12年5月号
              大麻草の規制根拠がない!
           ~海外の公的レポートを読むの巻~





●海外の公的レポート

 100年以上前から大麻草の規制について、様々な公的機関が調査して報告されているが、下記のように様々なものがある。

・1994年の豪州保健高齢福祉省、オーストラリア政府出版サービス「オーストラリアにおける大麻に関する立法上の選択肢:連邦政府からの委託に よる報告書/州薬物政策閣僚評議会」
"Legislative options for cannabis use in Australia"Commonwealth of Australia, 1994
http://www.druglibrary.org/schaffer/library/studies/aus/cannabis.htm

・1998年のニュージーランド議会健康特別委員会の報告書「大麻の精神衛生上の影響に関する調査」
"Inquiry into the Mental Health Effects of Cannabis"New Zealand Parliamentary Health Select Committee, 1998
http://www.worldcat.org/title/inquiry-into-the-mental-health-effects-of-cannabis-report-of-the-health-committee-forty-fifth-parliament-brian-neeson-chairperson/oclc/154640342#borrow

・1999年の米国アカデミー・プレス、医学研究所、神経化学・行動科学局の報告書「マリファナと医学---科学的根拠の評価」
"Marijuana and Medicine: Assessing the Science Base"The National Academies Press
http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=6376

・1999年のスイス公衆衛生局、スイス連邦薬物問題委員会の報告書「スイス連邦薬物問題委員会による大麻レポート」
"Cannabis Report of the Swiss Federal Commission For Drug Issues (EKDF)"
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=swiss%20drug%20committee%20cannabis%20report&source=web&cd=3&ved=0CDoQFjAC&url=http%3A%2F%2Fwww.ukcia.org%2Fresearch%2Fekdf.pdf&ei=xq9uT868A-7xmAXp_ZDABg&usg=AFQjCNFezX-SkWfy8gLTxNv1Z9kgNhRtWw&cad=rja

・2000年の英国警察財団「薬物と法律:1971年の薬物誤用法に関する自主調査報告書」
"Drugs and the Law - REPORT OF THE INDEPENDENT INQUIRY INTO THE MISUSE OF DRUGS ACT 1971"
http://www.druglibrary.org/schaffer/Library/studies/runciman/default.htm

・2001年の総理府ガンジャに関するジャマイカ国内委員会「ガンジャに関する国内委員会報告書」
"A REPORT OF THE NATIONAL COMMISSION ON GANJA"
http://www.cannabis-med.org/science/Jamaica.htm

・2002年の違法薬物に関するカナダ上院特別委員会の報告書「大麻:要約レポート:カナダの政策に関する見解」
"CANNABIS: OUR POSITION FOR A CANADIAN PUBLIC POLICY" (SUMMARY REPORT)
REPORT OF THE SENATE SPECIAL COMMITTEE ON ILLEGAL DRUGS
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=summary+report+canada+policy+cannabis&source=web&cd=1&ved=0CCcQFjAA&url=http%3A%2F%2Fwww.parl.gc.ca%2FContent%2FSEN%2FCommittee%2F371%2Fille%2Frep%2Fsummary-e.pdf&ei=cbNuT9_8HITImAXB54y2Bg&usg=AFQjCNEDGDAMQTO2H6xidm9XoiXPmWONSA&cad=rja

・2002年の英国下院、英国下院内務委員会「内務委員会第3報告書」
"Home Affairs - Third Report"House of Commons, 2002
http://www.parliament.the-stationery-office.co.uk/pa/cm200102/cmselect/cmhaff/318/31802.htm

・2002年のジョーゼフ・ラウンドトリー財団「クラスB薬物としての大麻の取り締まり」
"The policing of cannabis as a Class B drug"Joseph Rowntree Foundation, 2002
http://www.jrf.org.uk/publications/policing-cannabis-class-b-drug


