ふぁーみんぐ通信07年5月号
          ヘンプ産業の国際的発展 〜EIHAの国際会議2006より〜


世界的な原料不足により、ヘンプ素材への関心が世界的に高まっているという事が、第4回ヨーロッパ産業用ヘンプ協会(EIHA)の国際協議会で発表されました。ヘンプ繊維により補強されたプラスチックは2008年中国で行われるオリンピックでも使われます。

この会議は、2006年11月21,22日、ドイツ、Rhineland、Hurthで、5大陸23カ国から90名ものヘンプ専門家が集まり、国際的なヘンプ産業の現状とこれからの動向について、意見が交わされた。会議の内でも特に、中国でのヘンプの多面的な産業的応用や木材産業のボード原料代替としてのヘンプへの関心が目立った。


●中国:多くのヘンプ利用

Yunnan Industrial Hemp Inc. (云南工?大麻股?有限公司) (中国、昆明市) (www.yunnanhemp.com)のErik Shi氏は、中国でのヘンプ産業が大幅な成長速度を見せている事を発表した。ヘンプ種子やヘンプオイルがその含む多飽和脂肪酸により、食品産業において売り上げがよく、また、高い有用性を持つヘンプのたんぱく質により、特に北アメリカでは既に行われている様に、スポーツ選手への活力食品として食事に出されています。ヘンプ繊維は紙や自動車産業において使われていますし(下記参照)、またプラスチックの補強材として、窓枠、床などの内装、外装に使われています。このような製品は2008年の北京オリンピックでも幅広く使われることになるでしょう。更に、ヘンプの茎の中身部分は軽量板として加工され、“agroboards”(“農業板”の意)として、南アフリカなどに輸出されています。


●北アメリカ:ヘンプ種子とヘンプオイルの成功談

北アメリカではこれまでに、ヘンプは主に食品用として栽培されてきました。カナダのヘンプ産業は何年もの栽培で好結果をだしており、2006年に初めて約20,000ヘクタール(約200ku)もの種子用としての栽培に成功し、その多くがアメリカの食品産業に渡りました。カナダの農場経営者にとって有り難い事に、アメリカは産業用ヘンプの栽培が未だに禁止されている、世界中でも数少ない国の一つなのです。更に現在カナダでは、生分解プラスチックの効果拡大の為に、ヘンプ繊維をポリ乳酸(PLA)の補強材として使うなど、ヘンプ繊維(茎の外皮部分)、茎の心材部分も有効活用する為の企画が進められています。また、木材不足により新しい原材料を求めている合板ボード産業からも大きな関心が寄せられており、更に大きなヘンプ事業も明確に検討されています。

Hempro International (ドイツ、デュッセルドルフ) (www.hempro.com)のDaniel Kruse氏は、ヘンプ食品産業が国際的に発展するのに十分有能であるとの概観を示しました。北アメリカと中国に比べ、ヨーロッパは明らかにまだ遅れを取っていますが、ヨーロッパ市場でも、外皮を除いたヘンプ種子やヘンプオイルへの需要は高まっています。イギリスでは、ヘンプのシリアルバーやヘンプオイルがスーパーマーケットにも並ぶようになりました。ドイツではまず、インターネットや農場の店頭などでの流通が始まりました。


●ヨーロッパ:ヘンプテキスタイル事業、断熱材と自動車産業

ヨーロッパでは、現在たったの16.000ヘクタール(160ku)しか栽培されていませんが、多くの活動が行われていることから、痩せた土地の発展が期待されています。例えば、スウェーデン農業科学大学 (スウェーデン、Alnarp) (www.jbt.slu.se)のBengt Svennerstedt氏は、スウェーデンの会社IKEA、VolvoやSaabなどが、ヘンプ繊維(茎の外皮部分)と茎中身部分の利用に関心を寄せている事を発表しました。

特に秀でた成長を見せているのがチェコ共和国で、近年改めてヘンプの栽培が見出され、現在では1,000ヘクタール(10ku)以上に達しています。そして中でもとりわけ、CANABIA (チェコ共和国、Hodonin) ( www.canabia.cz)の社長Jaroslav Skoumal氏が会議で発表した収穫と繊維分離の為の新しい技術開発は興味深いものです。


●ヘンプテキスタイル

イタリアでは、Gruppo Fibranova company (イタリア、Perignano) (www.gruppofibranova.it)が、イタリアのテキスタイル産業に対して、ヘンプ繊維を改めて導入する為の多額な投資を企画しています。Gruppo Fibranovaの社長でもあり、EIHAの理事会委員でもあるCesare Tofani氏は、ヘンプ繊維は、バイオ酸素(bio-degumming)と湿紡績によって分離され、高品質の長繊維になるだろう(相場2.5〜3ユーロ/kg)と発表しました。同時に発生する短繊維は、プラスチックの補強材などのような技術的応用利用されるよう意図されています。

