12年7月号
          第1回日本麻フェスティバルin栃木が開催
          〜日本全国の麻産業の担い手が集結の巻〜





●日本一の生産県だが、絶滅の危機にある野州麻!

 戦前は、5000ヘクタール(ha)あった大麻草の作付面積もいまや5ヘクタールと1000分の1に激減。
戦後の高度成長期において農業そのものが衰退していったという構造的な問題に加えて、麻は化学繊維の普及による需要減少と大麻取締法の規制という2つの要因により、さらなる激減となった。かろうじて生き残っているのは、ここで紹介する伝統的に麻を必要とする方々のおかげなのである。
その伝統産業の担い手が一箇所にはじめて集まった記念すべきイベントが「第1回日本麻フェスティバルin栃木」である



出典:栃木県立博物館「野州麻ー道具がかたる麻づくり」


●6月23日 日本麻フェスティバル開会



栃木県鹿沼市の市民文化センターで実施された。500名入るホールにだいたい300名ぐらいいたように思われる。全国各地から麻に興味・関心のある方が参加していた。

私の方で撮影した日本麻フェスティバルの挨拶部分をユースト録画公開している。地元の麻農家で日本麻振興会の理事長の大森さん、栃木県知事(代理)、鹿沼市長の挨拶、来賓の市議会議長、地元選出の福田衆議院議員、県議会議員などが登場。
主催は、日本麻振興協会(1450名)である。



●麻を全国に広めた忌部(いんべ)氏のお話



基調講演は、林博章先生。古代史研究家であり、忌部族研究の第一人者である。あまり知られていないが、麻は3-4世紀に徳島から全国に広めた忌部族の功績なのである。

麻文化の未来と日本再生への提言として、「大麻」の呼び名を阿波忌部族の精神に基づき、大麻(おおあさ、おおふさ)、麻(あさ、お)と呼ぶことを提案する。林先生が高校の先生をしていることもあり、大麻(たいま)とストレートに呼ぶのは抵抗があり、また大麻合法化運動と一線を区切るためにも、大麻(おおあさ)という意図がある。

麻文化の復興については、
1)縄文以来続く、約10000年に及ぶ日本文化の経糸となる麻文化のDNAを後世、子孫の時代にまで継承すること。
2)借り物の日本文化ではなく、本物の日本文化の継承・発展から新たな未来産業を生み出す
3)現在の大麻取締法の見直し。それは法に日本文化や歴史へのまなざしを求めていくこと。
4)本物の麻文化を取り戻すこと
   麻は、人間と自然(大地)との仲介役を果たしていた。自然や人間の絆が切れた現在、森の思想や未来に向けた生命文 明の世紀、自然循環社会を構築する柱となるだろう。

まずは、忌部に関する学習会の開催、日本麻フェスティバルの毎年の開催から実施していくということであった。


●天皇の儀式・大嘗祭(だいじょうさい)における荒妙(アラタエ)



次の講演は、三木信夫さん。天皇陛下の即位後、はじめての新嘗祭(にいなめさい)は特に大嘗祭(だいじょうさい)という。大嘗祭は、前王の霊的パワーを引き継ぎ、天皇が現人神となる神事である。この神事のときに、阿波の国からは代々、麻で織られた鹿服(アラタエ:荒妙とも書く)が謙譲される。このアラタエは大嘗祭の中で、特別な貢物で、このアラタエがないと大嘗祭が開催できないのである。

現在の平成天皇陛下の大嘗祭の開催のために、木屋平村で特別に麻が育てられ、山川町の忌部神社でアラタエが織られて謙譲されている。この行事を司っているのが阿波忌部の直系の末裔である三木家である。

三木さんの話はたいへん良かった!話をまとめると、
 ・伝統技術を継承し残していくには時間と労力と資金が膨大にかかること
 ・日本一の生産県でも麻産業が衰退する中で、今度どうして残して行くのか皆で考えないと状況は打開できない
 ・大麻取締法が何をするにもネックであり、この縛りがある中では悲観的にならざるを得ない。
 ・一口に麻いっても麻織物に適したもの、紙に適したものなど、品種による違いがある。それを考えなければならない。
 ・若い人が麻栽培を始めるに当って、経済的に成り立つにはどうすればよいかきちんと考えなければならなない。

伝統的な儀式の解説にとどまらずに、三木さんは、元銀行マンらしく、経済的な視点と法律的な視点で冷静に語っていたのがすごく良かった。


●日本の麻の伝統産業が集結!



別会場の体育館では、太鼓、畳糸、左官材、茅葺き屋根、麻織物、凧糸、下駄、弓弦、簾、天皇の儀式、横綱の綱、みんな大麻でできたものを展示および実演をしていた。


茅葺き屋根:一番したの層だけがオガラ(麻の繊維を剥いだあとの茎)



畳糸:畳は横糸がイグサで、経糸が大麻、ここの畳糸は、畳表と床を縫い上げる縫い糸=大麻糸



太鼓の糸:全国でも大麻の糸にこだわっているのは数軒しかいない。麻は伸びがないのでよく締まるのである。



横綱の綱:現役の横綱の白鵬関のものを借りて会場に展示。大麻繊維は強さと清らかさの象徴。


 簾(すだれ)から下がっている房が大麻繊維(精麻)。


 奈良晒の方は来ていなかったが、替わりに?那須高原の大麻博物館館長による麻績み実演(カッコイイ!)


 日光下駄:このブランドは栃木県伝統工芸品に指定。下駄の鼻緒には栃木県産大麻繊維の使用が義務付け。


 栃木の名産品の建具:麻の葉模様が美しい! ここでは建具材を使った麻の葉模様の飾りを実演

 弓弦:元々は竹に麻が弓の基本素材!

 
新潟県の白根の大凧:縄や紐が大麻。けんか凧なので切れない丈夫なものがよい。迫力満点!


 土壁や漆喰の左官材には「麻すさ」が必須。壁のひび割れ防止のために麻の短い繊維を使う。


●2日目のフェスティバル&うさぶろう展


 伊勢神宮のお話と太鼓や舞いが披露され、多くの方がその姿に魅了された。



 偶然にも「うさぶろう」のイベントもあったので、そこにも立ち寄りました。
 うさぶろうさんは、タイのヘンプとオーガニックコットンを使った服をプロディースする服飾デザイナー。
 


●未来に向けて



次回(来年)は、徳島県で日本麻フェスティバルを開催する。開催のときまでには、地元で大麻栽培の免許を取得できることが望まれる。日本全国で写真のような麻畑を復活させることが、次世代の私たちの使命である。

日本文化を支えてきた麻が消えようとする中で、踏ん張れるかどうか関係者とその応援団の努力にかかっている。


以上

   




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