+株主
・市場開発 AFT

AFTのヘンプ繊維強化プラスチックは自動車分野に採用されることが期待されており、
今後は今までの8倍もの製造能力をもつ工場をつくる予定である。特に栽培種子の育種
と管理体制が整っており、それが国が支援しているのは、フランスのヘンプ栽培の歴史
の長さに由来していると感じた。これは日本で真似ができないかもしれないが、具体例
を知るよい機会であった。

また、長年ヘンプの加工を手がけてきたLCDAは新しい市場開拓が生き残るための使命と
なっている。EUのヘンプ栽培や加工に関する補助金も2007年の作付までとなり、補助金
なしでの自立が求められている。また、同じ繊維作物で、ヘンプの10倍規模であるフラッ
クス(亜麻)の市場に価格や需要面で大きく左右されてしまう現状もある。

ヘンプ産業の難しさは、ズバリ!!繊維の市場とオガラの市場を両立させることであった。
繊維だけ売れても、オガラが残り、オガラだけ売れても繊維が残る。。。この両方と
種子を合わせて、うまく市場開拓を進めていくことであった。ヨーロッパで最大規模を
誇るLCDAですら、規模が大きい分、新しいマーケットの開拓はなかなか容易ではない
感じであったが、そこに希望と可能性を見出していた。

日本でどのような新しい市場が開拓できるかの見極めが非常に大事であることを学んだ
感じがする。また、多くの会社が地球環境問題などの観点からかなり長期的なスパンで
この事業に取り組んでいる姿勢も垣間見れた。

持続可能な社会を築くために、持続可能な経済活動する。。。
この当たり前のことを当たり前にするのが難しいんだよなーと毎食ワインを飲みながら
そんなことを考えていた。
ぶどう畑やワインセラーを見て、同じ農業分野であるブドウとヘンプを比較すると
ワイン産業の成熟度に比べて、ヘンプ産業がまだまだ発展途上であることが実感できた。

ブルゴーニュ・ワインの美味しさに酔い、
ヘンプの市場開拓中というほろ苦さを味わった旅であった。

 ワイン太りしている筆者(右)、最終日のセーヌ川ディナークルーズにて

以上

※詳しいレポートは、06年11月25日発売予定のヘンプ産業視察ツアーレポート・フランス編を
  ご購入ください。






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