ふぁーみんぐ通信10年3月号

司法モデルにおける大麻取締法の社会経済的損失は、50億円!
   この金額は、行政の事業仕分け対象に値するのか?
〜大麻取締法の事業仕分けの巻〜



●園芸モデルを考える前に、、、
 
薬物乱用・依存対策は、司法モデル、治療モデル、福祉モデルの3つに分類される。
・司法モデルは、現在の日本のように犯罪として見て、国家機関が対応する。→日本の政策はこれです!

・治療モデルは、病気とみなして、医療機関が対応する。

・福祉モデルは、依存症とみなして、民間機関が対応する。このモデルは、
 龍谷大学の石塚伸一らの薬物対策を「処罰から治療へ」と日本版ドラッグコートを
 提案をしているグループによって提案されている。
 
大麻に関しては、この3つモデルのどれにも当てはまらず、どのような名称を
用いてよいかわからないが、「園芸モデル」とでも呼んでおこう。
低THCの繊維型の品種は、産業利用として生活用品及び工業原料の供給を担い、
地域経済の新たな産業として活用され、マリファナとなる薬用型の品種は、
民間の薬草として位置づけ、税法上は酒税やタバコ税を補完する役目をもつはずである。
(この3行だけでも誤解がないようにもっと語るべき内容があるけれど、今回は詳細に触れません)
 
仮に、園芸モデルの社会経済的な便益と費用を考えるにあたっては、どれだけの市場が
あり、税収に貢献できるか?などの数値を示して、説得性を持たせなければならない。
その前に、そもそも今の大麻取締法による社会経済的な損失を発生させている
のかを考えなければならない。あー、こんな計算だれかやってくれないの?
とつぶやいていたら、過去の研究にとってもよいのがあった。
 
●厚生労働省の研究が役に立った!
 
薬物乱用・依存によって発生する経済的損失は、平成14年度の厚生労働科学研究費
補助金による池上直己らの研究によって平成11年度(1999年)のデータを用いて、約2068億円、
国民一人当り1632円、国内総生産の0.04%に相当すると報告されている。

このレポートの詳細がわかれば、計算方法がわかる!。と胸を躍らせて、ヘンプ読本の執筆
でお世話になった厚生労働科学研究成果データベースで、検索だー。
 
ありました、ありました!。さて、これを用いて、ちょっと平成11年と古いデータだけど、
この時点で用いられた項目とデータを利用して、大麻取締法に焦点を絞って社会経
済的損失を推計してみた。
数字がいっぱい出てくるけど、我慢して読んで下さーーーい。

<直接費用>各費用の単価は、厚労省データベースに掲載されている文献(注1)に基づく。

1.医療費

入院費用 10,504円/日×365日×0人     =0円
外来費用  6,915円/日×(365日-休日67日)×0人=0円
合併症  静注薬物乱用によるHIV等は、対象外  
  医療費合計  0円

→ 平成11年における麻薬及び向精神薬取締法における麻薬中毒者の疑いがある
  として医師、麻薬取締官、警察官等に届出・通報があったものは3名いたが、彼らのうち
  精神保健福祉法に基づく医療保護入院をしたものは0名である。
  よって、ここでは0名とした。但し、薬物中毒の入院患者はH11で全国に1845人いる。

2.社会復帰活動

ダルク(入寮)  0名×5,300円/日=0人 
通所(デイケア)0名×15,000円/日=0人  
    社会復帰活動合計 0円

→ 大麻のみが原因で活動に参加している方はいないため。

3.司法の費用

矯正施設
 刑務所    2,780,273円/年×122人 =339,193,306円
 少年院     4,995,282円/年×10人   = 49,953,820円
 少年鑑別所 10,030,930円/年×5人   = 50,154,650円
 保護観察所 316,667円/事件×380人=120,333,460円
  合計 5億5963万5236円

→ 刑務所の大麻受刑者数は統計がないため、H11年の検挙者1224名×再犯率10%
  で推計した。
  少年院はH11年末の新収容者総数5538人の0.23%が大麻事犯。収容現員4494人で
  換算した。
  少年鑑別所はH11年末の新収容者総数19566人の0.41%が大麻事犯。収容現員
  1135人で換算した。
  保護観察所はH13データがないため、H17年〜H20年の新収容者の麻薬・あへん・
  大麻の平均760人の半分を大麻事犯と推計した。

 
刑務所って年間278万円かかるんですね。少年鑑別所って最長でたったの8週間しか
いられないはずなのに、一人当たりの年間で直すと1000万円もかかるんですね。
あとは、保護観察所でびっくり。大麻で保護観察の扱いの方が以外と多い結果となった。

警察庁
 人件費    22,636円/日×2人×20日×1224人=1,108,258,560円
 薬物対策費  226,258,000円×6.08%=13,756,486円
     合計          11億2201万5046円 

→ 検挙者が逮捕されてから約20日間の勾留期間があり、その間2人の
  警察官から取り調べを受けると仮定。逮捕までの捜査の費用は実態が不明な
  ため算入していない。