●日本の大麻報告書は3つあります

厚生省薬務局麻薬課編『大麻』
厚生省、1976年、全92ページ、データ容量6.84MB

<概要>
厚生労働省がまとめた大麻草に関する唯一の冊子。大麻草の起源、植物の特性、薬理成分、
大麻の鑑定法、大麻の作用、医薬品としての大麻、大麻の乱用、大麻の取締り、大麻の社
会学的考察についてまとめてある。

→ 古典ですが、一応、伝統から医療までを網羅した必読の基本書。
  

依存性薬物情報研究班(編)「依存性薬物情報シリーズ No. 1 大麻」
厚生省薬務局麻薬課1987 年、全144ページ、データ容量4.1MB

<概要>
厚生労働省が上記の「大麻」の冊子の改訂版を薬物専門家をあつめて発行した冊子。
大麻とは、大麻の鑑定法、大麻の薬理作用、大麻乱用の臨床、大麻の乱用、大麻の法規制について
まとめてある。主に病院・医療関係者向けに解説している。

→ 大麻の薬理作用について有害・無害に偏りなく中立的に書かれた「マリファナの科学」
  (築地書館)と比較すると恐ろしく、偏った見解が多い。
  約25年前の見解だからという理由は通用するのだろうか?


依存性薬物情報研究班(編)「依存性薬物情報シリーズ No. 9 大麻乱用による健康障害」
厚生省薬務局麻薬課1998 年、全135ページ、データ容量5.6MB

<概要>
アメリカで発行された「マリファナと健康ー連邦議会に対する第8次年報(1980)~」を
の翻訳を中心に薬物専門家によって書かれた冊子。他には、大麻にょって発現する動物
の異常行動、大麻性精神病、大麻無害論は成立するか、という内容。

→ 大麻無害論は成立するかという内容は必見。厚生労働省の考えがよくわかる。
  10年に一度ペースでレポート出しているので、この次のレポートはあるのだろうか???


●海外事例:カナダの公的レポート

 カナダは、薬物規制・物質法(1997年)における産業用大麻規則(1998年)を制定して大麻草の食用や繊維利用するための農業栽培を解禁し、下記レポート(2002年)を受けて医療大麻利用規則(2003年)を制定して医療利用への道を拓いた。


「大麻:要約レポート:カナダの公共政策に関する見解」違法薬物に関するカナダ上院特別委員会の報告書
CANNABIS: OUR POSITION FOR A CANADIAN PUBLIC POLICY" (SUMMARY REPORT)
REPORT OF THE SENATE SPECIAL COMMITTEE ON ILLEGAL DRUGS
発行年:2002年9月、全54 ページ
発行機関:Senate Special Committee on Illegal Drugs

本報告書は、カナダの国会議員が設立した「違法薬物に関する上院特別委員会」が大麻に関する研究をまとめたものである。

結論:

 カナダの違法薬物に関する上院特別委員会(以下略:委員会)が現在のカナダの大麻に対する政策を検証するにあたり、規制薬物・物質法(1997年施行)の中の大麻規制が社会にどういった影響を及ぼしているか、法律の効率の良さはいかがなものか、そして現在世界中で実施されている大麻の医療用の使用及び社会への影響を研究した書籍やレポートを考慮した上で、今後カナダは世界中の国で大麻取締の法律が変わりつつある上で何を考えて行くべきかをまとめたのがこのレポートである。

過去二年に及びカナダの研究者、及び他国の研究者は膨大な量の資料を読んでいる。これを考慮した上で委員会はカナダに住む一般人の大麻に対する態度、及び違法薬物に対する態度を検証してきた。このレポートの各章に様々な面から見た大麻規制の法律に対する意見、結論を述べている。違法薬物として取り扱われてきた大麻の再検討が目的である。

この結論文はレポートに含まれている全ての情報を考慮した上での委員会の結論文である。我々が思うには、民主主義の役割は、人々の自由を尊重しつつ、なるべく少ない規制を施すのが義務である。違法薬物に対する法律を決める際に検討しなくてはならないのが、人々の健康、安全性、そして社会で活動する人々の一人一人が自分の幸せを追求するために必要な手段を取れる自由性を与える事である。そしてその幸せを追求するにあたり、社会の一人一人がどういう形で幸せを追求するかを決めつけず、他人の意見に敬意を示す事である。

