ふぁーみんぐ通信06年11月号
         大麻の「麻」と麻薬の「麻」〜似て非なる文字の巻〜


●麻といういう文字の由来 

 麻という字は广に林であるが林は「ハヤシ、リン」の意味ではなく、アサの茎から右に左にと、皮をはぎとっている姿を2つ並べて書いたものである。刈りとった麻を水にさらしてもみほぐし、こすって繊維を取りだすのであるが、おそらく小屋の片隅で作業したところから小屋を意味する广をつけたとされる。同系語の「摩」「磨」などもこする、もむなどから派生した文字である。 (1)

 よく混同されるが、大麻の「麻」の字と麻薬の「麻」の字は本来別の文字である。「麻」は古来から植物の「アサ」を意味する。他方、戦前までは麻薬は「痲藥」と書いていた。「痲」は痺れる、麻痺(この語も旧来は「痲痺」)する、という意味で、植物の「麻」とは似て非なる文字である。  

 戦後、1949(昭和24)年に定められた「当用漢字表」に「痲」の字が含まれなかったため、字形のよく似ている「麻」の字があてられたのである。(2)


●麻酔の由来は「麻木不仁」

 ごく普通の日本人の感覚では、大麻=麻薬となっているため、大麻のマリファナ効果が麻酔のようなものだから麻酔の「麻」にも使われていて当然!と思われている。なんら「麻」という文字が使われていても違和感がない話になっている。しかし、歴史と科学的事実は全く異なる解釈を与える。

 麻酔という字は、解体新書をつくった杉田玄白の孫の杉田成卿(せいけい)が1950年に無痛状態になることを麻酔と命名したのである。このときの麻は、古代中国の名医華佗の「麻沸散」の「麻」に由来する。
これは、古代中国の代表的な植物の大麻草は、動物と違って感覚がないことに起源をもち、麻や木のように感覚がないことを意味する「麻木不仁」から名づけている。(3)
 
 古代中国の大麻草は、繊維型の品種であり、マリファナ効果のある薬用型の品種でないことは、九州大学名誉教授の西岡五夫が明らかにしている。また、薬用型の品種であってもマリファナ成分であるTHCには、麻酔作用はないことも明らかになっている。よって、大麻=麻酔作用ではなく、麻木不仁→麻沸散→無痛状態→麻酔という順序で用語開発が行われたのだ。(3)

 麻酔の意味で使われた「麻」は、植物の麻とは異なるため、前述の戦前において「痲」の字が使われた。痲は、痺れる、麻痺(この語も旧来は「痲痺」)という意味であった。

 ちなみに麻薬の語源は、第二アヘン条約(1925年)締結後の国内法を制定するときに、痲酔薬からヒントを得たNarcoticの訳を痲藥とし、1930年にできたのが麻薬取締規則である。 (2) 

 それから、大麻に「大」という文字がついているのは、胡麻【ごま】と区別するためである。古代中国で、胡麻は大宛国【だい/えん/こく】(中国の西方中央アジアの古代国家)すなわち胡(西方諸外国の総称)から、油の採れる麻の種子を手に入れ栽培するようになり、中国在来の麻と区別するために胡から来た麻(胡麻)と名づけた。そして、大きく成長する在来の麻を大麻としたのである。(4)


●漢字の由来は面白い

 現代科学では、大麻草には、繊維型と薬用型があるということが一般常識になっているが、漢字の由来にも繊維型と薬用型があったことが大きな発見である。

繊維型 小屋の中で繊維を取り出す姿が由来
薬用型 「麻木不仁」から感覚がないことを意味する言葉へと派生

 麻薬、麻酔という単語をみるとき、麻と人のつきあう歴史の長さがいろんな意味へと派生したといえよう。それだけ「麻」という植物は身近な存在だったといえる。

(1)広辞苑第5版より
(2)麻薬の科学より
(3)麻酔科学のルーツ
(4)真柳 誠(茨城大学/北里研究所東洋医学総合研究所)より


以上





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