更に他にも、ヘンプをテキスタイル産業に回復させる為の企画も進んでいます。“Euregio Rhein-Waal“では、ドイツ−オランダの企画チームが、栽培からヘンプジーンズまでのテキスタイル付加価値について何年にも渡り調査しています。ヘンプの茎を破裂させるヘンプ繊維の分離方法は、80年代には既にドイツReutlingenのAIF (www.iaf.fh-reutlingen.de)で開発されていました。事業統率者である、Plant Research International (オランダ, Wageningen) (www.pri.wur.nl)のMarcel Toonen氏は、初めてのヘンプジーンズが他のブランドジーンズよりわずかに高いだけの価格帯で、来年(2007年)にはドイツ、オランダの市場にまわると確信しています。アジアからの参加者も、綿テキスタイルの代わりとしてヘンプテキスタイルの展開を始めるところだと示しました。


●断熱材と自動車産業

ドイツのヘンプ先駆者でありEIHAの理事会委員のBernd Frank氏は、彼の会社であるBadische Naturfaseraufbereitung (BaFa) (ドイツ、Malsch) (www.bafa-gmbh.de)を大々的に紹介しました。BaFaは、オランダの新しい栽培者から、Chamaeleon種は剥皮の容易な素晴らしい繊維で収穫が良いとの体験談を得ました。彼のヘンプ繊維(茎の外皮部分)の主な商機は断熱材と自動車産業で、ヘンプの茎の心材部分は主に馬の寝藁として使われ、種子の殆どは鳥類の飼育分野に渡っています。ドイツ、フランス、イギリスのエコロジー建築分野では、主に石灰結合されたヘンプの茎の心材部分が使われた建築材、断熱材、また繊維を使ったマットも、ますます使われるようになっています。

EIHA会長であり、nova-Institut (ドイツ、Hurth) (www.nova-institut.de)の社長Michael Carus氏と、天然繊維(樹脂)をプレスモールディング方法(型で圧縮して造形する方法)の世界的先頭に立つ機械工学会社R+S Technik GmbH (ドイツ、Offenbach) (www.rstechnik.de)のDirk Fischer氏は、ヘンプ繊維とその他天然繊維の自動車産業における利用についての概観を発表しました。Carus氏によると、2005年には19,000トンもの天然繊維が、ドイツ自動車製品の主にはプレスモールディングされるパーツ、またインジェクションモールディング(型に注入される造形方法)やプレスフローモールディング(型に流して圧縮する造形方法)されるパーツに使われました。

Fischer氏は天然繊維のプレスモールディング技術がどのようにしてドイツで発展し、世界的トップに立ったかを堂々と発表しました。近年、彼の会社はイラン、インド、中国に技術機関を送っており、新しい事業がまさに始まろうとしています。2006年12月からドイツ市場でも入手可能になった、中国の新しい中級リムジン“Brilliance”は、インテリアパーツの80%が天然繊維ベースによって実現され、新記録となりました。


●製紙産業

ヘンプコンサルタントのPierre Bouloc氏とFrancois Desanlis氏は、フランスにおけるヘンプの新しい利用方法についての開発活動と数多くの研究を発表しました。特に興味深いのは、費用のかかる剥皮段階という遠回りを避け、植物全体から高品質の紙を作り出すと意図している企画です。木材価格の上昇により、製紙産業はこの数十年の間で初めてヘンプに関心を示しています。この背景には、(木材パルプよりも)長い繊維により、ヘンプパルプが紙の改良回復に特に適している事があります。


●繊維分離方法

繊維の分離技術進歩を扱っている他の企画は、化合物と酵素の働きによる技術調査、また特に興味深いのは、湿ったヘンプのサイレージ(地下に貯蔵された物)から直接製品が製造できるという加工方法です。このような加工体系は、様々な建築製品向けとしてInstitut fur Agrartechnik (ATB) (ドイツ、ポツダム) (www.atb-potsdam.de)のRalf Pecenka氏が発表しました。分離技術向上の為には、何よりもまず、茎の外皮部分と中身部分を繋ぐ生物学上の接着剤となっている物質の詳細な知識が必要です。これに対し、リーズ大学 (University of Leeds) (www.leeds.ac.uk)では基礎的研究をしており、Tony Blake氏によって発表されました。


●軽量板(インシュレーションボード)

ヘンプに対する経済的関心は製紙産業に限られた事ではありません。木材の高価格と入手可能性の低下、木材の要する労力面によって、木材産業もまた損害を受けていることから、代わりとなる原料が求められています。カナダとヨーロッパの異なるいくつもの会社が、この数十年の間で初めて、軽量板の為の大規模なヘンプ栽培に対して明確な関心を示しています。Kosche (ドイツ、Much) (www.kosche.de)が始めて、特にトラックやキャンピングカー、造船分野に適しているヘンプ軽量板を、去年から提供しています。