30年前にレ・ダイン委員会が大麻に関するレポートを発行した。この委員会は我々より遥かに多い財政援助を受けていた。しかし、我々はレ・ダイン委員会が発行した資料をも使う事が出来たため、30年前の資料が少なかった時代にされた研究に比べれば物凄く発達した研究をする事が出来た。レ・ダイン委員会が結論付けたのは、大麻規制の法律は科学的根拠も無く施行されたという事であった。30年後の今も、我々は同じ結論にたどり着いている。大麻が危険であるという結論には、科学的根拠が全くないのである。

レ・ダイン委員会は今カナダが大麻規制の法律を施行した理由でもある、大麻が引き起こすと言われている「何事に対しても無関心になってしまうこと」、「集中力の低下」、「学習力の低下」に対し、実際に立証はされてはいないが、何らかの規制をかけるべき可能性があるとしている。30年後、我々がたどり着いた結論はこういった大麻が「やる気の無くなる」影響を及ぼすという結論は全くの立証されていないという事だ。

レ・ダイン委員会は大麻の長期的使用、及び過度の摂取が人体に及ぼす影響は何も分かっていないとも述べている。我々は現に長期的、及び過度に使っている人々がいる事を承知し、それが人体に何らかの影響を及ぼすとは思うが、現にそういった使用をしている人々の数は少ないとされている。カナダの政策はこういった過度の使用、及び長期的使用が人体に悪影響を及ぼすのであれば、それに対して何らかの戦略を打つべきであるのだが、現在の政策はそういった戦略が全く無い。

レ・ダイン委員会は大麻の長期的利用が若者の脳の発達に影響を与えるという結論にたどり着いているが、その影響の度合いは膨張されていると言える。我々がたどり着いた結論は、こういった影響はあるにしても、多くの場合その影響は時間があれば改善されるという事だ。その上、こういった過度に使っている若者等は大勢の若者の内のほんの一部であるという事だ。若い内での過度摂取などを防ぐためにも、今とは違った政策を作らなければならない。

レ・ダイン委員会は、大麻の使用が他の違法薬物の使用に繋がる(特に若者の内)という事を心配している。オランダの30年にも及ぶ大麻の合法を見ると、これは明らかに間違っているという事が見て分かる。スペイン、イタリア、ポルトガルも同じだ。ここカナダでは、大麻の使用者が増える一方ではあるが、それ以外の違法薬物の使用が増えているという結果は出ていない。

レ・ダイン委員会は合法にする事によって若者の間で大麻の使用が増えるという事も心配している。しかし、カナダでは大麻の使用が許可されてないのに、比率的には世界中でもっとも多くの使用者がいるという数字が出ている。実際に大麻が合法されている国に比べると、我々の方が大麻の使用者が多い。その数字も合法により一時的には増えたが、時間が経つにつれ使用者の数も安定した。

30年経った今、我々が述べたいのは:

・何十億ドルという費用を大麻の取締に使ったにも関わらず、使用者が減る傾向が無いという事。
むしろ、使用者、常用者、若者の使用率は増える一方である。

・何十億ドルの費用を使い大麻の栽培量を減らそうとしたが、これも全く影響が無いようである。むしろ、大麻が民間の間で出回っている量は過去に無い程大量だ。栽培の規模も大きく、輸出までし、犯罪者を金持ちにする上、犯罪者に力を与えているという事になる。

・今まで何万という人が大麻所持で逮捕され、刑務所に入れられてきた。しかし使用率は変わらず、警察と民間の間の摩擦は増える一方である。

気付くべきことは、我々の政策は全く無意味、無力、そして無駄だという事だ。医療面、犯罪面、他の国との関係(特にアメリカ合衆国)を考慮した上で、我々は以下の大麻規制の法律の改正を提案する。


