ふぁーみんぐ通信09年4月号

EUの麻、それぞれの国の進展状況 〜EUでヘンプ産業が進むわけ〜



●EUの中の麻の位置づけ

EUで、ヘンプという農作物がどのように位置づけられているか?
それは、EUの公式ホームページから知ることができる。

 EUのホームページより

EUの法体系では、32の政策分野ごとに体系化されている。
Hempは、Agriculture分野にあり、その中には、Flax and Hemp という項目がある。その項目では、繊維のために栽培されるフラックス(亜麻)とヘンプ(大麻草)のヨーロッパ共同市場機構(CMO)の執行規則として、Council Regulation (EC)No 1673/2000 of 17 July 2000に基づく、補助金スキームが記載されている。
 ヘンプは、1970年代からEUの補助金の制度の一つとして存在している。


EUの法体系
法令名 相当する国内法
対象者 法的拘束力 直接的効力
規則 一般になし 加盟国、私人
すべての点において有り 有り
指令 一般になし 加盟国
その目的に関してのみ有り 加盟国が置き換えを怠っており、規定が無条件かつ明確に定められている場合は有り。
決定
行政規則
主として私人、加盟国、 対象者に対してのみ有り
有り
勧告
見解
行政措置
加盟国、私人 なし なし

EUの法体系では、この補助金の制度は、「規則」に位置づけられている。規則とは、欧州連合(EU)の加盟国の法令を統一するために制定され、その国に直接の効力を持ち、個々の国に効力をもたらすための国内法を必要としない。すべての国内法に優先される。規則は次の2つに区分される

・基本規則:ある事項を統制する本質的なルールを確立し、通常議会によって採択
・執行規則:技術的にこれらの原則を整理し、EC条約の条約211条を基礎にして委員会と議会によって採択。

ヘンプの規則の中身を見ると、補助金の範囲と枠組みが具体的に書いてある。

<補助金の範囲>
関連する生産物は、フラックスとヘンプの原料又は処理されたもので、紡がれたものが入らないが、フラックスとヘンプのくず(木質部及び廃棄物)は入る。
?
<補助金スキーム(枠組み)>
繊維を含むフラックスとヘンプの藁を加工処理するための補助は、農業者が、藁の購買・販売の契約を結ぶか、藁を処理するのに引き受けて得られた繊維の量に基づいて認可された一次加工業者に交付される。
 また、補助金は、農業者が加工処理の間、藁の所有権を保有し、得られた繊維を市場に並べたことを立証して、支払われる。

<委員会>
加盟国の代表でつくられた天然繊維管理委員会によって支援される。

 
ヘンプの藁(繊維とオガラが分離されていない状態)


●それで、実際の補助金の交付金額は?

長繊維  1トン 160ユーロ(07-08)→200ユーロ(08-09) 
短繊維  1トン  90ユーロ(07-08)

最大の保証された量は、長繊維フラックスの年間市場当り80878トンで、短繊維フラックスとヘンプのの年間市場当り146296トンである。これらの量は、加盟国の中で分配される。

2008年〜09年の市場から、長繊維フラックスのための最大保証された量だけが継続される。どんな追加生産も補助金の不適格となる。繊維の生産と加工処理が2つの異なった国で行われるところでは、得られた製品の量は、収穫が行われた加盟国の国家の保証された量で計算される。追加的な加工処理補助金は、オランダ、ベルギーとフランスの特定地域で、フラックスの生産地で許容されている。この補助金は、生産地域によって1ヘクタール当たり50または120ユーロである。

但し、分配があるため、実際には、ドイツでは1ha 310ユーロ(2008)となる。


●規則の変遷

規則(EEC)No.1308/70  亜麻、ヘンプ繊維生産者に補助金交付の最初の法令

規則(EEC)No.619/71 記事3(1)  品種リスト(実質的に0.3%未満品種)

規則(EEC)No.1164/89 品種リストとTHC測定の手順

規則(EC) No 1420/98 THC0.3%基準を明記

規則(EC)1672/2000  2001年度からの作付でTHC0.2%を超えない

規則EC No.2860/2000  品種リストとTHC測定の手順の標準化

70年代から頻繁にこの規則は変更している。ここにあげたものは代表的なものであるが、これ以外にもたくさんある。向精神作用のあるTHC濃度の基準は、従来から0.3%を2001年からは0.2%に変更している。また、品種リストも明確にされ、EU各国がヘンプを取扱できるような制度設計がされている。


●先進国の中でのヘンプ



これを見て、一目瞭然。EUではフラックスを栽培しているベルギー、面積が少ない国を除いて、
ほとんどの国で栽培されている。アイスランドでも栽培実験しているようである。