  H11の薬物事犯検挙者数20129人のうち大麻事犯1224人の割合6.08%を
  費用として推計した。
    
裁判
 裁判費用 291,400円/人×920人=268,088,000円

→ H11の大麻事件の受理人数1501人で公判請求人数920人(起訴率67.2%)の
  データを引用。これは裁判所の費用なので、大麻事犯当事者が負担する
  弁護士費用等は含んでいない。

被害者の費用 
 暴行、強盗、窃盗、殺人(未遂を含む) 0円

→ 参照した文献にはこれらの項目があるが、大麻事犯における二次犯罪の情報はないため
  費用は0円とした。  
 
司法の費用合計  19億4973万8282円

4.行政の費用

厚生労働省
 麻薬・覚せい剤対策   743,374,000円×6.08%=45,197,139円
 麻薬取締官事務所予算 1,925,638,000円×6.08%=117,078,790円
 厚生科学研究補助金   127,000,000円×6.08%=7,721,600円

→H11の薬物事犯検挙者数20129人のうち大麻事犯1224人の割合6.08%を
 費用として推計した。

文部科学省
 薬物乱用防止 34,516,000円

→H14予算の薬物乱用防止教室推進費とシンポジウム開催費の合計を引用。
行政の費用合計 2億0451万3529円

5.予防費

厚生労働省
 青少年特別啓発事業費 5,123,000円
 麻薬・覚せい剤乱用防止国民運動事業費 19,567,000円
 薬物乱用防止指導者育成事業費 7,315,000円

→H14年予算より。予防費が対象とする普及啓発系の事業は大麻とそれ以外の薬物と
 切り離して実施することはないので全額を計上した。
予防費合計 3200万5000円

<間接費用>
死亡による費用、疾病による費用  0人

→ 大麻に起因する死亡者及び疾病に関する情報はないため0人

離職に伴う費用 122名×2年×4,920,000円=1,200,480,000円
 
→ 大麻事犯は、マスコミ沙汰にならない限り、退職とならないケースが多いため
  前述で推計した刑務所の入所者数に薬物事犯の平均刑期2年を掛けた。
  また年齢は不明なため注1の文献より男性高卒者の35〜39歳の平均年間賃金を用いた。
 
間接費用合計 12億48万円
 
●大麻取締法による社会経済的損失(H11年/1999年ベース)
 
直接費用 21億8625万6811円
間接費用 12億48万円
  合計  33億8673万6811円 
 
これは、参照した文献がH11のデータに基づいていたため、この時点での大麻事犯の検挙者数1224名に
おける結果である。抜けているデータは、捜索から逮捕までの人件費であるため、司法の費用はもう少し
上がると考えられる。
また、最新の平成21年度の大麻検挙者の暫定値は、2931名で、仮にこの値を挿入して、警察費用と
裁判費用の増加分を計算すると、
 
警察庁
 人件費    22,636円/日×2人×20日×2931人=2,653,844,640円
 薬物対策費  226,258,000円×18.00%(薬物事犯検挙者総数における大麻事犯の割合)=40,726,440円
裁判費用     291,400円/人×(2931人×60%(H18起訴率))=512,572,600円
   合計          32億714万3680円 
 
H11年でこれらの合計が13億9010万2046円だったので、H21年は、約2.3倍の支出増加であり、
19億円も費用が増加している。警察費用と裁判費用だけで、H11年の総合計と同じ程度の額まで
膨れ上がっている。薬物事犯における覚せい剤が減っているため、大麻事犯の割合が、H11の6%
から18%と3倍増加している。
 
H21年度の矯正施設の数値が不明なため、H11年と同じ割合で費用が発生していると仮定すると、
直接費用及び間接費用の合計は、約50億9070万円となる。
 
●単純所持の非犯罪化政策を導入すると??
 
20歳以上の成年の大麻の単純所持を欧米諸国で採用されている非犯罪化政策を
導入すると、大麻取締法における社会経済的損失は、少年院、少年鑑別所、保護観察の
費用と予防費のみになるのではだろうか?。予防費は、非犯罪化したという政策の周知徹底
のため必須と考えた。ここでは話を単純化するために、大麻事犯はすべて単純所持とした。
 
大麻由来の疾病に関する疫学研究を見る限りでは、決定的な証拠がないため、医療費と社会
復帰費用は増えないと考えた。ちなみに、最も研究が盛んな大麻が統合失調症発生の要因に
なるリスクに関しても、1000人当りの発症率まで断定できるほどでもなく、因果関係がないとする
報告も多数ある。
 
そうすると、H11年ベースで、
 
非犯罪化政策の社会経済的費用:2億5244万6930円
  社会経済的費用の削減効果:29億5469万6670円  
  司法・行政費用の削減効果:16億6795万9859円
 
H21年は、矯正施設及びその他の数値が不明なため、警察費用と裁判費用を
司法・行政費用の削減効果のみが計算できる。
 
そうすると、H21年の暫定値ベースで
 
 司法・行政費用の削減効果:32億714万3680円 → 非犯罪政策における費用削減効果です!


注1: 池上直己、山内慶太、湯尾高根「薬物乱用・依存によるマクロ的社会経済的損失
に関する研究」平成12〜14年度厚生科学研究費補助金・分担研究報告書、p189-200





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