・大麻を使用してもいい人:
医療目的での大麻の使用が認められている症状を持ち、その症状が医者等によって認められている人々。この人達は大麻を購入する際、国が設立した医療機関から購入すべきである。

・大麻を配給しても良いという免許:
カナダ人は、医療目的での大麻及び大麻から作られた製品の配給を許可する。配給しても良い人は上記の大麻を使用して良い人に限る。誰にどの量を売ったかという記録を確実に残す事。そして大麻の使用でどういった効果が見られるかを記載すること。大麻及び大麻から作られた製品が使用上安全であるという検査を定期的に行う事。

・大麻を栽培していい人:
カナダ人は大麻を医療目的に栽培する権利を得る事が出来る。権利を取ったものは医療目的以外での栽培を禁止する事。栽培した大麻の量が定められている事、そして栽培された大麻が使用するにあたって安全である事。栽培所が安全であること(泥棒などが入らない様)。栽培された大麻に含まれるデルタ-9THCの量が大麻規制法の規制内であるという事。栽培された大麻が大麻を配給しても良いという免許を持っている団体に限られる事。

・他の提案:
医療目的での栽培や売買から税金を取る事。大麻産業の解禁。
今後の大麻の医療目的に対する研究機関を作る事。
大麻及び大麻から生産された製品が一般人に及ぼす害を認識し、人体への影響もう考慮した上で過度摂取や大麻の危険な使用を防ぐために法律を変える事。


●海外事例:オーストラリアのレポート

タイトル:1994年の豪州保健高齢福祉省、オーストラリア政府出版サービス
「オーストラリアにおける大麻に関する立法上の選択肢:連邦政府からの委託による報告書」
Legislative Options for Cannabis Use in Australia
発行年:1994
ページ数:Not Availalbe (http://www.druglibrary.org/schaffer/library/studies/aus/cannabis.htm)
発行機関:Commonwealth of Australia
発行機関メンバー:David McDonald, Rhonda Moore, Jennifer Norberry, Grant Wardlaw, Nicola Ballenden


第一章:イントロダクション

このレポートは、オーストラリア犯罪科学機関が政府の立ち上げた大麻取締班の要望で作られた「政府が大麻に対してどういった法律を立法し、立法した際にどういった社会影響等が見られるか」等を検証するものである。このレポートは今後オーストラリア政府の薬物政策の改善に使われる可能性がある。


第二章:大麻取締法の方針

 法律を立法する際に最も重要な点はその法律が定められた目的がはっきりしている事である。薬物取締法が果たすべき目的がはっきりしているかどうかと言う点は不思議な事に滅多に目にする事が無い。殆どの場合、その目的は曖昧すぎたり(例えば世界中での違法薬物の使用を減らす事)、時には現実的に無理な目的であったりする事が多いので(世界中から違法薬物を消し去る事)、その結果人や地域によってその法の解釈の仕方が変わってくる。そしてこういった法の目的が曖昧であったり、現実的でない結果、様々な政治的に矛盾している戦略が出来上がったり、膨大な費用が違法薬物取締に使われる事になる。

 このレポートは何故はっきりと考え抜かれた薬物政策を立てなければいけないかを検証し、大麻取締法を再検証する物である。法律の目的とその法がどれだけ社会で認められ、簡単に人々に従えてもらえるかが検討すべき点である。次に述べる様な点を再検証して貰いたい:

1. 一つの薬物に対する法律は違う薬物に対する法律と同じでなくても良い事。

2.薬物政策は各薬物が人体に及ぼす影響を考慮した上で各薬物に対して立法されるべきである。

3.立法された法律の詳細が社会に及ぼす影響を決めると言う事を理解する事。適当な法律や曖昧な法律は決してただ事では無い事。

4.違法薬物の使用を制限し、その結果を検証したい場合、違法薬物が使用される量と使用されるパターンに目を通す事。

5.違法薬物の使用を制御するのであれば、制御する際にその法律が及ぼす社会へのコスト及び法律を強制する容易さを検討しなければいけないこと。

6.個人が違法薬物を使用した結果(例えばどういった影響を人体に及ぼすか等)と薬物を使用する人のモラルは別に取り扱う事。

7.違法薬物取締法を改正するさい、どういった形で改正するかで様々なオプションがあるが、そのオプション内で決める際は社会へのダメージ、悪影響を最小限に抑える方針を取る事。

