ふぁーみんぐ通信09年12月号
           麻産業の各分野の取組み2009-2010 
                    〜不況の中でもがんばっていますの巻〜



●日本で麻産業はどうなっているのか?


これは、ヘンプがわかる55の質問、ヘンプ読本著者のサイトである麻類作物研究センターに
しばしば来る質問の上位にくるものである。

全分野・全企業の情報に精通しているわけではないが、私の知りうる範囲でならまとめられる。
それをまとめたものが、下記のとおりである。

世の中、リーマンショック以降の大不況感があるが、各分野の企業・お店の皆さんには
気長に地道にがんばってもらいたい。

 

【衣料・小物】

高温多湿な日本において「麻」の服は欠かせないものである。オーガニック・コットン、バンブー、ヘンプは、アパレル業界においては、新しい天然素材として認知されている。但し、衣服は流行に左右されやすい商品であり、ヘンプもその例外ではない。1999年には、大麻原料、糸、織物の合計が1312トンまで急激に輸入量が増えたが、2005年には150トンに落ち込んでいる。今は貿易統計ベースで3億円程度の市場規模である。財布、バック、アクセサリなどの小物も根強い人気があるが、08年〜09年から麻褌のファンが増殖している。商品開発力や品質を上げる努力を続けることによって、再び盛り上がると思われる。

 

【食品】

「麻の実(あさのみ、おのみ)」は、うどんやそばなどの薬味である七味唐辛子の一味として入っている。麻の実は、タンパク質と食物繊維と脂肪酸と3つがバランスよく含まれ、昔から整腸作用の高い漢方薬として使われてきた。従来難しかった麻の実の堅い殻を剥く技術がドイツやカナダで開発され、加工や料理の自由度が拡大している。クルミのような味がし、大豆のように加工食品ができる麻の実は、新しい健康食品として生活習慣病の予防・改善の効果が注目されている。日本では、年間の輸入量が1100トンほどあり、ほとんどが鳥のエサとして流通している。麻の実専門の「ヘンプ・レストラン麻」は、1998年から開店しており、今では麻の実を使ったメニューが多数の自然食レストランで採用されている。麻の実ナッツは、栄養機能食品(鉄、亜鉛、マグネシウム、銅)として販売されている。

 

【化粧品】

麻の実から抽出されるヘンプオイルには、非常に高い浸透力と保湿性があり、乾燥したお肌をしっとりとさせる。薬事法によって規制されていたが、ヘンプコスメ専門会社「(株)シャンブル」が2004年にヘンプオイルを化粧品原料登録してから、日本国内の製造販売が可能となり、ヘンプコスメ商品を多数開発し、大手デパートでも販売されている。また、手作り石けんの愛好家には、ヘンプオイルの心地よさのファンも多い。

 

【非木材紙】

2000
年から日本の製紙会社2社がヘンプ紙の製造に取り組んだが、2008年の古紙偽装事件(古紙の割合が表示より著しく低かった)を受けて市販品がなくなった。今では、3つの和紙事業者がヘンプ紙を使ったランプシェードや壁紙を製作したり、無薬品ヘンプパルプ25%入りのヘンプ紙がヤンガートレーディング社によって開発され、それを使った紙製品を販売している。

 

【住宅用建材・インテリア】

 日本では昔から石灰と海藻糊と麻スサ(ヘンプ繊維を5mmカットしたもの)を壁材(漆喰という)として利用してきた歴史がある。エコ建築・内装業「トムクラフト」は、2003年から石灰と麻チップをベースにした塗り壁材を施工及び販売している。その壁は、デザインと調湿性に優れ、リフォーム市場に広がっている。他にも断熱材、ヘンプ壁紙、ヘンプオイル塗料、麻チップのパーティクルボード、ヘンプ畳、ヘンプ100%蚊帳、麻布団、麻炭が開発され、2008731日〜1111日まで、ヘンプ建材とインテリアの企画展を業界では有名な室内環境情報センター「OZONE」(東京・新宿区)で実施された。EUのヘンプハウスのような構造材と外装材以外は、すべて麻壁という「麻の家」を建てたい方を現在募集している。

 