●新開発

ドイツのFaserinstitut Bremen (FIBRE) (www.faserinstitut.de)のJorg Mussig氏は、理論と実践という根本的な組み合わせで、天然繊維により補強されたバイオプラスチックを紹介しました。特に、市場でも入手可能となっているバイオプラスチックPLAは、ヘンプや他の天然繊維によって更にその特性を改良する事が出来るのと同時に、価格面でも魅力があると発表しました。Mussig氏は自身の試みと共に、例として日本のケナフにより補強されたPLAの手ごろな住宅建設や、ドイツのヘンプ繊維PLAの宝石箱などを示しました。

M-Base (ドイツ、Aachen) (www.m-base.de)のFrank Otrember氏は、滑石やガラス繊維で補強したPPやPC/ABSと比べて、インジェクションモールディング用に粒状にされた天然繊維のポリプロピレンの特性について包括的な概観を発表しました。Otremba氏は、圧力と気温の厳しい状態においての高い形状安定性など、“多くの興味深い特性がある”と推論しました。
NPSP Composieten BV (オランダ、Haarlem) (www.npsp.nl)は、RTM技術 (Resin Transfer Moulding) (樹脂変形モールディング技術)を使った様々な製品を製造しています。Willem Bottger社長は、天然繊維によって補強された不織布をNabascoと呼んでいます。不織布はドイツからのもので、繊維としてはヘンプとフラックス(亜麻)が使われています。応用実例としては、マッシュルーム型をした自転車用通路の案内杭や、レーダー装置による住宅建設(ガラス繊維はレーダー光線を妨げます)、ボート、家具や拡声器などです。最後にNPSPは、壁材の要素として埋めこまれた繊維は、ヘンプの長い繊維により補強になるだけでなく、立体的なデザイン効果もあると提案しました。


●原料の交代と競合

nova-Institut (ドイツ、Hurth) (www.nova-institut.de)のMichael Carus氏は、ヘンプへの高まる関心の背景を明らかにしました。化石燃料から再生可能資源への変更(原料の交代)は、バイオマス(燃料として使われる動植物)や特に木材の不足と価格の上昇へと導く事になります。したがって、プラスチックや合成物、自動車、家具、建築材、紙や布など、幅広い分野の産業にとって、ヘンプのような成長が早く収穫量の多い、そして機械的に強い植物はとても興味深いものとなるのです。
nova-Institutの経済学者Sven Ortmannは、国際市場でここ何年かの間における石油とプラスチックの価格成長と、またそれと競り合う天然繊維について発表しました。かなりの価格上昇が各地でみられるでしょう。フラックスやヘンプなどヨーロッパの天然繊維は益々強くなってきていますが、しかしあと5年は、確実にまだEUの補助金に頼る事になるでしょう。


●京都議定書

フランスSavigny-sur-OrgeのMireille Portmann氏は、京都議定書に関してヘンプがどのように温室効果の原因となっているガスの減少に貢献できるかを示しました。定められた目標は、2012年までに温室効果の原因となるガスの排出を世界的に5.2%減少させることです。南アフリカ共和国で行われている”Grow your house” (“家を栽培する”)という企画は、建築材から断熱材まで、ほとんど全てがヘンプで建てられる住宅の企画で、これは地域住民にとって持続可能な開発を可能にするものであり、同時にCO2の排出を90%低減できるという、特に興味をかきたてるものです。

終わりに

今回の第4回EIHA協議会は、前回までとは大分雰囲気が違うものとなりました。木材の不足と価格上昇による原料市場の交代を感じました。未だに言質を与えない状況ではあるものの、1990年代以降今初めて、様々な分野からの多くの産業用ヘンプに対する真の関心、現実的な需要があります。また、ヘンプに対する新しい関心も感じられました。これは多数の新しい事業や投資、企画アイディアや製品、そして新しい参加者を通して、更にはっきりとしてくるでしょう。


<ヨーロッパ産業用ヘンプ協会(EIHA)とは?>

EIHAは2005年末に正式に創立されましたが、今では既に30もの会員がいます。ほとんどの会員がヨーロッパからの参加ですが、それに加えてオーストラリア、カナダ、中国の会社は、現地でまだ国際的な協会が無い為、EIHAへの参加があります。会議内容のCDは作られなくなったので、今後入手する事はもう出来ませんが、会員のみ、内部の大きなデータベースで多くの専門的な情報を得られるようになっています (年会費200?より) 。興味のある人には、ウェブサイトwww.eiha.orgで、会議の概観とヨーロッパのヘンプ産業についての最新データが全て閲覧できるようになっています。

著者、編集者:Michael Carus氏
(物理学者、nova-Institut GmbH 社長、ヨーロッパ産業用ヘンプ協会(EIHA) 会長、協議会幹事)

出典:nova-Institutより2007年1月16日発行プレスリリースより
翻訳:上田恭子(ロンドン在住)





各分野のレポートに戻る