8.どんな法律であっても、違法薬物が生む問題は常に変わりつつあり、法律もその変化に沿って変わるべきである。よって、法律は常に現状に適しているかを問わなければならない。

9.法律を立てる際、その法律で社会をコントロールするコストとそのコンロトールで生まれる利益を踏まえるべきである。

10.薬物政策のゴール、目的は現実的ではならない。

11.法律の方針を決める際、その方針によって具体的にどういった社会への悪影響を減らすかをはっきりと述べる必要性がある事。

12.大麻取締法及び一般的な薬物政策は様々な違う目的、及び矛盾した目標がある事を考慮しなければいけない。

13.大麻取締法で大麻の使用者を減らしたいなら、その結果がはっきりと出ていない場合、その法律を変えるべきであること。

14.薬物政策で生まれる社会への悪影響は取締法が無い状態が引き起こす悪影響より少なくなければいけない。ではないと、取締法の意味が無くなってしまう。

こういった点を現状に適応すれば、大麻取締法及び薬物政策に関するはっきりとした目的、及びその法律で達成したい目標が見えてくるはずである。当然、目的の優先順位をはっきりと述べる必要も出てくるだろう。


第三章:大麻に関する歴史、法律、国際条約

 大麻は何千年も前から様々な形で使われてきた。その用途は服や縄、医療、そして精神活性等である。オーストラリアでは大麻は1960年まで医療目的で使われ、現在も世界中で医療や繊維の為に我々が耳にする大麻ではなく、「ヘンプ」として愛好されている。

 オーストラリアの違法薬物取締法は、他の先進国と似ていて、違法薬物に対する国際条約が発展のきっかけで国内でも違法薬物取締法を立法した。特に米国の影響が強かったと言えるだろう。1925年に立法されたジェノバ・コンベンションはアヘンと他の薬物に対して初めて出来た法律で、その中に含まれていたのが大麻である。この法律により大麻は医療目的、及び研
究目的にのみ使用を許されたのである。現状は1925年とは変わらずのままである。

 オーストラリア及び他の国では違法薬物の使用及びその運搬に様々な形で目が向けられてきた。オーストラリア人は違法薬物取締法を変えるに当たって、相当の注意を払っている。しかし大麻に関しては、多くのオーストラリア人が大麻取締法は変えるべきでは無いかと思っている事が多い様だ。

 オーストラリアでは大麻の存在は1960年まではあまり知られていなかった。しかし1800年代後半、及び1900年代前半にアヘンに対する違法薬物取締がオーストラリアの各州で厳しくなり始めた際に、大麻に対する法律も出来始めた。オーストラリアで最初に大麻に対する法律が立てられたのは1928年のビクトリア州で、その法律はインドから輸入されたヘンプ及びヘンプの樹脂の許可無き使用を罰する事であった。それ以降、オーストラリアの他の州でも似た様な法律立てられた。そして1960年を境に連邦は大麻の使用、及び輸入に対し、厳しい目で見始めるようになった。1960年代から70年代に大麻の所持、使用、栽培に対する罰則はピークし、それ以降は徐々に罰則のシビア度が減りつつある。

 オーストラリア内での大麻取締法に対して一番注目すべき点は、1987年に南オーストラリア、そして1992年にオーストラリアの首都区で立法された大麻取締法の緩和である。その内容は、大麻の使用、所持、そして栽培を発見された者はその場で問題を解決する事である。例えばその場で罰金を払った場合、裁判所に行く必要は無い等、以前に比べて刑は軽くなった。

