11年7月号


     世界で唯一のヘンプカーに改造
             〜SVOとBDFの併用で走るの巻〜




●ヘンプオイルのSVOで実験!

 5月の北海道札幌でのヘンプカー北海道実行委員会での打ち合わせでは、ヘンプオイルをメタノールと反応させて、
メチルエステル化したバイオディーゼル燃料(BDF)を使います!と宣言していたのにも関わらず、急に予定を変更した。

BDFに変換するところから御見積をとったときに、変換費用が100円/Lで、前回2002年の2倍であったこと、
劇薬のメタノールを15%使うことで、本当にエコなの?という指摘を受けていたことがあった。

 山梨の富士河口湖農園の平田さんが廃食油をBDFに変換せずに、そのままストレートに使っていることを思い出し、
早速連絡をとった。まずは、ヘンプオイルで実験してみようということになった。



この方式は、SVO(ストレートベジタブルオイル)といって、植物油をそのまま燃料として使うやり方である。
通常使われるSVOの原料である廃食油よりもヘンプオイルが綺麗だったため、簡単なろ過だけで使える
ことがわかった。実験した車でも、ヘンプオイルの香ばしい匂いと共に、快調に走ることが確認できた。

写真は、平田さん自らがSVO方式に改造したトヨタ・コルサ(1500ccディーゼル)の給油口に
250ccのヘンプキッチンの食用麻の実油を突っ込んで給油しているところ。衝撃映像です!!


●ヘンプカーの改造の燃料システムを改造


<ヘンプオイルの性状>
 
ヘンプオイル
(SVO)
ヘンプオイル
(BDF)
 軽油
(JIS2号)
軽油にFAME混合5%規格
(JASO M 360) 
密度(15℃)g/cm3 0.9278 0.8899 0.86以下  0.86以上0.90以下 
引火点(C.O.C) ℃  270 184 50以上  120以上 
動粘度 mu/s 40℃ 26.98 3.789 2.5以上(30℃)   3.5以上5.0以下
動粘度 mu/s 100℃   6.909 1.612  ―  ―
流動点  ℃ -22.5  -5.0 -7.5以下   ―
(社)潤滑油協会技術センター調べ
依頼者:FAMILY PRODUCTS

昔、ヘンプオイルで潤滑油を作ったときのデータが今回とても役に立った!
特に動粘度を見ると、食用油として普段から使っているヘンプオイルは、粘り気がとても高い。
2006年に社団法人自動車技術会によって定められたBDFに加工した油(FAME:Fatty Acid Methyl Ester
脂肪酸メチルエステル)を軽油に5%だけ入れてもよいという規格と比較しても、ディーゼルエンジンに対応
するには、SVOそのままでは、粘度が高くて使えないことがわかる。

粘度を下げるために、通常の燃料タンクとは別に、もう一つSVO専用のタンクを取り付け、
エンジンで85℃ぐらいに温められたラジエーターの水を使って、熱交換器でSVOを温めるのである。
温められて少しサラサラになったSVOを確実にエンジンへ給油するために、ポンプも取り付けた。

ヘンプカーは、日産シビリアンバスタイプだったので、改造には60万円ぐらいかかった。

 綺麗にラッピングされたヘンプカー


運転時の注意事項としては、はじめにBDF(通常の軽油タンク)からエンジンを始動させ、
10分以上経てば、ラジエーターの水が温まってくるので、それからSVOに切り替えて走る。
停止するときは、BDFに戻して、エンジンにSVOが残らないようにする。
BDFとSVOのスイッチは、運転席にあるので、すぐに切り替えられるようになっている。

他の特徴としては、BDFは冬には固まりやすいので使えないがSVOは冬でも大丈夫ということがある。
流動点という指標を見ると、BDFは-5℃であるが、SVOは-22.5℃。これだと冬の北海道でもなんとかなる値である。
軽油でも、寒冷地仕様で3号(流動点-20℃)とか特3号(流動点-30℃)を使っている。



●ふきのとう舎でBDFをつくる

1993年から廃食油からBDF(バイオディーゼル燃料)をつくっている東京・墨田区にある染谷商店。
前回2002年のヘンプカーではここでヘンプオイルをBDFに変換してもらいました。

今回は、染谷商店から紹介してもらった神奈川県大和市にある社会福祉法人ふきのとう舎でヘンプオイルをBDFに
してもらった。ふきのとう舎は、障がいをもった方々の自立支援事業をしている施設で、その事業の一つとして2006年
から油回収とBDF製造と販売を実施しているところであった。

飲食店からのてんぷら油をBDFにしたものは、大和市、海老名市などのゴミ収集車、市営バス、運送会社などの軽油
代替燃料として販売して利用されています。3・11の震災以降の燃料不足からBDFに目覚めた人も多数いて、新しい
お客さんが増えたとのことでした。今(2011年6月現在)は軽油が135円/Lに対してBDFは110円/Lで販売している。



ふきのとう舎は、染谷商店と全く同じ製造設備をもっているため、ヘンプオイルで実施することに対しては、何の抵抗感
もなく受け入れていただきました。普通の会社なら、大麻の油は扱いたくないという偏見が必ず入りますが(お約束パターン)

