12年1月号


   2011年度のアサ畑およびその収穫物の放射性物質の測定調査
               〜大麻草は、放射性物質を吸収しない?の巻〜



●調査結果の概要

 アサ(Cannabis Sativa L.)は、3ヶ月で3mに生長する農作物であるため、重金属や硝酸性窒素の吸収量が比較的多く、ファイトレメディエーション(植物による環境浄化法)に利用できることが知られている。しかしながら、アサ畑およびその収穫物の放射性物質の吸収量や移行係数に関する知見には乏しい。そこで、栃木県と群馬県によるアサ栽培者の協力を得て、土壌および収穫物を採取し、その放射性物質I-131、Cs-134、Cs-137の3種を測定した。

 その結果、栃木ではアサ畑の放射性物質が無耕作地と比較して約40%の減少、群馬では約60%減少が見られ、収穫物の放射性物質は栃木で微量検出、群馬では一切検出されなかった。収穫物から放射性物質がほとんど検出されていないことから、畑での減少は、アサの播種前の耕うんによる影響が大きいと推測された。本研究は、次年度の作付実験に向けた予備的な実験であり、土壌採取や法規制の葉や花穂を含めた収穫物等の条件を検討し、アサの放射性物質の移行係数を明らかにしていくことが今後の課題である。


1.測定地域の放射性物質濃度および国の規制値


 表1 測定地域の空間線量
 県名  測定場所  測定高さ   日付  空間線量(μSv/h)
 栃木県   鹿沼市役所  地上から50cm 5月31日-10月31日 0.10〜0.12
 永野小学校校庭  地上から50cm  10月24日  0.14
群馬県  S公園  地上から50cm  8月〜12月  0.17〜0.13
引用:各県のモニタリングポストのデータを参照

 表2 測定地域の土壌濃度
県名   測定場所  測定物質 土壌濃度(Bq/u )
 栃木県  鹿沼市永野地区   放射性セシウムCs-134、Cs-137   <1万
 群馬県  某所 放射性セシウムCs-134、Cs-137  1万<3万
引用:文部科学省による放射線量等分布マップ(放射性セシウムの土壌濃度マップ)の作成結果を踏まえた航空機モニタリング結果(土壌濃度マップ)     の改訂について(平成23年8月30日)、文部科学省と群馬県による航空モニタリングの測定結果(平成23年9月27日)

 表3 国の放射性セシウム濃度規制
 対象 規制値(Bq/kg)  根拠
 肥料(腐葉土含む)  400以下  農水省通知:2011.8.2
 木炭  280以下  林野庁通知:2011.11.2
 薪  40以下  林野庁通知:2011.11.2
 水  10以下  2012年4月〜 厚生労働省発表2011.12.22
 一般食品  100以下  2012年4月〜 厚生労働省発表2011.12.22
 水田作付制限  5000以上  政府発表:2011.4.8



2.測定目的、試料、測定条件

<測定目的>
栃木県と群馬県による2011年度のアサ畑の土壌およびその収穫物の放射性物質I-131、Cs-134、Cs-137を測定し、次年度の放射性物質高濃度地帯へのアサ栽培実験計画の検討材料を得ること

<土壌の試料>
1)栃木の無耕作地、2)栃木の無耕作地(耕うん1回)3)栃木のアサ畑、4)群馬の無耕作地、5)群馬のアサ畑

無耕作地は、3月11日以降、何も作付されず、耕うんもされていないアサ畑の周辺にある農地。土壌の採取は、栃木2011年12月30日、群馬2011年12月31日に実施した。土壌は、表土を取り除かずに土壌採取で標準的に使われている五点法によりそれぞれ1.5kgを採取した。但し、栃木県の土壌は深さ10cm、群馬の土壌は深さ5cm(土壌凍結により10cm採取が不可能だった)アサ畑は、両県でなるべく同じ条件で比較できるように栃木も群馬も種子用の畑で実施した。繊維用を採取しなかったのはアサの後作でソバが必ず栽培しており、ソバの影響を排除できないためである。

 土壌採取の様子

<収穫物の試料>
6)栃木の精麻、7)栃木のオガラ、8)群馬の麻の実、9)群馬の麻茎

栃木のアサ畑の栽培目的は、繊維採取であり、群馬のアサ畑の栽培目的は、種子採取であるため、それぞれの収穫物についてそれぞれ1L程度を採取し、2-3cmに細かく手作業で裁断して測定試料を用意した。なお、栃木の来年度播種用のアサ畑の麻茎はすでになかったため採取できなかった。