 違法薬物に対して意見を持っている人々の多くが考えなくてはいけない事は、現状の違法薬物取締法の効率の良さを問い、もし違う形で強制する事が可能なのであれば、その法律の良い点と悪い点を検討すべきと言う事だ。


第四章:大麻取締法を変えた場合の選択肢

大麻取締法を変えるのであれば、その変化によって見られる社会への影響を検討すべきだ。大まかにその点は度合い別に下記の五つである。

1.大麻の使用を全面禁止
2.大麻の使用を禁止するが、見つかった場合軽犯罪として扱う
3.大麻の部分的な禁止
4.大麻の使用を規制する
5.大麻の使用を許可する

1.大麻の使用を全面禁止した場合、大麻の使用、所持、栽培、輸入、売買、そして分配を犯罪として扱う事になる。

 アメリカでは、違法薬物の使用を全て除去するのが目的であり、違法薬物の使用を全面禁止するのがその目的を達成するための最善の策だとされている。大麻はもっと壮大なスケールで起きている違法薬物問題の内の一つとして扱われている。しかし、アメリカ及び世界中で違法薬物の使用を全て禁止しようとしている国は明らかにこの目的を達成出来ていない。経済と社会両方へのコストは莫大であるのは明らかだ。大麻は他の薬物と同じ扱いを受け、大麻を使用した結果とその使用に関するモラルは別の物として扱われて無く、違法薬物を国から完全に除去するという目的も現実的ではなく、法律が社会に及ぼすダメージの方が違法薬物が人体に及ぼすダメージより大きいのは全て明白である。

 オランダはアメリカと似た様な政策を施している国々とは違った形で違法薬物の全面禁止を施している。オランダの法律ははっきりと「薬物使用のリスクが高すぎる物」と「大麻製品」を割り切っている。その上、法律では警察が自己判断で法律を強制すべきかどうかを選べるとされ、その判断基準は「法律で罰する事が社会へ良い影響を及ぼすか」と言う物である(現にこれも曖昧ではあるが)。この法律によると、大麻の少量の所持、使用、栽培は警察はを調査しないし、逮捕や罰金を払わせる事も無い。大麻製品を店等で販売している人達には注意を払っているが、実際に警察が絡んだりする場面は販売している者が大勢に広告している場合や、大胆な接客をしている場合である。現実的に考えて、オランダは大麻の使用によって人を罰するのではなく、大麻を使用しつつ、社会にある程度貢献出来ていればそれで良いと言う考え方で法律を強制している。この法律によってどういった大麻の使用パターンが見られるかという研究をした結果、オランダでは大麻使用者は増えていず、むしろ全面禁止が施されているアメリカより使用者の割合が少ない。結果、オランダで施されている法律は大麻が及ぼす社会への悪影響を減らすと言う点ではアメリカより成功していると言えるだろう。

2.二つ目の政策は、大麻の使用を禁止するが、見つかった場合軽犯罪として扱う事である。

この政策の場合、大麻を個人使用のために所持したり栽培している所が警察に見つかった場合、罰金を払うだけで済むとされ、刑務所に送ったり裁判所に行っていくらの罰金を払わなくてはいけないかを決める等言った事はしない。しかし、売買目的等の大量の所持、栽培、及び分配は犯罪として見なされる。1987年に南オーストラリアそして1992年にオーストラリア首都圏で立法された法がこれである。

 この法は大麻が他の薬物と違う影響を人体に及ぼす事を考慮しているため、このレポートの最初に述べた効果的な違法薬物取締法の強制の仕方に値していると言える。大麻に対し明確なペナルティが目に見えると言うのも利点だ。社会へのコストも削減でき、大麻の使用パターンを理解した上での政策と言えるだろう。