【動物用敷料】

海外では、繊維を剥いだ後のオガラでチップ状になったものを競走馬の敷料として使っている。麦藁の敷料と比べて吸水性、埃が少なく、消臭効果があり、防虫性に優れ、クッション性があり、有害化学物質ゼロという高品質なものとして扱われている。日本でもペット用品の大手である三晃商会がリス、ハムスター等の小動物用の敷料として販売を2008年から始めた。また、沖縄では牛、豚、鶏などで実験において、動物のストレスを軽減させ肉質を上げることが報告されている。今後、高品質な家畜分野において利用が広がることが期待されている。

 

【プラスチック・複合素材】

海外では、ベンツやBMWなどの自動車用内装材にヘンプ繊維が強化材として使われているが、日本での採用実績はまだない。2008年から(有)ビッグフィールドがヘンプから作られたウレタン発泡体を開発し、ヘンプ・サーフボードのブランクス(フォーム)として製造販売している。また、アフリカの楽器のパチカのヘンプ製バージョンが発売された。さらに(株)日本ヘンプによって、備蓄米の古々米と麻(オガラ)でつくったINASO樹脂が開発され、PP(ポリプロピレン)の代替製品として製造販売され、団扇、箸、CDケース、ブロックが商品化され、今後の展開が楽しみな樹脂がでてきた。

【燃料】

ヘンプオイルは、バイオディーゼル燃料の原料になるが、栄養価の高さを考えると燃料用にするのは勿体ない。2002年にヘンプカープロジェクトとして、北海道から沖縄までの12500kmのキャンペーン時に2600L使われただけである。最近は、燃料と食糧の競合を避けるために、木質系からバイオエタノール化(ガソリンに対応)の実証試験や研究がさかんである。ヘンプの茎は、木材よりも構造が複雑でないため、エタノール化しやすく、理論収率では1トンにつき75%のバイオエタノールが採れるが、実用上、収率50%に近い技術開発が求められている。


【農業・地域興し】

現在、日本の栽培者は約50名で、作付面積6.5haである。「伝統工芸」及び「社会的有用性/生活必需品」の2点が免許取得のための基準であり、都道府県によって手続方法や考え方がバラバラであるが、昨今の大麻事件報道を受けて、免許許可を原則認めないところが多い。20088月に北海道北見市で「産業用大麻栽培特区」が北海道庁からの認定を受けた。これまでは、許可する側の役所(北海道庁)に推進の受け皿がなく、議論する場もなかったが、ようやく民間企業、行政、大学が同じテーブルで、種子の確保、栽培管理法などの課題を解決するためのプロジェクトが始まった。
 他では、長野、沖縄、山梨、千葉などで、地域興しのテーマとして取り組みが始まり、栽培許可を受けるためのあらゆる交渉を続けている。


【医薬品・漢方薬】

麻の実は、整腸作用及び血糖降下作用のある漢方薬の原料として、麻子仁(マシニン)と呼ばれ、ツムラやウチダ和漢薬等から販売されている。十五局日本薬局方に2006年に正式に薬として収載された。また、2009年の薬事法改正により通信販売ができない第2類医薬品に分類され、外用剤に使う場合は、第3類医薬品となった。
 マリファナの主成分であるTHC(天然抽出)を使った医薬品の販売及び施用は日本において大麻取締法第4条があるために禁止されているが、2007年から大塚製薬がアメリカでガンの疼痛を対象とした鎮痛剤の臨床試験及び創薬開発を始めている。また、脳内マリファナのメカニズムの基礎研究は、年間1億円程度の研究費をかけて金沢大、九州大、東大などで神経学及び麻酔学の分野で研究されている。

 まとめ 今後の展開

大麻=悪のイメージの偏見が根強くあるが、環境と健康をキーワードに、食農教育の推進、企業の社会的責任(CSR)、グリーン購入法(行政や企業が環境配慮した製品購入を進める法律)、カーボンオフセット商品(CO2排出免罪符付き商品)の波に乗れるかがポイントである。日本では麻に関わる企業は、零細企業が多いためダイナミックな展開ができていない。今後は、官僚主導で実施されてきた大麻法の産業利用への制限を政治主導による運用改善の道を探りつつ、事業スポンサーや投資家や大手企業の連携によって、状況を打開していきたい。






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