<放射性物質の測定条件>
使用機材:応用光研工業FNF401(小さき花SSS所有)、2012年1月3-4日に測定を実施した。
メーカー保証検出限界:1000秒 10Bq/kg 
土壌の試料はすべて1000秒、収穫物の試料は栃木3600秒、群馬1800秒で測定。


土壌から農作物への放射性物質の吸収は、酸性・アルカリ性、カリウムの有無などの土壌条件に左右されることから、(株)ベジテックへ土壌分析した。pH、EC(電気伝導度)、可給態リン酸、交換性カリウム、交換性カルシウム、交換性マグネシウム、塩基飽和度の7項目について測定した。


3.測定結果

図1 土壌の放射性物質測定結果

図2 収穫物の放射性物質測定結果


※群馬の麻の実、麻茎は、放射性物質が3種とも「検出されず」となった。


  
図3 栃木のアサ畑の土壌分析                 図4 群馬のアサ畑の土壌分析




4.考察

 無耕作地の栃木の土壌171.72Bq/kg、無耕作地で耕うんを1回した土壌98.07Bq/kg、群馬の土壌363.56Bq/kgは、2011年3月11日から1度も耕耘せず、何も栽培されずに放置した状態で表土も含まれるため、アサ畑の周辺に降下したCs134およびCs137の総量の値と考えられる。国の基準と比較すると栃木および群馬の無耕作地の土壌は、肥料400Bq/kg基準以内であることが明らかになった。

群馬と比較して栃木のアサ畑にI-131:6.55Bq/kg検出されたのは、肥料のリン酸が影響していると考えられた。土壌分析では群馬アサ畑の可給態リン酸5.24mg/100gであったのに対し、栃木アサ畑は、48.4mg/100gであり、栃木の方が高いことからリン酸の影響があったものと考えられた。

 アサ畑は、栃木で周辺土壌より約40%減の103.18 Bq/kg、群馬で約60%減の149.85Bq/kgとなっているが、収穫物の放射性物質が極めて微量もしくは検出されない値であった。アサ畑は、両県とも播種前に1回トラクターで耕うんしているため、表土に積もった放射性物質が攪拌された状態で栽培されている。

 耕うんの影響は、福島県農林地等除染基本方針(2011年12月22日発行)によると、ロータリー耕で57-75%の減少が報告されており、栃木・無耕作(耕うん1回)と栃木・アサ畑の放射性物質量が変わらなかったことからアサ畑もその影響が大きいと推測された。

 しかし、このデータだけでは、アサの放射性物質吸収挙動の全体像が明らかになっていない。なぜならば、アサは大麻取締法によって葉や花穂をアサ畑の外へ持ち出すことが禁止されているため、その部位への放射性物質の吸収量が不明だからである。重金属や硝酸性窒素は、葉や小さい枝に集まりやすいことが知られているため、アサの植物体まるごとを試料とし、その部位ごとの放射性物質を測定することが次年度の課題である。

 群馬の麻茎、麻の実の放射性物質が検出されず、栃木の精麻(繊維)、オガラ(繊維をとった後の残りの茎)が微量ながら検出されたのは、栃木のアサが収穫後の干す工程や軒先での野外保管したときによる放射性物質の付着が考えられた。群馬のアサは収穫後にすぐビニールハウス内で管理されており、土壌の放射性物質の濃度が栃木よりも高いにも関わらずたまたま付着がなかったものと考えられた。



5.まとめと課題

1.栃木および群馬のアサ畑の周辺土壌は、腐葉土を含む肥料基準の400Bq/kgより少ないことが明らかとなった。

2.アサの放射性物質の吸収挙動の全体像は不明だが、栃木および群馬のアサ畑から収穫された繊維や種子等への放射性物質の移行が極めて少ない可能性があることが示唆された。

3.放射性物質が高濃度(例えば1万Bq/kg以上)である農地での吸収挙動が不明である。

4.本研究のデータを踏まえて、次年度の測定実験の各種条件を検討すべきである。



<謝辞>
栃木および群馬のアサ栽培者、神澤氏、神嵜氏、小さき花SSS代表の石森氏のご協力および助言によって本実験を推進することができました。ありがとうございます!!






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