 この政策でもっとも問題視されている面は、犯罪者として見なされる人々が個人の収入によって偏ってしまう可能性があることだ。現に南オーストラリアでこの法律が従われているので、犯罪者のデータを見ると、その多くが貧しい生活を送っている人々に偏っている。その上、南オーストラリアで大麻を使用している人達は大麻の全面禁止を施している州の人達と同じ人口動態なので、この偏りは法律によって生まれた物と言える。何故なら、貧しい生活を送っている人程大麻を売る動機があり、裕福な生活を送っている人は大麻を栽培する時間も無ければ、大麻を販売して貰える利益の必要もそれほど無いからである。

3.三つ目のオプションは大麻の部分的禁止である。

 この選択肢は大麻の生産及び分配を規制しつつ、大麻の栽培や販売等を犯罪として見なす時に生まれる社会へのコストを最小限に抑え様とする物である。大麻の部分的な禁止をした場合、大麻の大量生産及び大量分配は犯罪として見なされる。しかし少量の個人目的での栽培、所持は許される。この選択肢を選んだ場合、様々な形で法律を強制する事が出来る。スペイン等はこのモデルに似た様な物をを使っている。イタリア等では所持と使用を法律上禁止にはしているが、罰則は全く無いとされている。このモデルを使っている国のデータを分析すると、どのケースでもこういった法律により大麻の使用が増えたという事は無い。

 大麻の部分的禁止するモデルは大麻の生産を根っから制御する事が目的である。これによって個人及び社会への負担を減らすのが目的であり、個人が使用及び所持するのを許可すると言う点が最も有益だ。しかしこのモデルを使い、完全に法律として立法した国がまだいないので、どれだけ有効に社会への悪影響を減らせているかが明白ではない。このモデルによって大麻の使用者が増えると言う点が一番注意深いが、他のモデルのデータを見ると、人は逮捕されようがされなかろうが大麻を使用する事が多く、見つかった場合に払う罰金の量が使用者を増やしたり減らしたりすると言う根拠も全く無いのである。

4.四つ目のオプションは、大麻の使用を規制することである。

 このアプローチでは、生産、分配、及び販売を政府が取り扱う事である。この法律が施されていない区域等への輸出等は犯罪として見なされる。しかし個人の使用は無問題である。このモデルを使った国は無いが、オランダが現在施している法律がこれに似ていると言えるだろう。オランダの政府は大麻の栽培免許等を発行してはいないし、オランダ中にあるコーヒーショップや青少年センターは大麻製品を販売している。この政策が既に施されている違法薬物がオーストラリアではある。例えば、アヘンなどは政府しか持てない免許でタスマニア州で栽培されている。タバコ、アルコール、及び様々な医療薬品がこの規制を従っている。

 この規制を施す事によって政府は大麻の生産、分配、そして販売を出来るので、大麻に対して高い金額を設定し、多額の税金を手に入れる事も可能だ。このオプションの利点は、どんな大麻取締法を施しても大麻の使用は消せないと言う点を考慮した上で、大麻が繰り出す社会への負担を最小限に抑える物だ。

 この政策が成功するかどうかはどういった形で政府が規制するかで決まる。政府が考慮しなくてはいけないのが、政策が闇市場を完全に消す事が出来るかどうかである。仮に高すぎる価格で大麻を売ったりすると、闇市場での取引が続く事になるからである。栽培許可、分配許可、所持許可等様々な許可証等をモニターするとなると、それなりの営業費もかかってくるので、それも考慮しなくてはいけない。バランスの良い政策作りが重要だ。大麻に対する見方を変えると言う事で、社会的に認められなくてはいけなくなると言う大きな課題もある。何故今まで違法だったか、何故今になって安全と言えるのか等を社会にいる人々達に理解してもらわなければいけない。

5.最後のオプションは大麻の使用を完全に許可する事である。

 全面禁止と似て、このオプションは極端な例である。栽培、分配、使用、所持等全ての面で許可を下ろす事だ。現時点では
こういった制度を施している国は無いが、1920年以前にオーストラリアで使われていた法律だ。しかし覚えておくべき事は、1920年以前は大麻の使用が少なかったという事だ。多くの政治家が大麻取締法の改善を望んでいるが、全面解禁までと言う人はやはり少ない。やはり何らかの規制があった方が良いと皆感じているのだろう。車を運転する際に危険な事や、栽培時に使われる殺菌剤が微量に残っていた場合の危険性、子供による使用の危なさ等がその理由と言える。こういった政策がオーストラリアで認められるのは政府が投げやりな態度を取るのと同じ様な物なので、難しいだろう。