●ドイツの事例

1996年に栽培が解禁されて、主にベンツの自動車内装材に、軽量化のために使われている。内装材に関してはいろんなところで紹介しているので、ここでは省略。
(例:赤星栄志「ベンツ及びBMW等の自動車内装材向け麻繊維複合樹脂」月刊マテリアルステージ
   Vol.8 No.4 p72-75 2008)

また、断熱材に関しては、2003年から2008年まで自然系素材の断熱材を購入すると、価格の3分の1の国の補助制度があり、この制度が普及を後押ししている。

もちろん、ヘンプの断熱材がCO2の観点からエコであることはもちろんである。
どれぐらいかという数値が日本の代理店から公表されているので、それをご紹介。



緑のが大麻繊維断熱材「テルモハンフ」である。
植物の生長過程でCO2を吸収するのでそれをカウントすると マイナスとなる。他の石油系の断熱材やグラスウールなどの鉱物系と比較しても、かなり低い。



●イギリスの事例  ヘンプカーの開発??

EEDA(東イングランド開発機構)とERDF(欧州地域開発基金)から約4億円の支援で、5年間に渡るヘンプからの自動車向け部品の開発を作物イノベーションプロジェクト(InCrops)としてスタートしている 140課題のスキームが120の新しい低炭素製品と炭素の削減をもたらすサービスの開発を目指している。

イースト・アングリア大学、
ケンブリッジ大学植物科学研究所など東部地域の研究所の連携プロジェクト。

 ロータスエリーゼ エコカー仕様 ヘンプボディ使用


イギリスの家

小さい家のケース  
 総床面積52u 壁厚300mm
 麻壁49?使用(麻チップ4.9トン、石灰10.8トン)
 CO2固定 5.4トン
 熱性能:U-バリュー(イギリス基準)
 0.30W/uK

家の特徴:高断熱性、高吸音性、耐久性、調湿性、快適性、デザイン性、耐火性、
耐害虫性、CO2削減性、廃棄物少、長期的な経済性

公共事業工法に ヘンプハウスが採用

麻壁(ヘンプクリート吹き付け工法)は、CO2 削減効果と地場産ヘンプの有効利用が評価され、2008年4月にLABCシステム承認(地方公共団体建築法規承認)を取得し、イギリスすべての376の地方自治体の建築(公共事業)で使用が可能となった。
 これは、CAT(Center for Alternative Technology)の社会実験にも採用されたことが大きい。


出典:麻壁技術ノート


●スウェーデンの麻

1965年 最後の栽培が途絶える
1995年 研究機関の実験栽培許可が下りる

 ウルフさん

2000年 農家のウルフ・ハマーステンは、違法だった産業用ヘンプの栽培を毎年実践し、警察当局から没収され、刑事責任までも問われていたが、EU司法裁判所で、スウェーデン当局の主張(栽培は違法だ!)を退けて、ヘンプを植える 権利を得た(2003年判決後に栽培が適法に)

この判決がでたのは、上記で説明したEUの規則は、国内法より優先されたからである。

それから、このウルフさんは、2007年に南スウェーデンにある Laholm (ラホルム)市公認の環境賞を長年のヘンプの闘いが評価されて受賞している。
Resource: P。25-30 2008 International Conference on Flax and Other Bast Plants,
Weird & Strange News at allinthenews.com,11.29.2007


スウェーデン 2007年栽培解禁の理由

2007年1月にエネルギー目的のためヘンプ栽培が許可。現在、国内最大級の研究機関のルンド大学や農業省管轄の農業科学大学で、天然ガスの代替として、ヘンプの茎をメタン発酵させ、バイオガスを生産する研究がスタート。寒い地域で収量が高く(14トン/ha)生長も早いので、有望なエネルギー作物として注目している。

下記のデータを見る限り、サトウキビの次に総燃料が多いことがわかる。
さらなる研究成果が期待されるところである。



E. Kreuger et al. Biogas production from hemp ? evaluation of the effect of harvest time on methane yield(2007)



●EUを見て

EUの規則でヘンプが農業分野の一つとしてフラックス(亜麻)と同じ位置づけにあることが非常に重要であることがわかる。日本やアメリカでは、そのような法的な位置づけが全くないため、産業用については、何も政策や制度がない状態となっている。

研究も自動車からエネルギーまでバライティに富み、次世代産業の創出を期待した研究開発がおこなわれているていることも大きな特徴である。
これらの事例を参考にして、日本も独自に進めていく必要があるだろう。





各分野のレポートに戻る