ヘンプオイルは、次のようにBDFとSVOにわけた。

ポリタンク20L:600L → BDF(バイオディーゼル燃料)  変換後のBDF量が490L
250mlボトル品:975L → SVO(ストレートベジタブルオイル)
 合計     1575L

ポリタンクのものは、酸価(AV)という遊離脂肪酸の数値が油1g中15r以上あり、かなり品質が劣化していることが
明らかであった。(正確な劣化を知るには過酸化物価(PV)の値を見ないとダメですが)

普段の食用ヘンプオイルのAV値は、1〜4ぐらいである。遊離脂肪酸=グリセリン=油の粘度が高くなる原因なので、
SVOに使うにしても止めた方がいいなと判断したためBDFにすることにした。


●BDFのつくり方

反応釜にヘンプオイル、メタノール(メチルアルコール)を一定の割合(約15%)で入れ、これに微量の触煤(水酸化ナ
トリウム)を加えて加熱する。

すると、メチルエステルとグリセリンが生成され、メチルエステルの方が「バイオディ−ゼル燃料」となる。
グリセリンはグリセリン受け層に沈殿します。この後、冷却、ろ過、貯蔵という約6時間の行程後「バイオディーゼル燃料」ができる。

ふきのとう舎では、1回に100L処理できる水洗い方式のBDF製造装置と、1回に200L処理できる蒸留方式のBDFの2台があった。
水洗い方式は、文字通り水で洗う工程があるため、どうしても廃水がでてくる。一方で蒸留式は廃水が出ずに、使ったメタノールも
再利用でき、品質のよいBDFが作れるという特徴をもつ。その替わり原料からBDFになる収率が水洗いより低いのが難点。
装置の価格もはやり高いです。水洗い350万、蒸留1000万円とのことである。

水洗い方式  原料100LとするとBDFが90Lできる。収率90%  
蒸留方式   原料200LとするとBDFが150Lできる。収率75% 
これに酸化防止剤を加えてBDFができあがり。

今回は、環境影響と品質のことを考えて重視するために蒸留方式で実施しました。
ちなみに、前回2002ン年のヘンプカーでは水洗い方式で実施しているので、同じBDFでもグレードアップした!

 左が水洗い方式BDF,右が蒸留方式のBDF 




BDFの作り方は、上記のエステル交換という反応なので、 廃棄するグリセリンの利用がやや問題となる。
今回はヘンプオイル由来のグリセリンが7ポリタンク140L発生した。大きなBDF製造工場では、石けんにできるほどきれいで
純度の高いグリセリンを取り出せる設備が導入されているところもありますが、ふきのとう舎ではそのまま産業廃棄物になって
しまうのが現状である。

 廃グリセリン 


●ヘンプカーでSVOとBDFの給油 こんな感じでいつもしていました。

当然、ガソリンスタンドでは、ヘンプオイルは給油できないので、ヘンプカー北海道では、複数の給油地点に
あらかじめヘンプオイルを発送しておいて、そこで給油。


    車内タンク(60L)がSVOのタンク           通常の軽油タンク(80L)にBDFを入れる


 250ccのボトルの口を開けて、みんなで楽しくおしゃべりしながら、ろ過してリタンクに入れる

ヘンプカー北海道では、2460本のヘンプオイルのボトル空け作業をした。
まさに、ヘンプオイルで動いている!という実感ができると共に、イベントのわずかな合間に
この作業をいつもしていました。


●本命は、BTL(バイオ液体燃料)です

ヘンプカーでは、種子からのヘンプオイルを使っているが、ヘンプカープロジェクトでは、これを
実用化しようとは全く思っていない。

なぜならば、1L当たり小売価格で、8000円するからである。1L150円でも高い!!とガソリンや
軽油の1円、2円の幅に一喜一憂している庶民感覚からすると、1L8000円は桁違いに高すぎる。
ヘンプカーは、燃料という視点で見れば、世界一の超セレブな車ともいえるのだ(笑)

ヘンプオイルの原料の畑がもっとたくさん増えればコストダウンするかもしれないが、もともと
種子に油分が3割しかなく、他の菜種やアブラヤシのように収量がそれほど多くないという欠点がある。

さらにヘンプオイルは、食用や化粧用にするほうが価値がある。
あくまでもキャンペーンとして実施しているだけで、今回はたまたま賞味期限切れの
ヘンプオイルが大量にあったから実現できている企画である。

本命は、ヘンプの茎からBTL(バイオ液体燃料)をつくってヘンプカーを走らせたい。
茎の方が収量が多いので効率的でコストダウンが可能だからである。
これについては秋以降に実験をする予定でああり、別途またレポートをしていくのでご期待を!。


<ヘンプカー協力者のリンク>
 公式サイト ヘンプカー・プロジェクト http://www.ooasa.jp/hemp_car/
 ヘンプオイル提供 ヘンプキッチン http://www.hempkitchen.jp/index.html
 富士河口湖農園 http://fuji-k-farm.holy.jp/
 SVOについて 現代農業2011年7月号 水&エネルギー自給 http://fuji-k-farm.holy.jp/fuji-k-farm/gendainougyou.htm
 ふきのとう舎 http://www16.ocn.ne.jp/~fukipage/index.html
 





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