第五章:薬物依存に対する処置

 大麻の所持や使用、販売等で捕まった犯罪者は薬物依存で治療を受ける事が可能である。いつそういった処置をうけるかはケースバイケースで、逮捕前、裁判前、有罪判決前、そして有罪判決後である。薬物依存に対する処置を施す機関の多くは裁判所と警視庁とは別に成り立っている事が多い。こういった薬物依存者に処置を施す病院等は大麻だけでなく、アルコール、覚
醒剤等、様々な薬物に対する処置を行っている。大麻の使用でこういった機関に行く人は物凄く少なく、仮に行ったとしても、大麻に対する依存症を見せている理由の多くが精神の病であったり、生活のパターンの中にあったりする事が多いとされている。大麻に関してはこういった対処方は医学的にも幅広く認められている。


第六章:上記の大麻取締法の改善策の評価

 大麻取締法を改善しなくてはいけないと思う人は多いが、実際にそれを実施するとなると政府がなかなか動かないのが現状だ。オーストラリアを含む多くの欧米各国が違法薬物取締法の改善や監視に力を入れていない事が多い。改善策の導入の仕方と改善策の成功度の研究は全く違う物であり、その結果身動きが取れない状態にあるのが多い。正しく法律を改善したいなら、
それなりの時間と金額を費やす必要があり、改善策が施されてから何年後も研究及び検証を続ける必要がある。

 1993−1997年の間に行われたオーストラリアの違法薬物取締法の改善に対する戦略がこのフレームワークとなっている。当時の戦略は「違法薬物による社会への悪影響を最小限に抑えること」であり、同じ様な目標が大麻取締法に適応すべきだと我々は思う。政府が取締法を変える際に取る手順は大きく分けて二つである。徐々に制度を変えるか、もしくは最初に何が一番正しい選択肢かを決め、その制度に変える事である。


第七章:結論

 オーストラリアの違法薬物に対する戦略(社会への悪影響を最小限に抑える事、等)は大麻にも適応すべきである。今まで述べたアプローチが社会をより良い方向へ進める事が出来るのは明らかである。
 
 大麻取締法を改善する最善策は無いかもしれないが、一番重要なのは政府が違法薬物及び大麻の取締に対してどういった目標を設定するかである。我々が述べた政策の五つの内の二つは社会への悪影響が多いため、不適切であると感じている。

 その二つの政策は、完全禁止と完全解禁である。オーストラリアでは完全禁止が及ぼす社会への影響が大麻が人体に及ぼす影響より悪いと我々は感じている。無論、完全解禁も不適切であると思う。我々は政府が人々の幸せを重視すると信頼しているので、この両極端な選択肢を選ばず、何らかの処置を取って頂きたい。

 結果、この国には大麻取締法を変える必要性があると我々は結論付けた。様々なオプションがあるが、その中で社会への負担がかからない選択肢を政府に選んで頂きたい。


●日本でも同じような公的な報告書をまとめるべきである。

日本では、1976年、1987年、1998年と10年置きに厚生労働省が大麻草のレポートをまとめてきたが、2つの脳内マリファナの発見やカンナビノイド受容体の発見からわかった最新の知見に基づいた大麻草の評価をしていない。

日本に大麻の臨床試験の専門家がいない=大麻取締法第四条で制限されているので、難しいかもしれないが、これらの海外事例を参照して、国会議員の厚生労働委員会で大麻政策プロジェクトチームでも立ち上げていただいて、この薬物政策をどうするのかを検証し、一定の方向性をもった報告書を発行してもらいたい。


以上


   




各分野のレポートに戻る