12年2月号
          合成カンナビノイド-指定薬物制度の問題点
         〜天然はマイルド、合成はストロングに効くの巻〜





<カンナビノイドの基礎知識>
 カンナビノイドとは、大麻草に含まれる薬理成分の総称。天然の大麻草には66種類のカンナビノイド化合物が発見されており、合成品は、1964 年にTHCの構造が明らかになってから何百種類もの化学的誘導体がつくられている。その後、1990年代に人間の体内に脳内マリファナと呼ばれる内因性カンナビノイド「アナンダミド」と「2−AG」が発見された。

 この発見の前後に1988年にカンナビノイド受容体で神経細胞に多いCB1の発見、1998年にカンナビノイド受容体で免疫細胞に多いCB2の発見があった。脳内マリファナとその受容体の発見によって、なぜ大麻草の薬理成分(THC等のカンナビノイド)が人体に効くのかが知られるようになり、世界中でカンナビノイドの医学・薬理学研究が大きく進展した。

<指定薬物とは?>
薬事法における指定薬物とは「中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む。)を有する蓋然性、かつ、ヒトの体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれのある物」と定義されている。脱法ドラックや合法ドラックの増加に伴い2007年から制度化された。


●合成カンナビノイドが包括的に規制対象へ

 今年1月27日の日経新聞等の報道によると、構造が似ていればすべて指定薬物にできる包括指定を検討中し、通常国会で薬事法改正を提出予定となっている。指定薬物については、厚生労働省の薬事食品衛生審議会・薬事分科会・指定薬物部会で審議されている。

 天然の大麻草のTHCと比較して、合成カンナビノイドの方が受容体の結合能力が高いということが主な理由でそれらが指定薬物となった。有害性が動物実験などで判明した結果ではない。天然の大麻草のTHCを今まで評価したことがないにも関わらず、天然THCを有害だという前提で学識経験者が合成物について議論しているのが問題である。


<現状> 
天然THCの薬理作用の評価が日本国内で全く実施されていないにも関わらず、
天然THCとの比較で指定薬物の規制を定めている。



 今回の規制対象     すでに規制      全く評価されていない



  カンナビノイド受容体(CB1)への親和性の高い順(Ki値)

引用:イギリス政府の薬物乱用諮問協議会ACMD report on the major cannabinoid agonists(2009)
   Ki<100nMで受容体と高い親和性があると定義されている


 Ki値とは、受容体への親和性を表す指標。値が小さければ小さいほど、少ない量で受容体への結合が強い=少ない量で強力に作用する。例えば、大麻草に含まれる天然のTHCを1としたとき、2009年に指定されたJWH-018は、約14倍強く、2011年に規制されたJWH-210は、約88倍強いと評価できる。また、アメリカで吐き気を抑える薬として認可されている合成THCのナビロンは、天然THCの約22倍。アメリカで、ナビロンよりも天然THCよいと評価されているのは、この受容体の結合力の強さによる副作用と考えられている。THC倍率という便宜的にわかりやすく説明するために用いられている数値であるが、概略をつかむにはちょうどよい。

これらのことからわかるように、合成THCは、ストロングに効き、天然THCはマイルドに効くといえるのである。実際に指定薬物になる前のスパイスシリーズ(合成カンナビノイド)を試した方がいるならば、身体レベルで実感している?!と思われる。


この結果!

<問題点>

(1)法律を守ろうとする薬物販売者やジャンキーは、指定薬物及び包括指定対象外の違法ドラックを使う

(2)留学経験者や薬物のことを少し調べた方は、海外で安全と評価されている大麻草を使う

これでは根本的な解決にはなりません。


●海外では、大麻草の再評価が盛んである!

一例として、GHQ占領下で、日本に大麻取締法を制定させ、世界の大麻規制政策を普及したアメリカでは、
連邦法で最も厳しいスケジュールTに位置づけられる薬物であるが、州法では非犯罪化、医療大麻合法化(16州)が進められている。その現状分析をした国レベルのレポートが発行されている。

米国立医薬医学研究所(I.O.M)レポートMarijuana and Medicine: Assessing the Science Baseを1999に発行。大麻の医療的価値に対する世論は明確に二分されている現状を科学的に再評価したもの。
  日本語に要旨翻訳したものはこちらをクリック
 
米国立衛生研究所 (NIH) の一部門である米国立癌研究所 (NCI)Cannabis and Cannabinoids (PDQ)を2011年3月に発行。大麻草とその成分を、癌という疾病そのもの、またはその治療を原因とする、癌に関連した症状の治療のために使用することについての概要を紹介するものである。
  日本語に訳したレポートはこちらをクリック


●大麻草の総合的な評価は、薬物政策の今日的課題!

内閣府に設置された薬物乱用対策推進本部によって、第三次薬物乱用防止五か年戦略(平成20年8月22日決定)、第三次薬物乱用防止五か年戦略フォローアップ(平成21年8月20日決定)が定められている。この中では、4つの戦略目標が次のように定められている。

目標1:青少年による薬物乱用の根絶及び薬物乱用を拒絶する規範意識の向上
目標2:薬物依存・中毒者の治療・社会復帰の支援及びその家族への支援の充実強化による再乱用防止の推進
目標3:薬物密売組織の壊滅及び末端乱用者に対する取締りの徹底
目標4:薬物密輸阻止に向けた水際対策の徹底、国際的な連携・協力の推進

目標3の具体的な項目(4)末端乱用者に対する取締りの徹底
薬物乱用防止のためには、薬物密売組織に対する取締りとともに、その需要削減が重要な課題であることから、末端乱用者に対する取締りを徹底するとともに、相談活動、薬物乱用を拒絶する規範意識が確立された社会の形成を進めるための広報啓発活動等を推進する。
・薬物乱用を拒絶する規範意識が確立された社会の形成を進めるため、関係機関団体と協力して、薬物に関する正しい知識の普及に努めるなどの広報啓発活動を推進する。(内閣府、警察庁、財務省、厚生労働省)


薬物政策は、今日的な政策課題であるにも関わらず、下記の図のように10省庁の縦割り行政に埋没している。
特に大麻取締法を巡る政策課題は、どこも議論されていない。


第三次薬物乱用防止五か年戦略(平成20年8月)の4つの戦略の省庁別の担当項目数



<結論>
大麻草に関する海外の知見に基づき、医科学的、薬理学的、法律的、社会学的、文化的な総合的評価をする必要がある。


   




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